表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シミュラクル!〜強くて(?)ニューゲーム──リセマラしたデータは全部パラレルワールドになりました〜  作者: やご八郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/30

#24.鉱山に棲む小鬼

 ◇◇◇ 鉱山口──


 朝の冷気が肺に刺さる。マカライトに案内されて着いた坑口は、古い梁が口を開けていて、そこから鉱石と湿土のにおいが吐き出されていた。ワールドクロック 09:12。座標は〈カナン南丘陵・旧鉱山群〉。数字は落ち着いているのに、手のひらだけ汗ばんでいる。


「……鼻にくるね」

 ラミーがくしゅんとくしゃみ。尻尾がびくりと跳ねる。


「ここ最近、あいつらが巣にしてからこうだ」

 マカライトが顎鬚を撫でた。


「ゴブリンは五感が利いて、頭もそこそこ回る。だが正面の力は弱い。群れて汚い手を使うんだ。毒矢、落とし穴、集団での石打ち……。起こりは“色欲のダンジョン”だの、人と魔が交わっただのと言うが、まあ昔話よ。稀に混ざりもんが生まれて大きくなったり魔法を使ったりする。あれをひっくるめてホブゴブリン。さらに人に近づいて繁殖までできる段が“ロード”だ」


「ロードは勘弁、だな」

 俺は剣帯に手をやり、革手袋をきゅっと締める。

「編成はさっき話したな。前は俺、二番手ラミー。後ろはマリエラの結界と矢で。毒は任せる」


「はい。解毒と聖障、すぐ出せます」

 マリエラは落ち着いた声で頷き、弦を張った弓を確かめる。


「匂いは──うん、たくさん。小さいのがごちゃっと奥で固まってる」

 ラミーの耳がぴくぴく動いた。⦅野生の嗅覚⦆が働いてる。頼もしい。


「よし、入る。でかい声は出すな。合図は念話、短く」


 坑口に一歩踏み入れると、温度がひとつ下がった。湿気が頬に張りつく。壁の苔が暗く光り、どこかで水がぽたりと落ちる音。靴裏が砂を踏むしゃり、という音すら大きく感じる。


(こういう時、ゲーム時代の“BGM”が恋しくなるんだよな)


 先頭で壁ぎわをたどる。曲がり角の手前でいったん停止、耳と鼻で気配を測る。ラミーが袖を引いた。


(前、低い匂い。脂っぽい)

(了解)


 角を曲がった瞬間──


 ──チチチッ!


 闇の奥から毒塗りの小矢が三本、低い弾道で飛んできた。反射でしゃがみ、柱を踏み台にして前へ跳ぶ。影が三つ。小柄、猫背、黄土色の肌。


「一体目」

 手首を払って矢の軌道を外し、膝で顎を弾く。

「二体目」

 踏み込みざま、柄頭で側頭部を殴りつけ、刃を見せずに落とす。

「三体目!」

 突き出してきた錆鉤を紙一重で外し、肘で喉元へ。短く咳いて、崩れた。


 左前腕に焼けるような痛み。視界の端が小さく点滅する。


《状態異常:毒(微)》

(やっぱり塗ってるか)


「フィン!」

 すぐ後ろのマリエラが掌をかざす。

「⦅解毒(キュアポイズン)⦆」


 白い光が皮膚に染みて、針の刺さる感じがすっと引いた。表示が消える。


「助かった。平気だ。耐性があるから深くは入ってない」


「ね、ね、顔色悪くない?」

「それは元々だ」


「ひどい!」


 軽口で呼吸を整え、転がる小矢をつま先で端に寄せる。ラミーがしゃがんで矢柄を嗅いだ。

「甘い匂い。たぶん、催涙系まぜてる。目と肺にくるタイプ」

「厄介だな。結界を惜しまず切っていこう。矢の出所は……あの壁の穴だ。二段構え」


 俺は低い姿勢のまま穴へ近づき、中の気配を測る。いる。けれど動かない。見張りを置いて、音だけで撃ってきたか。


(最初から“やってくる”手つきだ。ロードの統率ってほどではないけど、素人の群れじゃない)


「続くぞ。足元、警戒強め」

「了解」「はーい」


 狭い坑道を、呼吸と足音を合わせて進む。マリエラのランタンは絞り、ラミーの耳と鼻が前方を探り、俺は壁と天井を目で掃く。湿った空気の中で、三人の息だけが一定のリズムを刻んだ。


 分岐の手前、ラミーがぴたりと止まる。尻尾が水平に伸びた合図。


(糸。細いの二本、胸の高さ)

(見えないな)

(匂うの。油と鉄)


「《聖障(サンクティ)》薄く」

 マリエラがささやき、淡い膜が俺たちの前に張られる。俺は身をかがめ、指で空中を探る。……あった。ほとんど髪の毛みたいな強度の糸。斜め上、小石が詰まった袋。触れれば豪快に降ってくるやつだ。


「こんな入り口近くに“歓迎”があるってことは……」

「“住んでる”よね」

 ラミーがにやりと笑う。緊張の中でも目が輝いている。


「行こう。次は向こうの番だ」


 俺たちは糸をくぐり、分岐の影へ滑り込む。向こう側から、またあのチチチという爪音──。ここからが本当の“坑道戦”だ。

【更新予定】

毎日20:00更新!


【次回】#25『坑道を進む』

濃くなる魔物の気配の中、3人は更に行動の奥へ——ラミーの罠探知が冴え、マリエラの回復魔法が光る。


面白かったらブクマ&★評価、明日からの20:00更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ