寄せ集めの家族
開いた窓から風が吹き抜け、そっと顔を撫でる。
カーテンが揺れ、陽の光が何度も目元を照らす。
心地いい涼しさと目元を照らす感覚を感じ、カーフェは目を覚ました。
「昨日は大変だったみてえだな」
カーフェは声の主に目を向ける。
「レアード・・・」
大きな体躯に野性味を感じる言葉遣い。
鋭い眼光。
最年長であるレアード。
孤児院のリーダー的存在である。
カーフェは体を起こしたところで違和感を感じた。
布団に入っている?
服も着替えている?
カーフェはレアードをにらみつける。
「お前の貧相な体を見た所で欲情なんかしねえよ」
とりあえず、ぶん殴る。
「痛って!!感謝しろよ、礼儀知らず」
「・・・・・・ありがとう」
しばし沈黙が訪れる。
カーフェはレアードが口を開くのを待つ。
「おまえ、もう深淵に入るのはやめろ」
「私の事はあなたが一番わかっているでしょう?怪我はもう完治してる」
「なら分かっているだろ。お前が痩せ我慢してることは知ってんだよ」
カーフェは口を閉ざす。
確かに傷は治っていない。
実際体中が鉛のように重いし、ズキズキする。
流石にスキルに頼っても、あれだけの傷は治りきらない。
「一週間、罰として安静だ」
「はあ!?何言ってるのよ!私が一週間も休んだらお金はどうするのよ!?」
「一週間分の貯えならある」
「その先はどうするのよ!ギリギリでしょ!」
「俺たちがおまえの分稼げばいいだけだ」
「そんな無理させらられるわけ・・・・・・」
カーフェは自身の状況にようやく気付いたようだ。
皆も同じように考えてくれているかもしれない。
「カーフェ、あまり大声出すと傷に触るわよ」
その場に現れたのは、年長者組の残り2人。
リリイとカイン。
二人とも物腰が柔らかく、お姉さん、お兄さん肌の二人である。
この年長者3人でパーティーを組んでいる。
「リリイ姉・・・」
「子供たちもとても心配していたよ。みんな眠れなくて、寝付かせるまでに時間がかかったくらいだよ」
カインの発言にはさすがに言い返せない。
カーフェは黙る事しか出来なかった。
「一週間の安静は僕たち三人で決めたことだよ。今回は僕たちの言う事を聞いて」
「でも・・・」
「もうっ、お姉ちゃん命令よ。休みなさい」
「はい」
リリイには頭が上がらないカーフェであった。
「さて、朝食を持ってきたからみんなで食べようか、少し待ってて」
カインとリリイは食事をとりに部屋を出る。
残されたカーフェとレアードに再び静寂が襲う。
「ごめん、レアード」
先に声を発したのはカーフェ。
レアードもその発言に反応する。
「ガキが気にすんじゃねーよ」
レアードは雑にカーフェの頭をなでる。
「子供扱いすんな!」
その後、年長者全員で食事をとる。
皆で食事をとるのも1週間ぶりくらいだ。
やはりみんなで取る食事は楽しい。
その後、1週間じっくり療養していた。
その間遭ったことと言えば、代わる代わる子供たちが様子を見に来て、1週間経つ頃にはたまり場となっていた事。
年長者パーティーの活動記録を聞いたことくらいだ。
ただ気になる点が一つ。
最近ギルドが少し慌ただしくなってきているらしい。
何かあったのだろうか。
そういえば深淵の森の浅い所で強力な魔物の気配を感じた。
関係あるのだろうか?
ギルド内が慌ただしいため、理由を聞けなかったらしい。
さて、見事に復活したカーフェ。
普通は1月はかかるであろう怪我もカーフェの前では1週間で完治する。
また今日から稼ぎに行かなくてはならない。
しかし、今日は深淵の森には行かない。
年長者パーティー・・・いや、未来の守り手の面々のお供である。
お供が必要な理由。
それは孤児院のメンバーのギルドデビューの日だからだ。
孤児院では、いくつかのルールが存在する。
そのうちの一つが戦闘系のスキルの使用は10歳からというものだ。
戦闘系のスキルだろうと、生まれた時から使えるのだから制限しなければ、取り返しのつかないことになる危険性がある。
孤児院のルールとは、仲間を守るためのルールでもある。
今日ギルドデビューするのは3人。
グリード、ブラッド、ティアである。
2人ともとても緊張しているようで、ギルド登録の際は嚙みすぎて涙目になっていた。
未来の守りて一行は、町を出る。
深淵の森と逆方向に足を進める。
目的地は新緑の森。
魔物が少なく、出たとしても弱い。
つまり魔素の薄い森である。
新緑が生い茂り、見晴らしがいいため、護衛同伴でピクニックに来る家族が多い。
まさに初心者にぴったりの森である。
森に入る前にリリイが代表して森に入る際の注意点を伝える。
1.どんな時も冷静さを忘れずに
2.常に自身の位置を把握しておくこと
3.下準備を忘れないこと
簡単に言えばこんな感じである。
さて、まずは武器の装備の確認から始めた。
グリードが両手剣、ブラッドが片手剣、ティアが弓である。
皆武器を持つのは初めて。
持ち方、背負い方、つけ方。
入る前にまず教える。
希望の守り手はそれぞれレアードが両手剣、カインが片手剣、リリィが弓、なので、武器に合わせて一人一人ついて教えていくことになる。
今日は子供たちは見るだけ。
カーフェが基本的に殲滅をして、レアードたちがそれぞれ子供たちに立ち回りを教えるといった流れである。
森に足を踏み入れる。
カーフェが先頭、グリード、レアード、ブラッド、カイン、ティア、リリィの順番で進む。
気配は感じない。
もう少し先へ進まなければならないようだ。
レアードら年長者に目配せをする。
レアードらが頷く。
一行はさらに奥地へと足を進める。
しばらく進むと、気配を感じる。カーフェはナイフを抜く。
意図に気づいたレアードたちは、各々子供たちに指示を送り備えさせる。
草むらから出てきたのは、ホーンラビット。
しかし、深淵の森に出てくるホーンラビットよりは二回り程小さい。
すぐに仕留めるのではなく、あえて出方を伺う。
子供たちに魔物を見せるためだ。
いくらか攻撃をかわしたところで、喉を切り裂き、仕留める。
一行へ振り向くと、各々アドバイスを送っていた。
子供たちの表情は真剣そのもの。
ひとまず安心だ。
その後、魔物を探し、倒し方を披露。
そしてアドバイスを繰り返していた。
この森に出てくる魔物は生き物が少し変化したに過ぎない生き物が多い。
小さいサイズがメインだったので、この森でなら、子供たちだけでもやって行けるだろう。
子供たちは見るだけとは言ったが、戦闘には参加させないといった意味であり、素材の剥ぎ取りなどは子供たちに教えながらやらせていた。
初めてと言う事もあり、男子はやり辛そうにしていたが平気そうにしていた。
何とかなるだろう。
ただティアだけは嫌そうにやっていた。
もしかしたら、役割分担するかもしれない。
日が暮れる時間まで付き合い町に戻る。
子供たちは疲れ果てた様子であった。
特にティアはしんどそうだ。
街に戻る道中、協会職員たちが忙しく走り回っていた。
協会職員の仕事は怪我人の治療と魔素だまりの浄化である。
主に後者、魔素だまりの浄化が仕事である。
魔素だまりとは魔素が異常に集まった空間のことで、これを放っておくと魔物が生み出されてしまう。
その為見つかれば即、協会に報告、協会職員が派遣され浄化が行われるのである。
勿論、この場にいる全員がこの行動に気づいていた。
「あれって協会職員だよね?だとしたら、最近の騒動は魔素だまりが原因ってことかな?」
カインが口を開く。
「そうかもしれないな・・・・・・あの方角は街道の森か?」
答えるのはレアード。
新緑の森の隣、街道を挟んだ向こうに見える大きな森。
それが街道の森。
街道に面しているため、魔素だまりの影響は大きなものになる。
ギルドや協会職員の慌てようも理解できる。
「おいお前ら、間違っても、向こうの森に入ろうなんて思うなよ。わかったな」
ブラッドたちは頷く。
どうやら事の重大性は理解できているようだ。
一行は、街へ帰還した。
ギルドへ行き、素材の売却、ついでに魔素だまりの有無を確認した。
ほんとに魔素だまりが発見されたらしい。
しかも大きい。
一行は、街道の森には魔素だまりの浄化が済むまで、足を踏み入れないことにした。
しかし、この時カーフェの頭の中では、深淵の森での出来事が大きな引っ掛かりを覚えていたのである。