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オルグラン攻防戦④過去の記憶

盗賊団アギトの首領クリアのスキルにより、燃え盛る屋敷に残されたセピロス一行。


セピロス一行は書斎前の廊下にいた。


「・・・・・・」


セピロスは考え込むように顎に手を当てている。


「セピロス様?」


お互いに意見の共有をしているこの時、一人黙っているセピロスを疑問に思ったアマネが口を開く。


「・・・ああ、いや。何でもない。・・・・・・」


「何でもないような表情はしていませんよ?今は一つでも多くの意見が必要です。何か感じたことがあるのなら話してくれませんか?」


「・・・いや、確証がないのだが・・・。この白い炎・・・どこかで見たような気がする」


その発言に全員がセピロスに目を向ける。


「思い出すことはできませんか?」


「少し待て。今記憶を探っている」


セピロスが目をつぶり、記憶を思い出そうとしている時、突如、寝室の一つの扉が開かれる音がした。


一行は警戒し、武器を構えるが聞こえてきたのは焦りを含んだ声であった。


「お急ぎください、セピロス様。ここはもう安全地帯ではありません!」


「ちょっと待て、何が起きてるんだ?今すぐ説明しろ!」


「説明なら後で致しますので!」


「ちょ、おい。俺様を担ぐんじゃない!」


寝室から廊下に出てきたのは、2人の子供を抱えたメイドの女性。

2人の子供の片方は10歳ほどに見える生意気そうな子供。

もう1人は状況を理解していないが、メイドを見て不安そうにしている5歳ほどに見える男の子であった。


一行は急に出てきたメイドと子供たちに困惑するが、それ以上にメイドが放った”セピロス様”という発言に目を見開く。


「これは・・・」


一行の視線は再びセピロスに向かれる。


「着いていくぞ」


セピロス一行は、メイドの後をついていった。


メイドは子供たちを背負ったまま、屋敷を出る。

セピロス一行も同様に屋敷を出てメイドについていく。


屋敷の前には数人の騎士が待ち構えていて、メイドと話をしていた。


「脱出の準備は出来ていますか?」


「馬車の準備はすでに出来ております。こちらへ」


メイドたちは兵士の後を付いていく。


町中が白い炎に覆われ、様々な場所から爆発が起きている。


2人の子供は爆発を聞くたびに、悲鳴を上げ、縮こまるが、それをメイドが走りながら慰めていた。


「セピロス様・・・これは」


「ああ、分かっている。説明は後でする。今は着いていくぞ」


セピロス一行も走り出した。

道中皆一つだけ分かったことがある。

それはここが過去の記憶であるということ。

それも相当前。

セピロスがまだ10代の子供であった頃の記憶だ。


その証拠に火の暑さ、爆発の衝撃は感じるが、攻撃の的になることはない。

我々はこの世界ではいないものとして扱われているようだ。


メイドと兵士は南に向けて走っていく。


「もうすぐ馬車がある所まで来ます」


メイドたちが走っていると、その先では、必死になって戦っている騎士の姿が見える。


「お前たち!セピロス様がお見えになられた!全力でお守りするのだ!」


敵兵が騎士もろともメイドたちを狙い始めたが、騎士が体を盾にして、攻撃を防いでいく。


「早く行ってください!」


「セピロス様を!」


「さあ、早く!」


メイドは死に行く騎士を子供たちに見せないように顔を抱きしめる。


メイドは何とか戦場を抜けて馬車に飛び乗る。


「ぐっ!」


「ママ!」


メイドの足に矢が刺さり、苦悶の声を上げる。

5歳くらいの男の子が、メイドを”ママ”と呼ぶ。


メイド達を先導していた兵士は馬を操作し走り出す。


セピロス一行も馬車の中に入り込み、一息ついた。


「はあはあ」


メイドは口で息をしながら、足に刺さった矢を抜いていた。


「くっ!」


メイドは再び苦悶の表情を浮かべるが、5歳ほどの子供が駆け寄り心配をする。


「ママ、大丈夫?」


「ええ、大丈夫よ。ありがとう、クリア。ママはこのくらいじゃやられたりしないわ」


クリアと呼ばれた子供はママの笑顔を見て安心するそぶりを見せる。


「なんでそんなガキ連れてきてるんだよ?」


「申し訳ございません。心配で・・・」


「ふん。お前は俺のメイドなんだから、俺の心配だけしろよ!」


「申し訳ございません」


「ちっ!」


幼いセピロスは、メイドの様子を見て舌打ちをする。


「ま、ママをいじめないで!」


そんな姿を見て、幼いクリアがメイドの前に立ち手を広げる。


「何してんだよ」


「ママをいじめないで!」


「うぜーな」


幼いセピロスは、幼いクリアに近づくと蹴りをくらわす。


「おやめください!」


メイドが間に入ると幼いセピロスは、元の位置に戻り、座り込む。


馬車の空気は最悪であった。






馬車での一幕を見ていたセピロス一行。


様子を見ていたアマネが初めに口を開く。


「セピロス様・・・」


「昔の話だ」


「思い出されたのですね」


「ああ、これは今から30年以上も前の話だ。彼女はあのメイドは幼い私の専属の世話係だった。名をたしか・・・ミリアだったな。彼女は私の専属世話係をしていた時、子供がいて共に屋敷で暮らしていた」


「それがクリア・・・彼なのですね」


「そのようだ」


「彼は私にこの記憶を見せたかったということなのだろうな」


「それはなぜ?」


「ミリアを見殺しにした私への報復なのだろう」


「見殺し・・・ですか・・・」


「やむを得なかった・・・というのは言い訳にしかならないだろう」


「・・・」


「最後まで見届けよう。覚悟はできている。脱出するために必要なことだ」


「かしこまりました」


一行は馬車に揺られている間、1人1人考えを巡らせてた。






オルグランを出て南に走っていた。


後ろからは敵兵が迫ってきており、弓矢の嵐が馬車を襲っていた。


セピロスを守るように馬車が馬車を囲んでいる。

その数は5。

このままでは追いつかれると判断した騎士は二手に分かれて、逃走する。


2つづつ3グループに分かれて逃走する騎士たち。

敵兵もそれに合わせて3つに分裂し追いかける。


「ううううううううう」


「大丈夫よクリア、ママがついてる」


「ったく、なんで連れてきたんだよ!奴らは明らかに俺を狙ってんだろ!だったら、こんなとこに連れてこないで安全なとこに隠しておけばよかったじゃねえか!」


「・・・そうですね。私の選択ミスです。私が間違えなければ、この子がこんなに怯えることもなかったのに」


「ちっ!」


馬車はなおも敵兵に追われていた。


「ミリア殿。もうすぐ敵兵と戦闘中の騎士団の本陣に着きます。そこで一時隠れ、逃走の機会を待ちましょう!」


「はい、お願いします」






「なんということだ・・・」


騎士団は馬車を止め、絶望の淵に立たされていた。


視線の先、そこには本陣を潰された騎士団と本陣を包囲している敵兵の姿であった。


「騎士さん?」


馬車が止まったことで、疑問を感じたミリアは馬車内から声をかける。


「どうしましたか!?」


「ミリア殿、よくお聞きください。本陣は落とされていました」


「!?」


「それはつまり・・・」


「助けは期待できないってことだろ?」


騎士団はセピロスの問にすぐに返事をすることはできなかった。


「”はい”か”いいえ”で答えろ。助けは期待できるのか?出来ないのか?」


「・・・くっ、出来ません」


ミリアはこの発言を聞いても、絶望に立つことはなく、次の策を考える。

全てはセピロスとクリアを守るために。


「騎士さん、もっと南に!森に入りましょう!」


「い、いや。今からでは・・・」


本陣に群がった敵兵はこちらの馬車にまだ気づいていないが、後方から追ってくる敵兵はすぐそこ。

敵兵が来れば、今度こそ本陣にいる敵兵にも気づかれてしまう。

これはもはや避けられない。

しかし、まだ諦めてはいけない。

ミリアは騎士に告げる。


「森まで逃げることが出来れば、敵を撒けるかもしれません!道半ばであきらめるは騎士の名折れのはずです。騎士さん!諦めないで!」


騎士はミリアの力のこもった目付きに視線を向ける。

そして、奮起した。

メイドがあきらめていないのに騎士である自分が諦めてたまるかというかのように、強く鞭をふるうと、馬は全速力で走りだした。


狙いは森。

ここでさらに2手に分かれて、さらに敵兵を分断する。


背後から矢を打たれ続けるが何とかかいくぐり馬は走っていく。


ミリアは、セピロスとクリアにあたりそうな矢だけを確実に短刀で捌いていた。

時々、体に矢を受けて傷を負うが、ミリアのふるう短刀の切れは落ちない。


気づけば、森まであと少しというところまで来ていた。

馬も多少の矢傷を受けたことが原因か速度が落ち始め激しく息を切らしていた。


ミリアも多くの矢の嵐を短刀でさばき、その身で受けたことから、メイド服を血で染め、口からも血を流していた。


「ママ!」


クリアは心配してミリアに駆け寄ろうとするが、ミリアは”ダメ!”と大きな声を上げクリアを牽制していた。


やがて、馬に矢が命中したことで、ついに馬が限界を超え、横に倒れる。

森を前にして、移動手段を失ったミリアはセピロスとクリアを背負って森まで走っていく。


「ミリア殿、行ってください!」


「セピロス様をよろしくお願いします」


そう言い残し、敵兵に向かっていき、無残に散っていく姿をミリアは横目で確認した。


ミリアはここまで守ってくれた騎士に涙を流し、そして森に入っていった。






馬車付近に残されたセピロス一行。


「・・・・・・」


森に、ミリアが走って行った方に目を向けるセピロス。


「セピロス様、このままでは行方を失ってしまいます」


「・・・分かっている」


セピロス一行は森に向け、走っていった。


この瞬間にも、彼ら自身に生じている異変に気付くこともなく。






「はあはあ」


すでに森に入って一刻が立とうとしていた。


常に敵兵を警戒し、走り続けていたミリアはすでに心身共に限界を迎えていた。


すでにまともに動くこともできなくなり、木に背中を預けて、肩で息をしているミリア。

クリアは懸命にそんなミリアを励ましていた。


「ママ、大丈夫。大丈夫だよ。僕がついてるから」


そんなクリアの頭を優しくなでるミリア。


そんな中、セピロスははぶつぶつと小さな声を呟く。


「死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない」


疲れ切って、虚ろな目をしていたミリアであったが、セピロスの恐怖に染まった声を聴いて、目に力が戻る。


まだ死ねない。


そう言い聞かせるように、顔を強くたたくと、木に背中を預けながら、立ち上がる。


「お、おまえ・・・」


「行きましょう、セピロス様。私たちはまだ死ねません」


「お、おまえ。この状況でなんでそんなことを言い切れるんだろ。もう戦えるやつもいない。無事なのは俺と役立たずなガキだけだ!」


「役立たずな人間など存在しません!この子も必ずあなたの助けになります」


「そ、そんなこと・・・」


その瞬間、森のどこかから声が聞こえる。


「おい、声が聞こえたぞ。こっちだ」


セピロスは慌てて口をふさぐ。


「行きましょう。立ち止まってる暇はありません」


「ちっ」


セピロスはミリアに肩を預け歩き出す。


「セピロス様・・・」


「まだ、お前を死なせる訳にはいかない。お前は使える駒だからな」


「・・・ありがとうございます」


幼いセピロス達は、奇跡を信じ歩き続ける。

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