狂気の成長
木の陰に隠れ、気配を消す。
目の前に見えるのは洞窟。
その中に、オークがいた。
地べたに座り込み、体を休めている。
すぐ隣には丈夫そうな木の棒が落ちている。
その数は2体。
雄と雌。
どうやら、家族のようだ。
共に行動しているのだろう。
以前見つけた所ではないが、そこにたどり着く前に見つけられてよかった。
オークはとにかく怪力である。
人の首程度なら片手で軽々握りつぶせる。
あの腕に捕まってはいけない。
入り口は正面の1つのみ。
奇襲は無理そうだ。
正面から挑む。
枝を片手に持つ。
片手は空いている方がよいだろう。
走り出し、オークとの距離を詰める。
オークもすぐに気づき棒を手に取る。
雄たけびを上げて威嚇をする。
しかし、カーフェには効かない。
オークも効かないと見るや、武器を構え相対する。
カーフェは速度を活かし、背後に回り枝を突き刺す。
しかし、2体目のオークに阻まれる。
オークは死角をケアすることで、お互いを守っている。
カーフェは舌打ちをする。
明らかに速度で翻弄するタイプとの戦闘に慣れている。
ウルフとの戦闘経験を活かしているのかもしれない。
とはいえ、これは少し厄介。
だが、その程度では私の速度は死なない!
カーフェは、正面から肉薄。
オークの間合いに臆せず侵入する。
オークは木の棒で対応するが、カーフェの速度には対応できない。
カーフェは急ブレーキをかけることでオークの間合いから逃れる。
逆にオークは、カーフェの緩急をつけた動きに対応できず空振りに終わってしまう。
隙有り!
豪快な飛び蹴りがオークの顎を打つ。
脳震盪を起こし、オークの動きが止まったところでナイフを抜く。
しかし、そこにもう一体のオークが体を割り込ませ、腕を振るう。
カーフェは間一髪のところを離脱するが、オークの脳震盪も止まり警戒心を強める。
オークは怒りを覚えているようだが、冷静さは失っていない。
カーフェは、次に投石を開始する。
遠距離攻撃に切り替える。
持久戦も辞さない戦法だ。
カーフェの投石を、オークは木の棒で防ぐが、すべては防げない。
多少はダメージを受けているが、肌から血が流れる程度にとどまった。
あまり堪えているようには見えない。
オークは連携で挟み込み肉弾戦を仕掛けてくる。
接近戦は命取り、距離を取ろうとするが、うまく回り込まれて四角から木の棒が飛んでくる。
反応しきれないカーフェは枝でガードするが枝では防ぎきれない。
枝は折れ、カーフェ自身も後方に大きく吹き飛ばされる。
カーフェはうまく体制を整え着地するが、オークの攻撃は終わらない。
再び挟まれると今度は木の棒の一撃を左腕に受け、吹き飛ばされる。
苦悶の表情を浮かべるカーフェ。
左腕に目を向けると、変な方向に折れ曲がっている。
片腕を使用できなくなったカーフェは次第に追い込まれていった。
オークは非常に戦いなれている。
死角を突き、攻撃。
隙があれば掴もうとしてくる。
カーフェはオークの掴み攻撃に対処しながら、死角からの攻撃を捌かないといけない。
しかし、枝はすぐ折られてしまう。
接近されてしまうため、投石しようとすると、その腕を掴もうとしてくる。
近づかれないように目の前のオーク意識を向けると、もう一匹のオークの死角からの一撃が飛んでくる。
次第にカーフェはスキルを持ってしても回復しきれない程のダメージを受けていく。
満身創痍。
まさにその言葉が相応しい状態になった時、カーフェの様子が変わったことをオークは感じ取った。
何かを覚悟した表情。
その目はまだまだ諦めていない。
カーフェは大きく深呼吸をし、息を整える。
オークはさらに追撃を加えるべく、木の棒を振るう。
カーフェは首をわずかに動かすことで、木の棒の一撃を躱す。
そして、オークの腹に一発。
オークはわずかに吹き飛ばされ、カーフェに驚愕の表情を向ける。
今までとは違う。
今の一撃だけで、オークの警戒心は最大になった。
カーフェは肉薄する。
オークは棒を振るうが、カーフェによけるそぶりはない。
棒の一撃は顔を掠め、顔から血が噴き出る。
しかし、カーフェの動きは止まらない。
カーフェはオークに肉弾戦を仕掛ける。
お互いに止まらない攻撃。
2対1。
明らかにカーフェの方が重症であり不利であるはずなのに、徐々にオークを追い詰める。
殴り殴られ。
吹き飛ばし吹き飛ばされ。
お互いに殴り合うが動きを止めることはない。
しかし徐々ではあるがにオークの表情には、確かな焦りと恐怖が浮かんできていた。
カーフェの表情は無。
何の感情も湧いていない。
何を考えているのかも分からない。
オークはそんなカーフェに不気味さを感じ始めていく。
痛みを感じていないのか。
ひたすら、向かっていく。
怪我をも恐れないその姿はまさに修羅のようであった。
そしてついに、カーフェの一撃がオークにクリティカルヒットする。
オークは吹き飛ばされ、倒れこむ。
その目に生気は感じられない。
まず1匹目。
残ったオークが棒をカーフェに向けて振るう。
カーフェはそれを治りかけの左腕でガードする。
自己再生のスキルで動かすことが出来ている。
ガードした際、骨が折れる音が聞こえたが、カーフェの顔色は変わらない。
枝を握るとそれをオークの腹に突き刺す。
オークは奇声を上げるが、カーフェはそれだけでは終わらない。
オークの攻撃をかいくぐって、次々に枝を刺していく。
10数本刺したのちようやくオークが倒れた。
カーフェの勝利である。
カーフェは素材を回収したのち、その場を離脱。
木の上に上り、安全確認をする間もなく気を失ったのである。
それから、数時間後。
完全に日が落ち、あたりが真っ暗になったころカーフェは目を覚ました。
少しの間、状況を理解できなかったが、思い出すと同時に整理を完了した。
目を覚ましたが、全身の痛みで身動きが取れなかったカーフェはその場で体を休めることになった。
幸い、短時間だけだが魔物に襲われることはなかった。
真夜中、まだ日を跨ぐまで十分時間があるころ、カーフェは動き出す。
まだまだ体は重いし、体中に痛みを感じるが動けるようになったので、行動を開始する。
また依頼は終わっていない。きっとみんな心配しているだろうが。まだ帰れない。
ワーム種の討伐。こんな状況で最悪の依頼が残ってしまった。
ワーム種は地面に潜り、餌を捕食するときだけ、地上に出てくる。
つまり餌を用意して張り込まなければならない。しかし、今、餌の用意はない。
体中に怪我を負っているため、魔物との戦闘は極力避けたい。
視界が悪いこともあり、警戒心を高め、気配を探る。
ワームのエサは肉。そして、体温を感知することから、動かない魔物を探す必要がある。
気配で動いていない魔物を探す・・・・・・多い。常に動いている魔物の方が少ない。
片っ端から確認する。
まず、1匹目、寝ているホーンラビット。しばらく観察するが、現れる気配はない。
2匹目、スラッシュボア。爪の鋭いボア種。魚を狙っている。しかし、現れない。
3匹目、ホブゴブリン。現れない。
4匹目、ビッグスパイダー。現れない。
5匹目、オーク。現れない。
そろそろ日を跨ぐ時間帯だろう。
急がないと、お腹すいた。
オークをあきらめ、移動を開始しようとしたとき、そばを移動する強力な魔物の気配を感じた。
どこだ!
カーフェは気配を探る。
すぐ近く!
けど分からない・・・。
姿が見えない。
なのに、とても大きな魔物の気配を感じる。
カーフェは動けずにじっとしていた。
魔物の気配は動き出し、オークの方へ向かう。
そして、次の瞬間、地面が割れ巨大な何かが飛び出してくる。
その強大な何かは、飛び出しざまにオークを丸吞みにするのであった。