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五月雨心中  作者: 篠朝樹
9/11

其の壱〔祥一郎と柾美〕六

 叶家の人間、といっても祥一郎の父と母だけだが、一言でいえばどちらもおおらかな性格だった。伯父も伯母も、よく通る声で、よく笑った。祥一郎にもその遺伝子は確実に受け継がれていた。柾美の母も、考えてみれば確かに物事に頓着しない辺りが伯父とよく似ていた。



 家に到着し、玄関をくぐると、伯母がひとの良さそうな丸い顔にえくぼを浮かべ、心から嬉しそうに柾美を迎えてくれた。

「いらっしゃい。疲れたでしょう、早く上がって」

 言いながら柾美の荷物を引き受け、大きくなったわねえ、と感慨深げに洩らした。

「大きい、って言っても、祥一郎ほどじゃないけど」

 柾美の傍らに立つ息子を見上げて言うと、

「すみませんね、無駄に大きくて」

 口を尖らせ、母親に言い返す祥一郎は、確かに身体ばかりが大きい子供のようだった。

「そんなことよりお腹空いたでしょう、ご飯にしましょうね」

 そんなことかよ、とぶつぶつ言う祥一郎は相手にせず、早く手を洗ってらっしゃい、と、柾美を洗面所に促した。


「すまんな、ウチのお袋騒がしくて」

 洗面所に案内し、手を洗う柾美に祥一郎が言った。

「そんなことない、です。正直、伯母さんには迷惑なんじゃないかと思ってたから」

 タオルを柾美に手渡し、柾美と交代して洗面台に向かい、蛇口をひねった。じゃぶじゃぶと水を跳ねさせながら手を洗う姿は、まるで子供のようだった。手を振りながら大雑把に水気を切ると、柾美の持つタオルに手を伸ばした。

「ああ、それなら心配ないな。お袋、本当に喜んでたよ。息子が増えたみたいだって」

 拭き終えたタオルを置くと、先に立って居間に案内した。後ろを静かに着いてくる柾美を振り返り、

「俺も弟ができたみたいで嬉しいよ」

 まあ、歳は随分離れてるけどな、と苦笑した。


 その日の食卓にはたくさんの料理が並べられ、とても四人で食べ切る量ではないと思われたのだが、伯父と、祥一郎の食事量は通常で考えるよりも余程多く、殆ど残ることはなかった。その上、食事に酒も含まれるのがこの家では普通らしく、伯父と祥一郎はビール、焼酎と、食事の合間に次々飲み干していった。

 祥一郎、そして伯父の体格はとてもよく似ていて、身長も高ければ筋肉も人より多く付いていた。目を丸くしてどんどん空になる皿を見ている柾美に、伯父が言うには、

「肉体労働者だからな、身体が資本なんだよ」

 それには納得がいくのだが、酒量はそれとは関係がないのではないかと、少し思った。

「柾美くんも食べてね、うかうかしてると無くなっちゃうわよ」

 伯母の言葉に、慌てて箸を動かした。


 食事を終えると、用意された部屋に通された。案内してくれた伯母は、

「あの子達がいなくなって、寂しくなってたから、柾美くんが来てくれて丁度良かったわ」

 祥一郎の妹たちは、一人は嫁ぎ、一人は地方の大学に進学していて、既に家を出ていた。柾美の部屋は、嫁いだ長女のものだった。

 伯母は、きれいに整えられたベッドをぱんぱんと叩き、

「布団もシーツも新しいから、安心してね」

 それから柾美の手を取り、ぎゅっと握った。

「これからよろしく。本当の息子のつもりでお世話させてもらいます」

 ぺこりと頭を下げる伯母に、柾美も慌てて同じように頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 顔を上げると、伯母はいっぱいに手を伸ばし、柾美の頭をぐりぐりと撫でた。

 その感触は祥一郎の手のひらにとてもよく似ていて、柾美の身体の芯はほわっと、温かくなった。



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