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シミュラクル!〜サブ垢に転生した俺は何度でも『強くてニューゲーム』する〜  作者: やご八郎


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#64.第一試合──土と氷の矢面

 ◇◇◇ 第一試合・練兵場中央レーン──


 鐘が鳴る。石畳が一拍、呼吸する。


「失礼するよ」


 穏やかな声と同時に、ラッシュの掌が花弁のように開いた。土が巻き上がり、拳大の(つぶて)が円環を描いて──次の瞬間、土石弾の連射が唸りを上げる。間断がない。あれは“数で押す”のではない、“間隔で崩す”撃ち方だ。


「面で受けますわ!」


 セリエが大楯を立て、半歩沈む。楯面をわずかに寝かせた角度で(ふち)を滑らせ、礫の衝撃を流す。金具が鳴り、革紐が腕に食い込む。それでもセリエの膝は折れない。観覧席から思わずあがる悲鳴——「聖女様!」


 セリエの喉がわずかに震え、澄んだ声が空気を満たした。


「⦅──祝福(ブレス)──⦆」


 温い光が俺の周りを包み、観衆はほうと息を呑む。身体感覚が一段、研ぎ澄まされる。


 俺は楯の影から身を抜きつつ、指先で札挿しを探る。“爆裂符”はまだだ。まず“線”を断つ。

 白い息を細い刃に変える男──セルゲイが、足元に霜の軌道を引いた。軌道の上に、氷の壁が「こつ」と音を立てて生まれ、また一枚。間合いを潰す、静かな圧。


(氷は“線”で止め、壁で遅らせ、棘で返す──だな)


 俺は靴裏に⦅貼脚(グリップ)⦆を微付与。

 胸でひとつ息を割って、最短の壁へ踏み込む。掌底。石畳の反力を骨盤で受け、肩から肘、手刀へと抜く。薄氷に応力の筋が走り、“ぱきん”と亀裂が咲いた。もう一枚。蹴り足を返し、震脚と同時に二枚目も割る。


 だが、セルゲイは何も言わない。ただ次を立てる。割っても生まれ、割っても立つ。そして、足元の霜の線から氷棘が芽のように噴き、膝裏を狙って伸びる。くぐる。弾く。浅い切り傷に冷えが刺さり、感覚を奪おうとする。


 背で、土石弾ガトリングの唸りが再び強まるのがわかった。セリエは楯を半回転させ、縁で礫の角を奪い続ける。斧槍はまだ“点”に変えない。観客の波は彼女の周囲で風になり、声援がリズムをくれる。


(よし、見えた)


 俺は三枚目の氷壁にわざと深い亀裂を入れ、掌に一枚、札を滑らせる。表には⦅爆裂(ボム)⦆の印、裏には微かな粘着の付与。俺は割った氷片を拾い上げ、その裏へ札を貼り、亀裂に差し返す。その瞬間、わざと体勢を崩す。セルゲイの視線が、“こちら”ではなく“倒れかけた者”にわずかに寄る。その小さな寄りを狙って、俺は後方へ一拍、跳ぶ。


 氷棘が追う。霜が線を伸ばす。俺は指二本で印を切り、囁く。⦅起動(トリガ)⦆。


 無音の光が、亀裂の奥から咲いた。次いで遅れて、圧。爆ぜるというより、押す衝撃。氷壁が内側から崩れ、棘は芽の根から折れ、霜の線が途切れる。セルゲイの足が半歩、空を踏んだ。


 同時にラッシュの連射が一瞬、間を空ける。セリエはその“間”を見逃さない。楯を押し上げる反力で斧槍の石突を弾き、柄を縮め構えに変えると、礫の雨を抜けて一直線。槍先がラッシュの胸元の“標靶(マーカー)”を正確に穿つ。非殺の結界が青く光り、「ヒット」の印が霧のように舞った。


「さすがだな」


 ラッシュが微笑む。その声に氷の音が被さる。崩れた壁の粉雪の向こう、セルゲイは即座に手を横に払った。床に薄氷が走り、俺の踏み込みを削ぐ。呼吸が浅くなる冷え。ここで止まれば、また線と壁でやり直しだ。


(止まらない)


 俺は足首に⦅温流(ウォーム)⦆の微付与。血が戻る熱で足裏を取り戻し、低く滑り込む。セルゲイの掌が白を増す。腕の動きに「角」がない──美しい。だから読むしかない。氷の線が来る場所に、先んじて札を二枚、扇に散らす。ひとつは誘い。もうひとつが牙。


 セルゲイが踏み出した。俺は誘い札の方へ視線を落とす。その刹那、彼の掌は誘いへ重なる。来た。俺は牙の札を爪弾き、床下で起爆。石畳が持ち上がり、セルゲイの軸足がわずかに浮く。外套の裾が揺れた、その内側に俺の掌底。胸の標靶に、静かに置く。


 「ヒット」——青の光が二度、瞬いた。


 セルゲイは短く息を吐き、顎でわずかに敬意を示す。無口な男の、充分な言葉だ。


 背で、コーダの大剣の柄が二打。審判の声が空を渡る。


「第一試合、勝者──付与術師 フィン × 聖女 セリエ!」


 歓声が遅れて押し寄せ、観覧台の「聖女様!」の波がいっそう高くなる。セリエは大楯を少し掲げ、礼。斧槍の刃は、誰にも向けない角度で伏せられていた。


 ラッシュが丁寧に一礼する。


「見事でしたな。土は止められ、間は穿たれた。完敗です」


 セルゲイは俺の掌を一度だけ握り、無言のまま離した。その掌は冷たいが、握り返す力は温かい。


「フィン、やりましたわ!」


 セリエが振り返る。頬が上気し、緑の瞳が揺れている。遠く、黒門の影が少しだけ短い。


「ああ。次も、この拍子で行こう」


 俺たちは拳を軽く合わせる。楯の縁が陽を拾い、小さな虹が跳ねた。明日の命を繋ぐための、今日の息が、確かにひとつ揃った気がした。

【更新予定】

毎日20:00更新!


【次回】#65『第二試合——ニーナ、走る』

塵旋風と火炎礫の協奏に乗って、三日月が踊る——赤髪の人虎の笑みに、ラミーが重なる。


面白かったらブクマ&★評価、明日からの20:00更新の励みになります!

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