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繋がり

キラークイーンとの戦闘の後、カーフェ達は再びギルド病院へやってきていた。


「あなたたちよく会うわね」


ギルド病院の看護師が嫌味を吐く。

ほとほと呆れたような表情を見せる。


「ほっとけっ」


レアードは強がりを言えるほどには回復していた。

これもギルド病院の技術の賜物であろう。


「毒ってものは解毒には時間がかかる。けど、そうだねえ。もともと強くない毒だということを考えれば3日あれば完治できるよ」


そう言い残して、看護師は部屋を後にした。


「無茶はほどほどにしてよね」


レアードはそっぽを向く。


一同はその光景に溜息を吐くのだった。




翌日、カーフェはギルドに顔を出す。

いつものようにご依頼版を確認する。


そしてとある依頼に目を向ける。


剣術指南役募集。

ある人物の指南役を3日間住み込みで教えるというものだ。

依頼場所は貴族街になっている。


貴族の依頼か。貴族にあまりいい印象はないが、報酬が良いしやってみるか。


依頼を受領し、貴族街に向かう。

街の中心部に向かうにつれて街が豪勢に奇麗になっていく。

すれ違う人も皆奇麗な着物に身を包み、各々自分の役割を全うしている。


見栄えが良くなっただけで、やっていることはあまり変わらない気がする。


そんな感想を持つ。


そして目の前にそびえるやたらと目を引く豪邸に目を向ける。

街の中心に位置していて高台の上に建てられている。


高いところに建物を建てて、下々の者を見下ろす。

あまりいい趣味ではなさそうである。


「あれが領主邸、ほんとデカいわね」


その大きさが領主の権力そのものを表しているようである。


今回の依頼は貴族の剣術指南役。

どんな建物。どんな人物かと少し不安を覚えるカーフェ。


少しずつ中央から離れていき、少し寂れた雰囲気の路地を進むと目の前に依頼主の建物が見えてくる。


大きな仕切りで土地を分け、門には警備員が駐在している。

門の先には、大きな広場と目に入る特徴的な噴水。

広場と豪邸の色合いが見事で、もはや芸術と言ってもいい。

そんな風にカーフェは感じた。


カーフェは息をのむと、ゆっくりと門に近づく。

そして、警備員に経緯を説明する。

警備員は一人を残し、警備室に入る。

待つこと1分。

門が開き、カーフェは足を進める。


広間を抜けて豪邸の前まで足を進めると、豪邸から女性を先頭に同じくらいの男性と幼い男の子が出てくる。


「初めまして。ようこそおいでくださいました」


女性は頭を下げる。

その女性の所作は美しいといえるもので動作の一つ一つに優雅さを感じ自然体であることが感じられる。

カーフェは我に返ると、あわてて頭を下げる。


女性は、カーフェの様子を見ると、口元を手で隠し、笑みを浮かべる。


「緊張なさらないで下さい。あまりいい立場でもありませんので」


カーフェはそれでも緊張は解けずにいた。


「私はエンド子爵家の末端、末の娘のアリアーゼと申します。以後お見知りおきを」


「わ、私はカーフェと言います。よろしくお願いします」


「まずは中へお入りください」


カーフェはアリアーゼに導かれ豪邸の中へ入っていく。


豪邸の1階。とある部屋に連れていかれる。

応接室というやつなのだろうか。

ギルドとはまるで違う。

カーフェの対面には、アリアーゼと共にいた男性と男の子が座る。

執事らしきタキシードを着た年寄りがやってきて、飲み物とクッキーをテーブルに置く。

そして、年寄りは頭を下げ部屋の隅に控える。

場違い感がありすぎて、いたたまれない気持ちになるカーフェ。

しかし、ソファーの座った瞬間、その沈み具合に驚いているとアリアーゼは笑みを漏らしてカーフェは見つめていることに気が付く。

カーフェは顔を赤くして、きちんと座りなおす。


「ふふっ、貴族のご依頼を受けるのは初めてですか?」


「はい、すみません」


「いいのですよ、ではさっそく今回の依頼について話をしましょう」


カーフェは気を引き締める。


「今回、剣術指南を頼みたいのは、こちらの私の旦那と息子です」


「なるほど、わかりました。しかし、失礼でなければこちらからも一つよろしいですか?」


どうぞ、と答えるアリアーゼ。


「3日では教えることにも限りが出てきます、それでもよろしいですか?」


「ええ構いません。今回は剣術指南というよりは確認の面が多いのです。まず息子、メルトと言いますが、この子は幼い時から剣術を習ってきました。今回この子が冒険者になりたいというのであなたには冒険としての意見を聞きたいのです」


「なるほど理解しました。では旦那様の方は?」


「旦那の方は正直、剣術の「け」の字もありません。正直、運動能力もからっきしで、むしろ私の方が強いぐらい。なので、息子の空いてる時間で、少し稽古をお願いしたいのです」


「分かりました。出来る限りやってみます」


「お願いしますね」


そして、前金を貰い、任務が開始された。


案内されたのは指南スペース。とりあえず剣道場とでも名付けよう。

剣道場に案内されて、各々準備を始める。


カーフェの前に2人が並び、指示を待つ。


「まず息子さん・・・メルトさんの実力から見ていきます。そのあとに旦那様の順で行きます」


「あの、私のことはダウナーとお呼びください」


「分かりました、ダウナーさん」


「私のこともメルトでいいです。よろしくお願いします、師匠」





さっそく模擬戦に入る。

2人とも木剣を渡され構える。


カーフェはメルトの構えを観察する。

基本を忠実に再現した構え。洗礼されていて、構えのブレの無さから真面目に学んでいたことがわかる。


初めにメルトが距離を詰める。そして、横なぎに木刀を振るう。

カーフェはそれを木刀で受けず、半身を引くだけで軌道から外れる。


メルトは驚いたそぶりを見せるが、すぐに次の一撃の為に動き出す。


カーフェは一撃一撃を冷静に見切り、時には躱し、時には木刀で受け止めることで防いでいた。

正直、甘すぎる。

メルトの一撃はお世辞にも早いとは言えない。

むしろ、戦闘向きのものではない。

この動きはお遊戯会とか見世物としての動きである。

大体メルトの剣術のことは理解できた。

これ以上長引かせる必要なない。

メルトが大振りをしたところで、懐に飛び込み、木刀を叩き落とす。


「参りました」


メルトは、負けを認めるのであった。


メルトの息が整うのを待ってから、カーフェは口を開く。


「筋はいいと思う。しかし、基本に忠実すぎて、動きが単調。そして、少しづつ大振りに変わっているわ」


「確かにすべて見切られていました。それに攻撃が通らなくて焦っていたところもあります」


「冒険者に大切なことは、それだけ自分を美しく見せることではないわ。最も大事なのは、自分が生き残るために何をすればいいのかということよ。冒険者に奇麗さとか優雅さはいらない。必要なのは、泥臭さと気力よ」


「泥臭さと気力・・・」


今まで聞いたことのないような言葉だったのか、感銘を受けているように感じた。


「次はダウナーさんよ」


ダウナーはゆっくりと立ち上がり所定の位置につく。


「お願いしますね」


ダウナーが頭を下げ、模擬戦が開始される。


ダウナーは初め、相手の出方を窺うそぶりを見せ攻めてこない、仕方なくカーフェから仕掛けることにした。


距離を詰め、様子を窺う。


・・・・・・まったく反応できていない。

そのまま頭を軽く小突いて一本を取る。


「あ、あれ?」


ダウナーは何が起きたのかわからず、小突かれた頭を押さえる。


想像以上に弱かった。

いや、剣術の「け」の字もないとは聞いていたが、まったくもってその通りであった。


メルトはまだまだ教えることがたくさんあるし、ダウナーに至っては剣術以前の問題である。


濃厚すぎる3日間になりそうだとカーフェは頭を押さえたのだった。

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