冒険者ギルド
翌日、カーフェは再び単独行動を始める。
向かう先はもちろん深淵の森。
早朝、レアードたちからは共に行動することを提案されるが丁重にお断りした。
リリィは何か言いたそうにしていたので、急いで孤児院を出る。
別にパーティーに加わるのが嫌だとか、単独行動が良いだとかそんな理由ではない。
ただ単に、深淵の森で依頼をこなした方が稼ぎが良いから。
これに尽きる。
レアードたちは決して弱くはない。
むしろ、当ギルド内では上の方であることは間違いない。
にもかかわらず、深淵の森に入らないことには理由がある。
理由は簡単。
魔物が強すぎるのである。
すべてが強いわけではない。
しかし、確実に格上が存在する。
そのため、カーフェのように気配を感じ取りやすい人物でなければ事前に避けることもできず、エンカウントしてしまえばそこでゲームオーバーである。
だからこそ、町のギルドメンバーは基本的に深淵の森に寄り付かない。
では、他のギルドメンバーはどこで依頼をこなしているのか。
それは、主に街道の森と大樹の森である。
大樹の森とは、街道の森に面したところにあり、巨大樹が多く聳え立ち、付近では最大の広さを誇る森である。
魔素濃度もそこそこでそれなりの魔物が出現する。
一番人気の狩場である。
しかし、ギルドの依頼は無限討伐任務だけではない。
一般的な依頼から上げると、採取依頼、討伐依頼、護衛依頼、特殊依頼に分類される。
採取依頼は、新緑の森、街道の森、大樹の森等でこなすことができる。
討伐依頼も同様。
護衛依頼は町から三方向に延びる街道を渡る際に発生することが多い以来である。
特殊依頼は、上記の3つ以外の依頼がこれに分類される。
依頼にはランクがある。
そして、ギルドメンバーにも一人一人ランクが存在し、パーティーにもランクが存在する。
そして、依頼を受けられるのは、自身またはパーティーのランクと同等または以下のランクの依頼となる。
もちろん、ランクの判断は非常に精密に行われており、ランクアップの際には必ず審査員が付く。
パーティーメンバーが新たに加わった時も同様である。
そして、依頼のランクも慎重に決められている。
どこで行われる依頼なのか、どのような危険があるのか、どれだけの期間かかるのかによって同じ依頼でもランクが変わってくる。
そして、無限討伐依頼は、場所の指定の表記があるため、同じ魔物の討伐依頼でもランクが変わってくる。
ギルドのランクはSSS、SS、S、A、B、C、D、E、F、Gと10もある。
これは魔物のランクと同様になっている。
つまり、ランクにおいて最重要なのは同じランクの魔物を討伐出来るか否かということになる。
SSSランク・・・討伐できるか分からない。
SSランク・・・数国が協力してようやく討伐可能。
Sランク・・・騎士団長、副団長、Sランク冒険者レベル
Aランク・・・騎士団所属の上位騎士、Aランク冒険者レベル
Bランク・・・騎士団所属の上位騎士、Bランク冒険者レベル
Cランク・・・騎士団所属の中位騎士、Cランク冒険者レベル
Dランク・・・騎士団所属の下位騎士、Dランク冒険者レベル
Eランク・・・騎士団所属の若手騎士、Eランク冒険者レベル
Fランク・・・騎士団所属の見習い騎士、Fランク冒険者レベル
Gランク・・・騎士団所属の見習い騎士、Gランク冒険者レベル
これが魔物のランクであり、目安となっている。
それに加え正しい知識の有無、性格的問題などが加わりギルドランクが決められる。
ギルドのランクアップには、必要となる課題は存在しない。
いつでも申請可能となる。
しかし試験を受ける際に申請したランクの魔物の討伐、筆記試験、面接がランクアップ試験の内容となるので、なかなか厳しかったりする。
カーフェの今のランクはCランク。
この町のギルドではエース格だったりする。
そして、レアードたち未来の守り手のランクもC。
単独でも全員Cランクであるため、同レベルの実力者である。
カーフェは今日も深淵の森に足を踏み入れる。
今日の無限討伐依頼は、オーク種とワーム種の二種類。
この二つの依頼書を選んだのは単なる気まぐれである。
オーク種は前回見かけている。
もしかしたら、付近がオークの住みやすい土地なのかもしれない。
以前見かけた方角へ進む。
もちろん気配察知も忘れない。
道中、いくつかの魔物に遭遇した。
シルバーウルフ、擬態スライム、コボルトナイト等。
シルバーウルフは群れで行動する。今回は5匹の群れだ。
嗅覚が鋭く、近づく前に気づかれる。
5匹は一斉に向かってくる。
シルバーウルフはウルフ種の中で最もバランスの取れた種である。
力、俊敏さ、感覚が均等にあり、欠点の少ない種である。
5匹は連携で攻めてくる。
2匹と3匹で別れて挟み撃ちをする作戦のようだ。
枝を両手に構える。
カーフェは笑みを漏らす。
わざわざ数を分けることを是としたカーフェは、まず数の少ない2匹に狙いをすます。
カーフェは正面にいる2匹に肉薄する。
こちらから距離を詰めることで後方のシルバーウルフとの間に距離を作り同時攻撃を躱す戦法。
正面のシルバーウルフが飛び上がり攻撃を仕掛ける。狙いは首。
しかし、それを読んでいたカーフェは土をつかみ、目に向かい土を振りかける。
視界を失ったシルバーウルフを通り過ぎざまに枝で一突き。
奥のウルフも飛びかかっていたが、リーチの差の勝利。
枝を口内に差し込み命を奪う。
前方の二匹は仕留めた。
枝を回収したいが、引き抜く余裕はない。
後方のシルバーウルフは目前まで迫ってきている。
こちらのウルフも口を上げて首を狙ってくる。
カーフェは口に背負っていたバッグを滑り込ませる。
狙いが分かれば対処もしやすい。
カーフェは自身の腕力を利用して、そのまま後ろのウルフに接近する。
ウルフ同士がぶつかり大きな隙ができる。
その隙を見逃さない。
腰にぶら下がっているナイフを手に持ち、二匹のウルフの喉を割く。
返り血が顔にかかるが、気にしているそぶりは見えない。
残ったウルフから見れば、カーフェは恐ろしい何かに見えたことだろう。
ウルフはおびえた表情で踵を返し、逃走を開始した。
そんなウルフに背後から接近し、ナイフを投げ、胴体に傷を負わせる。動きが鈍ったところに、もう一振りのナイフを振りかざし、とどめを刺すのであった。
素材とナイフを回収し、その場を後にする。
離れたところで、気配を探る。
魔物が移動し始めている。
しかし、強力な魔物はいない。
ひとまず安心する。
カーフェの狩場は深淵の森でもだいぶ浅い範囲である。
長年狩場にしている経験から、めったに冷や汗を流すほどの魔物は出てこないことは知っている。
前回の気配もただの偶然エサを探しに奥から出てきただけなのだろうと結論付ける。
カーフェは持っていたぼろ布でナイフの血をふき取り刃こぼれがないか確認する。
もちろんナイフについては詳しくないので、切れ味の確認しか出来ないのだが・・・。
次は擬態スライムだ。
その名の通り擬態するのが、とにかく下手糞。
色も若干違うし、形も変、おまけにスライム自体ヌメヌメ、ヌルヌルしているから、どう考えても木や花に見えない。
違和感どころの話じゃない。
しかし、倒すとなると話は別。
形のある液体みたいなものだ。
当然刃は通らない。
核は存在するが、攻撃すると消滅してしまう。
ではどうするか?
答えは簡単である。
密閉した容器に閉じ込める。
これだけである。
これは、ギルド推奨の取り方であり、まるまる素材になるらしい。
正直、信じられない。
しかし、問題もある。
それはスライムの大きさである。スライムの大きさは均等ではない。
小さければ捕まえるのも持ち運ぶのも問題ないが、ここは深淵の森。
スライムも例に漏れず大きいのだ。
そのサイズは膝ほどまである。
おまけにゼリーみたいな感覚でとても重い。
捕まえ方を工夫する必要がある。
カーフェは器を手に取る。
いつも常備している500mlサイズの器だ。
これに入るだけ、詰め込む。
そのためには、器に入るだけ体を分裂させる必要がある。
カーフェは戸惑いなくスライムの体内に腕を突っ込む。
スライムの体内は酸性。
もちろんカーフェの腕にも痛みが走り顔を顰める。
その痛みを我慢し、核を掴む。
潰さなければ掴んでも問題ない。
スライムを、臨時で拾った鍋になりそうな歪な石に突っ込み、火にかける。
巨大な石で蓋をして、しばらくグツグツ。
かなり時間がかかった。
太陽がかなり動いている。
待っている間に昼を食べれるほどだ。
おそらく煮込むのに掛けた時間は3時間ほど。
スライムは匂いもしないし、血も吐かない。
魔物は寄ってこなかった。
器に移すと再び、移動を開始した。
次にコボルトナイト。コボルトが武器を持っただけの魔物である。
人の真似をして、鎧を着て、武器を持つ。
今回はナイトなので剣と盾を持っている。
本来コボルトナイトは深淵の森にいない。
なのでこのコボルトナイトはどこかの森から移動してきたのであろう。
しかし、場所が悪かった。
その証拠にやせ細っている。
この森では移住してきたコボルトは餌にありつけないほどの弱者なのだ。
ようやく餌にありつけたのか、鼻息を荒くしている。
・・・もしかしたら欲情しているだけかもしれないが・・・・・・。
しかし、動きが鈍り弱っているゴブリンナイトに、この森で何度も視線をくぐっているカーフェが負けるはずがない。
勝負は一瞬で終わった。
一瞬で肉薄。背後に回り一閃。
これで終わりである。
素材は回収する。
鎧やら武器も回収する。
すべて売却するためだ。
武器などももちろん。
しかし汚いから持ち運びたくない様子。
その後も移動をし続け、ようやくオークの巣を見つけ出すことに成功したのだった。