ギルド長
ドラゴンワームの攻撃は続く。
クトリの認識阻害の影響下にあるため凌げてはいるが、だんだんとズレが小さくなってきている。
このままでは認識阻害が効かなくなり、被害が大きくなるだろう。
前衛後衛共に攻撃を続けているが、ドラゴンワームに傷一つ付けることは出来ずにいた。
「ちっ!」
ガロはドラゴンワームと味方の動きに注視していた。
認識阻害が効かなくなってきており、徐々に捉え始めてきている。
その影響で、爆風への対処が徐々に困難になってきている。
また、ドラゴンワームも少しずつ動きに変化を持たせてきている。
顔を出す際に地表の岩を大きく巻き上げるようになっていったのである。
それにより、爆風に乗って巨大な岩が流星となり押し寄せる。
レアードは徐々に距離が近づいてきていることで、爆風と岩石の対処に精一杯になっている。
エイトはドラゴンワームの攻撃を防ぐために、周辺の空気を圧縮させドラゴンワームを包み込む。
爆風と岩石を閉じ込めようとしているが、閉じ込めきれず手を焼いている。
カインとリリィも中遠距離からそれぞれ斬撃と矢を放つ。
しかし岩石に防がれ、当たらなくなってきている。
形勢はすぐに逆転するだろう。
とうとう認識阻害が効かなくなったのか、レアードら前衛をまとめて飲み込もうとする。
レアードらは間一髪で何とか交わす。
しかし爆風に飛ばされ、大きく後方に飛ばされた。
「くそっ!!」
レアードはドラゴンワームをにらみつける。
ガロはうまく木に着地し、ドラゴンワームを観察する。
「あれをやるか」
ガロは全員に指示を出す。
「準備する!時間を稼げ!」
ガロは後方に下がる。
カーフェはガロが何をしようとしているのか分からない。
「どういうこと・・・?」
「カオスインパクトを打つつもりなのよ」
リリィが答える。
「カオスインパクト・・・?」
「ギルド長の全力の一撃。全盛期の頃は、この一撃で山を吹き飛ばしたと言われているわ」
「山を・・・」
カーフェはギルド長に目を向ける。
ギルド長の片手に大きなエネルギーが収束されているのを感じる。
そのエネルギーはまだまだ大きくなる。
「ねえ、リリィ姉、あの腕輪は何なの?」
ギルド長の身に着けているブレスレッドの輝きが増している。
「あれはブースターよ。各ギルドに少数置かれている魔道具。スキルのランクを一段階上げるものよ」
「そんなものが・・・」
「よく見ておきなさい、あれが元ランクSの実力よ」
この戦いは佳境を迎える。
「とは言え、どうするよぉ。俺らだけじゃ数分と持たないぞ」
「深追いする必要性はないよ。僕らの役目はあいつの注目を僕らに合わせるだけ。邪魔だけしていればいい」
「なるほどな。取り合えず攻撃しまくればいいってこったな!」
「そういうこと!」
レアードとカインはドラゴンワームに刃を振るう。
傷をつける必要はない。
今は手数が必要だ。
共通の認識であったのだろう。
皆、意識を自分に向けさせようと無心に武器を振るう。
ドラゴンワームも傷こそ負わないがうっとおしく思っているのだろう。
標的をレアードらに移していた。
「うっ・・・くっ・・・!!」
カーフェは痛みに耐えながら、立ち上がる。
リリィはカーフェに目を向けるも、溜息を吐いて目線を戻す。
カーフェはドラゴンワームに向かっていった。
「くらえっ!!」
ドラゴンワークの爆風に対し、岩石操作で体を固定する。
飛ばされるのを防いだレアードは、ドラゴンワームの潜り際に両手剣を振るう。
しかし、鱗の硬さに弾き飛ばされてしまう。
「くそったれぇ!!」
爆風が再び巻き起こり、レアードの体が宙を舞う。
それをカーフェが受け止め、ドラゴンワームの尾による攻撃を躱す。
「カーフェ!」
「単独で動いてもダメ!連携で攻めるよ」
「ちっ!・・・作戦はあるのか?」
「一つだけ思いついた、手伝って!」
レアードは頷き、立ち上がる。
カインと後方にいたリリィも集合し、互いに目を合わせる。
アイコンタクトを交わし、各自行動を開始する。
ドラゴンワームは地面から出現する。
爆風が吹き荒れるが、ここでエイトのスキルが阻む。
空気圧縮。
今度はドラゴンワームだけでなくレアードらも共に囲む。
レアードは両手剣を地面に突き刺す。
レアードらとドラゴンワームの間にいくつもの障害物を作り出し、皆の姿を隠した。
爆風に皆体を飛ばされるが、そのままカインとリリィらは攻撃を続ける。
そしてドラゴンワームの頭部が頂点に差し掛かり、下降を始める。
その時、エイトの空気圧縮によってその場にとどまらせていた岩石に隠れ、見えなくなっていたカーフェがドラゴンワームより上空から姿を現す。
そしてレアードから受け取った両手剣を、重力を利用して勢いよく振り下ろした。
その光景を目撃したガロは笑みを浮かべていた。
一連の動きはこうだ。
まず、ドラゴンワームが岩石を巻き上げながら地上に現れる。
エイトが空気圧縮を使用し、ガロとクトリを除くものすべてを閉じ込める。これにより岩石を一瞬閉じ込めることに成功した。
次にレアードの岩石操作。
これでカーフェらを隠す障害物と彼女らを固定する壁を作り出した。
しかもカーフェのところだけはとびっきり強度を高めた障害物と壁を。
これによりカーフェだけは飛ばされることなく、持ちこたえることができた。
他の者は飛ばされたが、それも作戦のうち。
カーフェはレアードが作り出した、壊されて打ちあがった岩石を飛び越える。
空気圧縮の範囲内から逃れ、好機を待つ。
カイルとリリィは攻撃により岩石を砕く。
破壊音を鳴らすことで、ドラゴンワークの意識を下方に向けさせる。
そして障害物と壁を作り出したと同時に、渡した両手剣で隙をついて死角から攻撃したのだ。
ドラゴンワームを地面に叩きつけた瞬間、ガロは走り出した。
カーフェが振り下ろした両手剣は、鱗に阻まれて傷をつけることは叶わなかった。
しかしドラゴンワームを地面に叩きつけて、隙を作ることには成功した。
ドラゴンワームは地面に叩きつけられたことで、奇声を発した。
刃が通らなかったことに悔しさを浮かべる。
しかし同時に目的を達成できたことに、笑みを浮かべる。
「残念だけど、トドメを指すのは私じゃないわ」
カーフェは視線を変える。
そこに移るのは、向かってくるガロの姿であった。
ブレスレットが今までよりも強い輝きを放ち、拳には稲妻が奔る。
「カオスインパクト!!」
カーフェは大きく飛ぶ。
移動するのと同時に、ガロの拳がドラゴンワームに届くのであった。
爆発の衝撃で大きく仰け反るがなんとか堪える一行。
ドラゴンワームは大きく飛ばされてやがて静止する。
「はぁはぁはぁ。歳はとりたくないな。全然威力が出とらん」
ガロは悔しがるが、カーフェらはあまりの威力に驚愕していた。
「これが元Sランク・・・」
「あれだけの巨体を殴り飛ばすたぁ、やっぱしバケモンだな、あの人は」
レアードの呟きを聞いていたガロは、言い返そうと視線を向けようとする。
しかしその瞬間、予想していなかったことが起きた。
ドガガガガガガガガ
ガロとレアードらは音を聞いて、視線を向ける。
ドラゴンワームが動き出していたのだ。
頭部の近くにカーフェの体の大きさほどまで膨れ上がった拳の痕が出来ていて、鱗が完全に消滅している。そして、そこから全方位に鱗にヒビが入っている。
しかしドラゴンワームは確かに生きて動き出していた。
すぐさま対象を講じようとするが、腕に強烈な痛みが走る。
ガロは腕を抑え、膝をつく。
レアードらはガロの元に集まり、腕に注目する。
酷い状態であった。
限界まで魔素を収束させた影響で、腕が負荷に耐えられなかったのだろう。
熱を持ち、赤く爛れている上に、焦げついたような匂いまでしている。
空気が触れただけでも痛むほどだろう。
ガロはもう戦えない。
誰もがそう判断した。
ドラゴンワームは今までとは打って変わって静かにこちらに向かってくる。
静かな怒りを覚えているように感じる。
カーファは両手剣を構え、交戦の構えを取る。
その瞬間であった。
上空から黒い斬撃が飛んできてドラゴンワームの首を刎ねたのだ。
更なる脅威に、その場にいた全員が目を離すことができなかった。
漆黒の姿に赤い瞳。
そして腕から立ち上がる黒いもや。
カーファにはあれがなんなのか理解できなかった。
分かることは、ドラゴンワームを手合いとはいえ一撃で仕留められるほどの存在。
そして、おそらく魔物だということ。
そんな存在が、宙に浮いてこちらを見下ろしていた。
カーフェはそんな存在と目があったように感じ、鼓動が大きく跳ね上がる。
誰も言葉を発することが出来ない。
それほどの緊張状態であったが、やがてそれはその場から離れ消えていった。
しばらく動けないでいたが、危機が去ったことを脳が判断したのか、次第に動き始める。
「ギルド長、あれは・・・」
「今はこの場を離れ、町に戻るぞ」
クトリの問いに、ガロは答える。
静かに消滅していくドラゴンワームを見ながら・・・。