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運命の出会い

王都オクタニア。

円状に広がった土地であり、中心に向けて段階的に高さが加わり見渡しが良くなっていく。

これは王都に攻めてきた敵をいち早く発見するための策であった。

3段に分けられ、1段目が庶民層、2段目が貴族層、3段目が王族層という仕切りとなっている。

その2段目。

貴族層の暮らすとある広大な屋敷にカーフェらは帰還した。


「ただいま帰りました」


カーフェは腰を45度。

きれいな所作で下ろし、しばし制止する。


「お待ちしておりました」


続いて聞こえてくるのは、屋敷内できれいに整列していたメイドの方々。

きれいにそろった動作で一様に頭を下げる。

完璧に揃えられたその所作は芸術と言っても差し支えないものであった。


カーフェらは挨拶の後、玄関前の大広場を越え足を進める。


メイドらも何事も無かったかのように解散し、業務に戻る。


カーフェらは荷物を倉庫に運ぶととある一室に向かう。


コンコン。


「カーフェ及びキーチェただいま帰りました」


暫くの後、「入りなさい」の声を聴いて、室内に入る。


室内で頭を下げ、声の主に目を向ける。


ほうれい線一つないきれいな肌を持つ年若い男性。

かといって若いという印象は見受けられない。

ただ若く見えすぎるというだけである。

その者は、スーツに身を包み、目の前の作業に集中している。


カーフェらはしばらくその場にとどまり、男性の作業が終わるのを待つ。


「遅くなってすまないね」


男性はペンを置き、顔を上げる。

その顔に現れるのは笑顔。

誰もが見惚れてしまうような神秘の笑顔であった。


カーフェらは再度頭を下げる。


「お使いご苦労様。大変だっただろう。特にカーフェ」


「いえ、そんなことは・・・」


「ふふ、君は相変わらずだ」


「これが私の役割ですので。あなたに拾っていただいた御恩。まだまだ返しきれません。本当に感謝してもしきれません」


「あれから5年か。あの頃の君とは別人だと思うほど君は成長したね。おじさん、親になった気分だよ」


「ご冗談を」


「カーフェ、キッチェ。君達は本当によく働いてくれている。私としては何か労ってあげたいんだけどね」


「労いなど不要です。私たちは自らの意思でここにいるので」


「そうか。だが、それで体調を崩しては本末転倒だ。何かあったら遠慮なく言うのだぞ?」


「畏まりました」


「キッチェ。もちろん君もだよ」


「お気遣いありがとうございます」


そして、カーフェらは本題に入る。


「なに?オルグラン辺境伯家からお礼?」


「はい」


カーフェは今回の一件を分かりやすく説明した。


「なるほど、そんなことが」


「はい、ですので後日何らかの接触があるかと」


「分かった。頭に入れておこう」


カーフェらは部屋を後にした。






「オルグラン伯爵家・・・よりにもよってあそことは・・・」


額を抑えて考え込むしぐさをする男性。


この男性の名はシーク。

とある貴族の次男で現在は貴族御用達の商人をしている。

彼は数年前に商会を発足し、約10年で貴族の間では知らぬ者はいないと言われるほどに成長した。

そして、彼の代名詞ともいえる商品がメイドである。

10年前にメイド事業なるものを発足し、その影響は留まる事を知らない。

現在、貴族が雇うメイドの第一候補に挙がると言っても過言ではないほどの人気ぶりである。

そして、商人の武器は情報。

貴族としての付き合いもある為、様々な情報が彼のもとに集まってくる。

良い噂も悪い噂も。


オルグラン辺境伯家。

ルイン王国の西部に存在する領土でミリタリアとの国境に位置している領土である。

ミリタリアが攻めてきた際の防波堤となっているため、この辺境伯家は軍事力に力を入れている。

だからこそ、オルグラン辺境伯家には悪い噂が多いのだ。

曰く、闇ギルドとのつながりがあり、その為に防波堤となりえているとか。

曰く、人体実験に力を入れ、軍事兵器を作ろうとしているだとか。

曰く、領主が裏でイカレていて逆らったら、武器の試し切りをされるとか。

様々な悪い噂が聞こえてくる。

勿論すべてを信じているわけではない。

その存在を疎み、情報攻撃を仕掛けているものがいるという手も考えられるからだ。

しかし、良い印象を受けないのも事実。

そんな辺境伯家は人員の入れ替わりも多いという話を聞く。

まだ接点がないため、事実は分からないが、入れ替わりが多いところにシーク自ら育てたメイドを送る気にもなれない。

ましては、カーフェとキッチェ。

2人ともお気に入りともいえる人材。

出来れば、安全に過ごせるところに送ってあげたいところである。


シークは憂いを抱きながら、過去の出来事を思い出していた。






5年前、あれはトレストの悲劇の直後の話である。


シークは隣国に位置する文化国家スタンピアに向かっていた。

しかし、その直後、トレストの悲劇が起きた。

始めは何の冗談かと思ったが、商人の勘が遠回りせよと信号を鳴らしていた。

シークはとても迷っていた。

現在メイド事業が軌道に乗り、売上はうなぎのぼり。

まだまだこれから伸びていくという所で舞い降りた大変大きな商談であった。

しかし、スタンピアに向かう途中でおきた多くの困難。

これによりシークは窮地に立たされていた。

遠回りすれば困難を避け、安全にスタンピアに迎えるだろう。

しかし、それをしてしまえば、確実に商談に間に合わなくなってしまう。

遅刻は信頼を失う最たるもの。

しかし、トレストを横切る事は未知の出来事である。

なぜ消滅したのか、そもそも本当に消滅したのかも定かではない。

しかし、嘘情報をこうして極秘で知らせるはずがない。

シークは近道か遠回りかで揺れていた。


そして悩んだ末、シークはトレストを横切る道を選んだ。

遠回りしてしまえば、信用を失い、シークの商人の道が立たれる可能性が高い。

しかし、近道に関しては未知である。

シークはその未知に賭けたのである。


シークはトレスト領に侵入した。

そして、シークは信じられない様な光景を目の当たりにした。

そう、何もなかったからである。

トレスト領に名要った瞬間、草木が消え去り、生き物の気配もない。

シークは恐怖を感じたが、その足を止めることはしなかった。

そして、トレストの近くに差し掛かった時であった。

シークは運命の出会いをしたのである。


急いで馬を走らせているとき、目の前に一人の女性がいることに気づいた。

ゆらゆらとゆっくり此方に向けて歩いてくる。

第一印象は不気味、であった。

こいつはなんなのか。

シークはとりあえず、その存在を確認するためにその存在に近づいた。

近くに来てようやく確信できた。

女性であった。

15歳ほどの女性。

見た目からして冒険者なのであろう。

しかし、武器も何も持っていない。

そして、それ以上に驚くべきはその女性が血まみれであったことだろう。

今にも消えそうな命の灯を感じ、シークはその女性に駆け寄った。


「大丈夫かい!?」


「・・・・・・」


女性はシークに目を向けるとその瞬間、糸が切れた様に気を失い、倒れ込んだ。


これがカーフェとの出会いであった。


結局、商談には何とか間に合いメンツは守られた。


カーフェはその間とある病院に搬送されていた。

民宿のような形であるが信用できる。

商談相手に進められたところである。


カーフェが目を覚ますまでの1週間、シークはその商談相手からとある女性を預かり、教育をしていた。

その女性がキッチェである。

キッチェは商談相手の子供ではない。

孤児で偶然拾ったとのこと。

そして、これを機に商談相手にメイドとして譲り受けたのであった。

年はおそらくカーフェと同じくらいであろう。

キッチェはとても好奇心が旺盛なお転婆であった。

だれとも仲良くできそうであり、気さくでありながら気を遣える、そんな印象を受けた。


そして、1週間後、シークはキッチェを連れてカーフェの下を訪れた。


カーフェはすでに目を覚ましていて、ぼーっと時間が過ぎるのを待っているようだった。


「気分はどうだい?」


声を掛けるが、カーフェに反応はなかった。

それどころかどれだけ声を掛けてもこちらを見る気配すらない。

まるで廃人になった様であった。

医者の方も打つ手がなく困っているようであった。


そんなときである。

ここで動き出したのがキッチェであった。

キッチェはカーフェの頬に両手を添えると、思い切り自分の方に引き寄せたのであった。

そうしてようやくカーフェはこちらに目を向けたのであった。


「あなた名前は?」


キッチェは笑顔を浮かべカーフェに声を掛けるが返事はない。


「な・ま・え・は?」


「・・・・・・カーフェ」


消え入るような声であったがキッチェは聞き逃さなかった。


「カーフェっていうのね。私はキッチェよろしくね」


そこからはキッチェの怒涛の質問攻めであった。

この時、気付いたことであるがカーフェは名前以外何も覚えていない状態であった。

しかし、そこからさらに1週間ほど経つ頃には何が起きたのか、今までのことが嘘のようにすべての怪我が治り表情に明るさが混じり始めていた。


「ねえ、カーフェ?あなたこれからのこと考えているの?」


「?」


「私達と一緒に来ない?」


コクコク。


カーフェはしゃべることは出来なかったが、仕草で意思疎通は出来るようになっていた。


そうして、シークはカーフェとキッチェという新たなメイドを手に入れ自宅に帰っていったのである。






そこからの5年はメイド業の規模拡大に専念していった。ルイン王国全土だけではなく遠い国にまで名が広がり、名を知らぬ者はいなくなりつつあった。

そして、この5年でカーフェは著しく成長した。

他のメイド見習いたちが教育を施し、十分な教養を身に付けることに成功したのである。

そのさなかでスキルの勉強をしたり戦闘面も鍛えていった結果、素晴らしいメイドへ変貌したのである。

勿論キッチェも同様だ。

元からの素養によりある程度既にメイドとしての知識を持っていたキッチェに自主的に戦闘面を鍛えさせ、素晴らしいメイドへ成長したのである。






シークは席を立つと同時に嫌な予感が当たらないようにと願い、書斎を後にした。



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