表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シミュラクル!〜サブ垢に転生した俺は何度でも『強くてニューゲーム』する〜  作者: やご八郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/82

#63.開幕──城塞都市トーナメント

◇◇◇ 城塞都市フィリス・練兵場──


 朝靄が石畳を薄く濡らし、黒門の巨大な影が、針のような秋光を割ってこちらに伸びてくる。観覧台では市民と冒険者が肩を寄せ、吐く息が白い。練兵場中央には魔力計測用の水晶柱が四本、淡い燐光を宿して立ち、治療天幕の帆には微かな結界紋が脈打っていた。


 審判役のギルドマスター、コーダが大剣を片手に最前に進み出る。元黒鉄級の背中は、今も岩のように厚い。


「静まれ」


 大剣の柄が一打、“ごん”と地を叩く。ざわめきが一枚、薄皮を剝がすみたいに消える。


 黒獅子の咆哮団長、ガレフ・マルゼンシュタインが一歩前へ。銀の(たてがみ)を思わせる外套の縁が風に鳴った。


「これは見世物であり、準備だ。恐れる者は観よ。勇む者も観よ。今日の息を揃え、明日の命を繋ぐ。これより、城塞都市(フィリス)トーナメントを開催する」


 短い。だから強い。胸郭の内側で、観客の呼吸が合う音がした気がした。


 頭上に設置された投影盤がゆっくり回転し、薄紅の魔光で組み合わせが空に刻まれる。俺はセリエの大楯の縁を、無意識に指先で叩いた。緊張ではない。拍子の確認だ。


 ──発表。


【第一試合】

 ① 付与術師 フィン × 聖女 セリエ

  VS

 ② 第二大隊長 ラッシュ・マッケンジー × 第五大隊長 セルゲイ=アルシモフ


【第二試合】

 ③ 鉄板のダン × 茜月のニーナ・ノヴァ

  VS

 ④ 第二大隊副官 パース × 同 ヴィム


【第三試合】

 ⑤ 第一大隊長 ゴルドー・ビッケンバック × 第四大隊長 ギュスタヴ・ロマネンコ

  VS

 ⑥ 両刃槍のマルロ × 狙撃弓のエリナ


【第四試合】

 ⑦ 騎士団長副官 キース・マルゼンシュタイン × 第三大隊長 ミルダ・ヴァレス

  VS

 ⑧ 神官ベルト × 結界術師リサ


 光字が消えると同時に、各ペアが円の内側へ歩み出た。ここからは“技”を見せすぎない所作の時間。だが、所作だけでわかるものがある。


 セリエは大楯の上端を親指でなぞり、斧槍を柄短めに構える。足の拇趾球に重心を落として、大楯(おおたて)の“面”で街の不安を受け、槍の“点”で道を穿つつもりだ。観客席から「聖女様ー!」の声が波になって寄せ、彼女の背で金糸の紐が微かに震えた。


 俺は手甲の内側に刻んだ小型付与陣を指で撫で、札挿しから呪符(じゅふ)を一本だけわずかに浮かせる。光らせない。光らせないからこそ、見えない角度が一つ増える。


 正面のラッシュは掌に砂粒を転がし、親指ではじく。砂は等間隔で石畳に点となって落ちた。几帳面。土の線を几帳面に敷いてくるタイプだ。

 隣のセルゲイは何も言わない。吐息が細い白線となって床をなぞり、その線に沿って霜が走る。線で止める——無言の趣味がそこにある。


 別の円では、ダンが古びたバックラーの革紐を締め直し、肩の力を抜く。“壁になる”姿勢。

「ダン! 汚名返上だ!」冒険者達から野次が飛ぶと、ダンは拳を掲げ「おう!」とだけ答える。


「ニーナ! フィリス冒険者の超新星(ノヴァ)!」冒険者が口々に叫んだ。ニーナは踵で三日月刀の柄頭をコツンと鳴らし、砂に半月を描く足さばきで猫科のしなりを試す。牙を見せて笑うと、その笑いに観客席の若いのが釣られて笑った。


 パースは小石を風でふわりと浮かせ、ヴィムが親指先でそれを焦がす。合成の稽古は済んでいる、という無言の頷き。


 ゴルドーは掌をひらと向けただけで、周囲の空気が一瞬“乾く”。「わはは! 今日も(さき)じゃろ!」隊士が笑い、声が連なる。

 ギュスタヴはマントの裾を片指で摘み、半歩、風の層を走らせてすぐ止める。近づけば切れる空気。皮肉な口角。


 マルロは両刃槍の切先を前後左右に規則正しく打ち、エリナは弦を耳だけで微調整する。目配せ一つで呼吸が揃う。


 キースは歩幅を三拍子で刻み、剣を抜く“角度”だけを試す。視線は最短線。

 ミルダは魔導鎧の装甲(プレート)に指先でちょんと触れ、短い火花を散らす。戦鎚ミョルニルの柄を肩に弾ませ、礼は端正、眼だけ獣。


 ベルトとリサは祈りと結界の節をハミングで重ね、場の輪郭を言葉で整える。対人の達人は、戦う前から場を味方にする。


 観覧台のざわめきは次第に層を増し、黒門の影がわずかに短くなった頃、コーダの低い声が再び場を支配した。


「規則は明白。致死行為なし、降参は即時有効。治療は即応。騎士も冒険者も、ここでは同じ“明日”のために技を見せよ」


 審判槌が空気を叩く。水晶柱の燐光が、一段明るく跳ねた。


「第一試合——構え!」


 俺は一度、息を深く吐き、斧槍の石突を足で軽く踏んだセリエの合図に合わせて、楯の角度を半度だけ寝かせる。土は“面”で受け流し、氷は“線”を断ちにいく。

 ラッシュが微笑み、セルゲイの白い息が線を一本、俺たちへ引いてくる。


「始め!」

 鐘の一打——空気が薄くなる。


 拍子は揃った。あとは、やるだけだ。

【更新予定】

毎日20:00更新!


【次回】#64『第一試合——土と氷の矢面』

土魔法の使い手ラッシュと、無言の氷術師セルゲイ——いまこそ、セリエと磨いた連携を試すとき。


面白かったらブクマ&★評価、明日からの20:00更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ