古代遺跡③
各戦場での戦闘が終わり、一息つく間もなく局面は大きく移り変わろうとしていた。
四方の柱に光のラインが描かれ、次の瞬間床が光り輝き、一行を転移させた。
「んっ・・・」
カーフェは眩しさに閉じていた目を開くと、そこには見たこともない光景が広がっていた。
先の見えない砂漠地帯。
何が起きているのか分からない状況に困惑していると、すぐそばで何やら聞こえてくる。
目を向けると、そこには姿勢を低くして頭を押さえているトライセンがいた。
「これはいったい・・・」
トライセンも何が起きたのか把握していないようであった。
トライセンはあたりを見回す。
そして、ある一点に目を向けていることに気づきカーフェもそこに目を向ける。
そこにあったのは、光のラインが入った柱。
その一つが存在していた。
「これは・・・・・・」
トライセンは考え込む。
すると、足音が聞こえそちらに目を向ける。
視線の先にはエイドスとセレスティアがいた。
エイドスは無表情で直立不動、セレスティアは明らかに不機嫌で腕を組んでいる。
「エルザ様はどちらにいらっしゃるの?」
「分からない。おそらく違う空間にいるのだろう」
「ここがどこなのか分かっておいで?」
「大体の察しはついた」
3人はトライセンに注目する。
「ここは意識だけを飛ばした空間。疑似空間といったところだね」
「なぜそう思うんですの?」
「魔素の流れを感じない。普通こんなことはあり得ない。こんなことが起きるとすれば夢の中か別世界ってところかな」
「まあ、疑似空間だと仮定するなら、どうやって脱出しますの?」
「さあ。とりあえず、探索してヒントを探そう」
「はあ、不安ですわ」
トライセンを中心に纏まり、行動を開始する4人。
しかし、4人の心情は全くかみ合っていなかった。
「んだあ?」
眩しさのあまり目を閉じていたレアード。
目を開けると、そこに映るは広大なジャングル。
「どうなってやがる・・・」
当たりを見渡すが、見えるのは見たこともない植物ばかり。
しかし、そんな森に一点には光を放つ何かがある。
レアードはとりあえずそこに向かって歩き始めた。
何物にも出会うことなく、何かにたどり着いたレアード。
それは柱であった。
光を放つ柱。
遺跡で見た柱そっくりである。
「ここは遺跡の中なのかあ?」
「あ、あの・・・」
消え入りそうな声が聞こえてきて、目を向けるレアード。
そこには、レイブン、ランザ、ミニヴィアがいた。
「おまえらだけかあ?」
「は、はい!」
怯えながらも言葉を発するランザ。
レアードは頭を描きながらも弁明する。
「あー、怖がらないでくれ。元から柄が悪いんだよ」
「えっと、はい」
依然距離を感じるレアード。
「と、とりあえず何かわかったことがあれば言ってくれ・・・」
顔を見合わす3人。
居心地の悪さを感じるレアード。
「む、向こうに古い遺跡のようなものが見えました」
「なら行ってみるか・・・」
一行は適度な距離感を保ちながらも移動を開始した。
「いったい何が・・・」
目を見開くカイン。
突然の状況に驚愕する。
「遺跡ってこんなことも起きるのか・・・」
目の前には海。
いや、自分が立っている場所ですら水の上。
水平線の彼方まで、見える場所すべてが水で満たされている。
水に触れるカイン。
冷たい濡れる感触。
水で間違いないようだ。
「しかし、なんてすばらしい景色なんだ・・・」
見惚れていたがすぐに気持ちを切り替える。
カインは果ての見えない水の上を歩き始める。
目的地は先の光る柱。
道中、同じく二方向から柱に向かってくる人影が見えてくる。
存在を確認して安堵のため息を吐くカイン。
そして柱の前に集まる4人。
「ここがどこか分かりますか?」
「いや分からん。だが、柱がある事から遺跡のどこかであることに間違いはないだろう」
「ふはははははは!俄然楽しくなってきたな!」
カインの目の前にいるのはエルザノーツ、ガイア、エスノトである。
エルザノーツは動じないといった佇まいでとても頼りになる。
ガイアは楽観的な考えの持ち主のようだ。
エスノトはガイアに背負われた状態で寝ている。
カインはエルザノーツに意見を求める。
「エルザノーツさん、遺跡とはこういうものなのですか?」
「こういうものだ。何が起きてもおかしくはない。といっても、今回のパターンは初めてだがな」
エルザノーツは腕を組んで、カインの意見を待つ。
「即興なのでまずは役割分担をしませんか?」
「話してみろ」
「指揮権はリーダ経験のあるエルザノーツさんに。私とガイアさん前衛をはります。後衛がいないですが、そこは上手いことやりましょう」
「いいだろう。なら、まずは向こうだな。向こうに水で出来た遺跡があった」
「分かりました」
「ふははははは!腕が鳴るぜ!」
一行は行動を開始した。
「んっ・・・」
リリイは目を開く。
徐々に視界が戻り、はっきり見えるようになった時、今までなかったものが視界いっぱいに広がった。
古びた廃墟。焦げ跡のある地面。曇り空でどんよりとした空気。
リリイは狼狽する。
「気がついたようですね」
声に気が付き、視線を向けると、3人の女性が様子を伺っていた。
レオーネ、イーリア、アンネローゼである。
「す、すみません」
すぐに立ち上がり頭を下げるが、レオーネがそれを制する。
「怪我はありませんか?」
「大丈夫です。あなた方は?」
「私たちも全員無事ですわ」
「そうですか」
リリイは安堵した。
「これからどうしますか?」
「そうですね。まずここがどこなのか。どうすればいいのかを考えましょうか」
リリイ達はすでに柱の前でまとまっている。
あたりを見回すが、廃墟しか見えない。
「とりあえずまとまって行動しましょうか」
一行は行動を始めた。
一面砂漠で覆われた景色。
そんな中足を進めるのはカーフェ達であった。
歩いても歩いても先が見えない。
見えるのは同じ風景。
一行は不安を覚えすにはいられない。
「いつまで歩きますの?さっきから歩きっぱなしですのよ」
「どこかに必ず何かあるはずなんだ。もう少しだけ辛抱してくれるかい?」
「ま、まあ。仕方がないですわね。それにしても、不思議な感覚ですわね。実体も感触もあるのにすべて偽物だなんて・・・」
セレスティアは砂漠の砂をつかみ、砂の存在を確認する。
「あくまで推測の話しだけどね。けど確かに、何をどうやったらこんなことができるのか気になる所だね」
「ひとつになる点が・・・」
突然エイドスが割り込む。
「なんだい?」
「我々の肉体は大丈夫なのだろうか。話が真実なら、肉体はいまだ遺跡の中と言う事に・・・」
瞬間、静寂が辺りを包んだ。
「・・・・・・急いで探すか」
「そ、そうですわね」
一行は進める足を速めた。
それから数十分後、ようやく大きな洞窟を発見した。
「怪しいですわね。けど、入らない手はないと思いますの」
「行こうか」
一行は洞窟に足を踏み入れた。
洞窟の中は日陰とは言えないほどに砂が入り込んで乾燥していた。
そのまま、奥に進むと大きな門が目に入る。
造りは遺跡の扉と同じだ。
しかし、今度は近づくと同時に、音が鳴り、扉が開く。
一行は互いに目配せして中に入って行った。
大広場へ出る。
しかし、中も砂漠の砂でおおわれていた。
ただし、その大広場の中心には、巨大な四角い遺跡機械。
一行はそれぞれ武器を構えて待ち受ける。
遺跡機械は動き出し、新たに形を作り出していく。
一部が足となり、顔となり、尻尾となる。
形が出来上がり、その存在があらわになっていく。
長い首に顔から伸びる角。
四足歩行で足は長く、その分尻尾は短くなっている。
この生き物は見たことがある。
古代の文献で古い昔に存在し、今はすでに絶滅しているその生き物は。
「麒麟だ」
高い位置にある顔が一行を見下ろし、影ができる。
ブオオオオオオオオオオオ!!
鳴き声を発すると同時に、長い首を振り下ろし、頭で地面を穿つ。
「くっ!」
カーフェ達は間一髪躱すが、その瞬間扉が閉じ、閉じ込められた形となった。
「どうやら戦わなくてはいけないようだね」
「やってやりますわ!」
一行はそれぞれ麒麟に向かっていくのであった。