#39.攻略法
◇◇◇ 狭間の空間・観測者の間──
光も影も等分に溶けた、白く静かな間。遠くで、誰かがゆっくりとページを繰るような気配だけが続いている。
「そういえば、始まりの災厄の攻略法は、何か掴めたかい?」
ルシフェルが羽音をひと振り分、柔らかく揺らしながら問いかけてくる。
「ああ……完全じゃないが、仮説は立てた。聞いてくれるか?」
『もちろん。何か糸口を見つけた顔だ。さ、座ろう』
彼が指先で虚空を軽くはじくと、そこに何もなかったはずの床へ絨毯が現れ、深い紺のソファとガラステーブル、湯気を立てるティーセットまでが“置かれて”いた。俺は「なんでもアリだな、ここ」と小声でぼやきながら腰を下ろす。座面は重力の都合まで計算されているみたいに、背中をぴたりと受け止めてくれる。
「ごほん。まず、やつの出現条件だ。初回の転生では、俺たちが向こうへ行ってすぐ目の前に現れた」
『うん、覚えているよ』
「二回目は“転生から約1か月後”、そしてやっぱり俺たちの目の前。しかもタイミングはミレッタが現れた瞬間と一致していた」
『その通りだね』
「ここからが仮説だ。──プレイヤーを含むメインNPCが、同じエリアに一定数以上……今のところ“4人”想定かな。集まったとき、やつのスポーン条件が満たされる。最初の転生で俺たちが飛ばされた森は、植生の感じが“暴食のダンジョン”第一層に似ていた。つまり、あの時、エリア内に他のメインNPCが2人以上いたと見る」
『へぇ……』
「加えて、二回目の時は、ミレッタが合流……つまりそれが、閾値到達の最後の1人だった可能性。だから同フレームで湧いた」
『ご明察。少なくともあのシミュラクルでは、その仮説で説明がつくね』
「ビンゴか。ちなみに、初回の森、近くに誰が?」
『ラミーちゃんは君と別れたあとすぐ、青髪の男性冒険者と合流して、君のもとへ向かっていた。残念ながら間に合わなかったけどね。他にも彼の仲間が数人、うち何人かはメインNPCだった』
「青髪……ジェラルドだな。場所はやっぱり獣人大陸の“暴食”。ラミーの頼みなら彼は二つ返事だ」
『たったそれだけでそこまで行くの、いつも感心するよ。ただ──“確定条件”とまでは言い切らないで。世界ごとの揺らぎはある』
「承知。ひとまず運用仮説として採用、だ」
ティーカップの縁を指でなぞりながら、ルシフェルが脚を組み替える。
『では次。君が倒せなかった理由は? ここを潰せないと、避けて通れない』
「思い当たるのは三つ」
俺は指を三本立て、一本ずつ折りながら続ける。
「一つ目:俺の力不足。ただし一次情報──“1周目のラミーが倒している”──から可能性は低い」
「二つ目:魔法でしかトドメが入らない仕様。これは可能性が高い。俺は体術主体、反撃は通るが“決定打が抜けていた”感触」
「三つ目:人数条件。スポーンが“メインNPC4人以上”なら、討伐も複数アタッカー前提の可能性がある。設計思想として“ソロ討伐不可”。今回はヘイトを避けるためマリエラには牽制と回復役に回ってもらった。結果として俺はミレッタ参戦までソロで戦っていたことになるから、これも成り立つ」
『一つ目はさておき、二つ目三つ目は興味深い。観測してきた他世界でも強力魔法や大規模PTでの撃破例が多いよ』
「だろうな。いずれにせよ次の周回で検証する。今回は過剰戦力ミレッタで押し切ったが、一度倒せた以上“攻略不能のボス”ではない」
ルシフェルがほんのわずか目を伏せ、困ったような、寂しそうな顔をする。
『……まだ少し“ゲームの感覚”が残っている。無理もないけれど。ここでは残機はないからね』
「わかってる。これは現実だ。けど同時に、“災厄は世界の外的仕様ではなく、内在するギミック”だ。なら攻略法はある──ただ、それだけ言いたかった」
観測者は肩をすくめ、話題を切り替えた。彼の指が空へ弧を描く。白の間に水晶盤が現れ、無数の“凍った時間”が輪郭を結ぶ。砂時計が逆流をやめた瞬間を切り出したみたいな、停止した世界の断片たち。
『では──次の転生先は決まったかい?』
「ああ、決めてある」
俺は迷いなく盤面へ歩み寄り、いくつもの可能世界を視線で払う。雪の匂いがする山脈の都市、永夜の海に浮かぶ塔、砂の下で眠る円蓋都市……指先が止まる。胸の内で、答えはもう形になっていた。
「ここに転生させてくれ」
指し示した断片に、淡い光がともる。時間がわずかに息を吸い、吐く音がした気がした。
そこに映っていたのは──
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【次回】#40『次席のセリエ』
新たな生命。新たなパートナーを得て俺はまた旅立つ。次のパートナーは——ちょっと苦手だな。
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