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シミュラクル!〜サブ垢に転生した俺は何度でも『強くてニューゲーム』する〜  作者: やご八郎


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#78.更新──ワールドクエスト

 ◇◇◇フィリス壁上──


 ゴルドー生還の一報が⦅指揮通信⦆の網を駆け抜けた瞬間、壁上から城内へ、押し殺していた歓声が破裂した。第三大隊の若い連中が槍の石突を床に叩き、鍛冶屋の金床みたいな音がカンッ、カンッと続く。

 胸の奥の何かがようやく息を吐いた気がして、俺は手摺を握り直す。


 間髪入れず、各大隊長の声が念話で澄んだ紐のように連なってくる。


『こちら第二大隊長、ラッシュ・マッケンジー。ゴルドー殿、生還お見事。──また一つ、武勇伝が増えましたな。現時点、第二大隊の被害はゼロ。応急陣地もほぼ無傷。翼壁の防御任務、継続します』


 落ち着いた低音。言葉の端々に老練な手触りがある。


『ミルダだ。ゴルドー老!! 生きてて嬉しいよ。第三大隊も被害なし! 壁外の蟲はまだ動いちゃいるけど、壁をよじ登るのは一匹も見当たらない。まさしく“蟲の息”ってやつさ。……ったく、“黒門” の威力には恐れ入ったね。手下どもはさっきから怯えちまって──まるで産まれたての子牛みたいになってやがる。こらッ! てめぇら!! もっとシャキッとしな!!』


 「「「お、おう!!!!」」」──叱咤に即応する声。震えが笑いに変わる気配。


『第四大隊、ギュスタヴ。被害なし。うるさいハエどもは、いまだ散発的な特攻を繰り返しているが、もはや大した脅威ではない。数が多い、よって防空任務を続行する。……ゴルドー、くたばり損ないが。早く回復してこちらを手伝え。以上』


 皮肉が風刃みたいに乾いて刺さる。だが底に安堵が沈んでいるのも、声でわかった。


『第五大隊、被害なし。同じく防空任務を継続。ゴルドー殿、ご無事で何より』


 セルゲイは短く、用件だけ。

 全大隊、被害なし──意識のどこかで繰り返して、俺はゆっくり息を吐く。


 青黒い焔は地を舐め続け、地表の影という影を燃やしている。壁の上では、勝利の匂いが薄く漂い始めていた。カシスみたいに甘い、油断とも昂揚ともつかない匂いだ。


(……違う。まだだ)


 額の汗が、冬の風に冷たくなっていく。俺は知っている。終わる時には“天の声”が即座に鳴る。それがいま鳴っていないという事実は、つまり──。


「ミレッタ、魔力感知は動くか?」


 隣の黒衣に問いかける。彼女はつば広の帽子を指先で持ち上げ、瞳だけで周囲の魔力の糸を辿った。


「うう〜ん、少し難しいわね。辺りの魔力場がめちゃくちゃ。この焔、あまり綺麗な編み方じゃないのよ。読むにはちょっとコツが要る。でも──大きな魔力が一つ、こちらに近づいているのを感じる。間違いなく……」


「キース!! 女王は生きてる!! もう近い!!」


 彼女の言葉を最後まで待たず、俺は声を飛ばす。念話の網の向こうで、キースが弾かれたように応じる。


『ッ遠見台、女王が近づいています!! 確認を!!』


『ま、まさか!? 近寄る蟲など何処にも見えません!!』


 遠見台が視野を細く絞った。青黒い焔はまだそこかしこでゆらめいているが、蟲達はまるで凍ったように動かない。壁上の視線が一斉に野へ吸い寄せられた。


 …………


 投石台の軋みも、兵の足音も、一瞬だけ水の底に落ちたみたいに遠のく。戦が始まってから初めて訪れる、長い静寂。


「……おかしい、ですわね」


 最初に“それ”へ触れたのは、セリエだった。彼女の聖鈴のように澄んだ感覚が、何かの不在を掬い上げる。


「セリエ、何か感じたのか?」


「ええ。あれだけ騒がしかった “蟲の声” が……もう聴こえませんわ」


 言われて耳を澄ます。ギシギシと甲殻が擦れる音、泥を押し分ける群れのうねり。……それらが、ない。燃え尽きてはいないのに、眼だけが死んでいる個体が増えている。


「空を見ろ!! 蟲どもが!!」


 遠見台の叫びに、首を反らす。さっきまで嫉焔を避けて円を描いていた飛行型が、糸を断たれた操り人形みたいに、次々と墜落していく。羽が空を切り裂く音もなく、ただ落ちる。眼は濁り、光を手放している。あれは──命を吸い出された目だ。


同族喰い(コンサングィファギア)。)


 喰う魔物。喰われる魔物。圧倒的な格差があるとき、それは物理的に“食事”を行う必要はない。触れずに奪う。魔素ごと、生を吸い上げる。


 女王は食べたのだ。黒門が眷属を飲み尽くす直前に。


「……ッ来るぞ!!」


 背骨に電気が走る。下だ──直感が叫ぶのと同時に、地面がぐわんと波打った。


「地下だ!! 障壁展開!!」


 俺は叫び、指を鳴らす。掌に刻んだ符がぱっと増殖し、半球の応急障壁が第二大隊陣地上に咲く。だが、間に合わない。あれは“壁にぶつかる敵”ではない。“地面そのもの”が敵だ。


 城壁直下、第二大隊の陣地が膨れ、次いで破裂した。地表が花弁のように裂け、そこから高温の蒸気が白い槍になって一斉に噴き出す。


 ──ドガァァァァァンッ!!


 爆音。熱波。石と泥が混ざった雨。応急障壁は一拍だけその暴力を受け止め、次いで軋み、白い霧の中へと悲鳴が呑まれた。幾筋も、幾筋も。


 鼻の奥が焼ける匂い。湿った麻の焦げるにおい。誰かの名を呼ぶ声が念話回線に割り込み、すぐに砂嵐にかき消される。


 ◇◇◇


 ──────“深淵領域”からの大規模干渉発生。


 ──────“越境”を確認しました。


 ワールドクエスト “始まりの災厄” を、ワールドクエスト── “美食の女王” に更新します。


 ──────以上です。

【更新予定】

毎日20:00更新!


【次回】#79『近づく影』

突然の襲撃。そして、ワールドクエストの更新──現れたのは、新たなる敵。


面白かったらブクマ&★評価、明日からの20:00更新の励みになります!

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