絶望へのカウントダウン④
西の戦場。
カーフェらが保護ギルドにたどり着いた時、最初に目に入ったのは声を震わせ指揮をしているカノンであった。
魔物の軍勢が押し寄せているが、何とかぎりぎりと踏みとどまっている。
しかし、至る所に死体が転がりあまりの惨状に目をそらす。
冒険者の死体も所々に倒れているが、それ以上に市民の死体の多さに驚愕する。
死体の殆どが武器を手に持ち、前方にうつ伏せになっているか、後方に仰向けになっている。
この光景に、市民は戦って命を落としたことが伺える。
「おい、カノン!」
レアードがカノンに声をかける。
「レアード!」
険しい表情を浮かべていたカノンであったが、レアードの声を聴いて明るさを取り戻す。
「どけえ!!」
レアードはギルドに向かわんとする魔物を殲滅するためスキルを放つ。
レアードのスキルで怯んだ隙を狙ってカーフェらが攻撃を仕掛ける。
疲れもあり一撃では倒せないが、それでも確実にダメージを与える。
カーフェらの乱入により一時的に魔物を後退させることに成功する。
「いいところに来てくれた!あと少しで突破されるところだった・・・」
カノンの表情は疲れ切っていて、表情に影を感じる。
後ろめたさがあるのだろう。
それは当然だ。
なんせ守るべき市民を前線に立たせたのだから。
しかし、その策のおかげでまだこの場は死守できているといっても過言ではないだろう。
カーフェはカノンに詰め寄ろうとするがあることに気づく。
市民の傷は皆胸のあたりにあり、背中にはない。
市民は無理矢理に戦わされたのではなく、自らの意志で戦ったのではないのだろうかと。
レアードもそのことに気付いたのか、カノンの肩に手を置き労う。
「まだ、戦況が変わったわけじゃない。まだまだ奥に魔物が待機している。」
レアードらはカノンに合わせて視線を移す。
大通りを埋め尽くすほどの魔物の軍勢がそこにはあった。
「どうしてこんなことに・・・」
カノンは魔物に対し怒りをあらわにする。
「・・・・・・」
レアードらはその問いに答えることができなかった。
「今は少しでも抵抗する時だ。俺たちも力を貸す」
「ありがとう」
カノンは次に街の中心、領主低の方へ目を向ける。
「兵を出してくれれば・・・」
カノンは苦虫を嚙み締めたような顔をする。
カーフェらも釣られて目線を移す。
「領主はこの街の兵をすべて領主低の守りに割いている。この街を守るための兵だというのに何をしているんだ・・・」
街の警備兵の総指揮権は領主にある。
そして、ここの領主は人一倍臆病だと聞いたことがある。
だとしても、これはさすがに反感を買うだろう。
我々にそんな余裕はないだろうが・・・。
そんなこんなしていると再び魔物の軍勢が動き始める。
イリーガルマンティスの群れが先頭にいる。
イリーガルマンティスは鎌を振り上げ威嚇する。
「カーフェ、お前は孤児院に行け!」
カーフェは驚きレアードに目を向ける。
「お前さっきから、孤児院が気になって落ち着きがなくなってるじゃねえか!今のお前じゃあ足手まといになるだけだ!さっさと行け!」
カーフェは立ち止まり考える。
ここも危ない。
今にも崩れそうだというのに私が離れるわけには・・・。
私がいても変わらないかもだけど、ここを離れるなんて・・・。
「行きなさい!」
カノンの声に思わぜ、カーフェは目を向ける。
「やり残していることがあるなら今はそちらを優先してくれ!ここは僕らだけで抑えて見せる!」
カーフェは孤児院のほうへ走っていった。
「お前ら!できる限り市民に手を出させるな!冒険者は前、戦えねえもんは後ろに下がれ!」
レアードは全体に対して素早く指示を出す。
カノンが指示を出したわけではないので混乱しそうではあるが、すんなり指示に従っていた。
カーフェは孤児院目指して足を進めるが直ぐに魔物に包囲され身動きが取れなくなる。
「道を開けろ!」
レアードはカーフェを援護するために障害物を作り出し、道を作る。
魔物が闊歩していて、突破は難しかったがレアードら”希望の守り手”と背後に隠れていた”4つ子の魂”の面々の援護のおかげで障害物を突破しようとした魔物を殲滅し、この軍勢を突破することができた。
「「「「やあっ!」」」」
「はっ!」
尚もカーフェを追うそぶりを見せる魔物がいたが、ファルらとリリイの矢に阻まれる。
「「「「行ってください、先輩!」」」」
遠くで確かにファルらの叫び声を聞いたカーフェはさらに速度を上げる。
「ガキどもを頼んだぞ、カーフェ」
レアードの呟きは戦場に消えていった。
「ぎゃああああああ」
南の戦場、商人ギルドでは、デスモンキーの軍勢に対し商人が手持ちの魔道具を使用することで何とかギルド内への侵入を防いでいた。
「う、うわああああああああ!」
手持ちの魔道具の効果が切れた商人は急いで次の魔道具を用意しようとするが、その瞬間を狙って、腕をつかまれ軍勢の中に引きずりこまれる。
そして聞こえる断末魔!
断末魔を聞いて、商人らはますます恐怖に染まり、過剰に魔道具を展開する。
「馬鹿者!無駄に魔道具を使うな!」
ギルド内から叫び声が聞こえるがその言葉は使用者には届かない。
現在商人ギルドにはこの街の至る所から商人が集まり防衛を行っている。
そして、相手はデスモンキー。
その邪悪な特性を知っているために商人らは涙を流し、血眼になりながら行く手を魔道具で阻んでいる。
使用している魔道具はいくつかあるが、主は結界を張る魔道具。
魔道具であり、一商人でも扱えるように短時間で効果の弱いものだ。
そのため、ギルドの扉という扉に設置し侵入を防いでいる。
しかし、入れ替える時間。
その時間帯はどうしても人動的になる。
そのため先ほどのように手首を掴まれればお終いである。
出来ればリスクがないように重ねがけしたいところだが、扉は至る所にある。
窓もその一つだ。
そしていつまで耐えればならないのかも不明であるために出来るだけ節約しなければならない。
ギルドの側面の窓からデスモンキーが1匹侵入してくる。
窓を抜けそのままギルドの大広場まで降りてくる。
窓にはあらかじめ複数配置しているためその窓はすぐに塞がれる。
しかし、一匹のデスモンキーは言わば体内に侵入した猛毒。
デスモンキーは周囲の人間を襲いだす。
「ぎゃあああああああ!」
「うわあああああああ!」
デスモンキーの特性上死にはしない。
しかし、数人の商人は腕の骨を折られ悲鳴を上げる。
「くそっ!」
商人の一人が、別の商人に襲い掛かり馬乗りになっているデスモンキーを背中から槍で突き刺す。
デスモンキーは命を散らすが残した爪痕はとても大きいものとなる。
焦りに比例するようにだんだんと減っていく商人。
残された商人は恐怖のあまり失禁しだす者もいた。
そんな時、ギルドの外で声が聞こえてきた。
「大丈夫か!」
そこに現れたのは、ボロボロになりながらも到着したレオーネら”神威一閃”であった。
「ここか!」
商人ギルドの正面にたどり着いたレオーネらが見たのは、商人ギルドに群がるデスモンキーの軍勢とその下敷きにされ息絶えている冒険者であった。
デスモンキーは死体となった冒険者には目をくれず、商人ギルドへ侵入しようと群がっている。
「そいつらを踏むな!」
怒りのままに振るわれた刃はデスモンキーを一度に数匹を切り裂き、葬り去る。
レオーネは死体となった冒険者に目を向ける。
目を抉られ、爪を剥がされている。
骨も折られ四肢がおかしな方向へ曲がっている。
涙を流しながら亡くなったことが一目でわかった。
まだまだ下敷きにされている死体が至る所に見えている。
おそらく、まだまだいるだろう。
レオーネらは怒りに染まっていくのを感じた。
隣にエイドスとランザが並ぶ。
「行くぞ!」
レオーネらは一斉に走り出した。
一行はアイコンタクトのみで意図を汲み取り、行動に移す。
レオーネは刀を抜く。
「王華!」
瞬間、戦場に花の斬撃が生まれデスモンキーをまとめて吹き飛ばす。
キエェェェ
キエェェェ
キエェェェ
デスモンキーは脅威と感じ取ったのか、一斉にレオーネに襲い掛かる。
「させぬ!」
エイドスは背後からレオーネを襲うデスモンキーを切り裂く。
雷が迸り、高速で移動していくエイドスはレオーネの周辺のデスモンキーを軽快に切り刻んでいく。
ランザはそんな2人の後を遅れないようについて行く。
キエェェェ
キエェェェ
一直線に進んではいるが、これまでのダメージの蓄積で思うように身体がついていかない。
レオーネはここまでの戦闘でかなりの体力を消費していた。
エイドスもランザも然り。
エイドスも体力の限界が近づきつつあった。
ランザは戦闘にはあまり参加しないもののやはり狙われれば戦わざるを得ない。
大型の魔物との戦いもあり、やはりそれなりに負傷していた。
勢いが落ち、3人ともデスモンキーの多少の攻撃をくらいはしたものの無事にギルド前まで辿り着く。
ランザはすぐさまギルド内に入り、怪我人の治療に入る。
「くそっ!私たちだけでこの数は・・・」
ギルド内に入ったランザを見届けた後振り返るレオーネらだが、辺り一面を埋め尽くすデスモンキーの数に気圧される。
デスモンキーはニヤつきながら徐々に距離を縮めてくる。
「まさかこいつらわざと」
罠にハマったことに気づいた時には遅かった。
デスモンキーは一斉に飛び掛かってきた。
デスモンキーが飛びかかり死を意識した時、目の前のデスモンキーが瞬く間に吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す。
「速やかに敵を殲滅せよ!」
掛け声と共に、鎧を着た兵士が大量に乱入してくる。
「街兵だ!」
「やっときてくれた!」
ギルド内から嬉々とした叫び声が上がる。
レオーネらは援軍の到着に希望を見出したのであった。
北の戦場、宗教ギルド。
ここではどのギルドよりも地獄絵図な光景がみられる。
冒険者、協会職員とレッドゴリラの軍勢。
互いに死体の山を築きながらの壮絶なせめぎ合いとなっていた。
レッドゴリラの腕力の前に苦戦する一行。
死体のほとんどはレッドゴリラによって、体のどこかを破壊されている。
手足が折れている者、千切れている者、一部を欠損している者など事切れている者は皆一様に痛々しいものとなっていた。
ギルド内には避難してきた市民の姿がある。
死屍累々の様子に、皆発狂し泣き叫び顔を伏せる。
協会職員数人が展開している魔道具の結界のおかげで未だギルドは守られていた。
「おらあああああああ!」
雄たけびを上げながら両手剣を振り回すのはエルザノーツ。
全身を血で染めながらもその動きを止めない。
「させません!」
「くらいなさい!」
エルザノーツを狙うレッドゴリラをアンネローゼが拘束し、セレスティアが蹴り飛ばす。
「きゃああああああ!」
着地際に腕を振るうレッドゴリラに体を吹き飛ばされるセレスティア。
「セレスティア!」
エルザノーツはすぐさまセレスティアを救出しに向かうが、レッドゴリラに阻まれる。
レッドゴリラの一撃を腕で受け止めるが、ボキッと音が鳴り、エルザノーツは顔をしかめる。
「このやろおおおおおお!」
痛みをこらえ、両手剣を振りぬくエルザノーツ。
片腕を使用できなくなり、ぶらんと垂れ下がる腕。
その腕に目を向け、エルザノーツは大きく舌打ちをする。
尚もレッドゴリラに囲まれているエルザノーツ。
セレスティアは立ち上がるが体がふら付いている。
アンネローゼもまだ動けるが数の前に気圧される。
ここまでなのか・・・。
そう考えた瞬間、戦況は大きく変わる。
「奴らを殲滅せよ!」
どこからか聞こえた号令により、鎧を着た兵士がレッドゴリラの軍勢に突っ込んでくる。
「だれだ・・・」
エルザノーツの声が届くことはなく、兵士とレッドゴリラの衝突で乱戦が始まった。
兵士の勢いはすさまじくレッドゴリラを徐々に押してきているように感じる。
レッドゴリラ1体に対し兵士数人で槍を突き刺し、最低限の距離を取って戦っている。
レッドゴリラは大きいためそれでも捕まり、胴体を千切られる兵士も多くいたがそれでも見事な奮戦ぶりであった。
「エルザ!」
息を吹き返したアンネローゼとセレスティアが駆け寄り、エルザノーツを担いで戦線を離脱しようとする。
「な、なにをしてんだ!」
エルザノーツは降りようと藻掻くがアンネローゼに尻を叩かれる。
「たまには私たちの言うことも聞いてくださいまし!」
項垂れるエルザを他所にアンネローゼらは一時戦線を離脱するのである。




