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後輩

パーティーの翌日、カーフェはギルドへ向かう。


いつもより少し遅い時間。

のんびりあくびをしながら向かう。


ギルドに入ると、中は喧騒に包まれていた。


「何かあったの?」


カーフェは担当ギルド職員に尋ねる。


「また魔素だまりだよ。しかも今度は複数」


「もしかして、深淵と関係ある?」


「いや、恐らく無いだろう。街道の森と大樹の森に出来た。さっそく、ギルドは対応に追われてるよ」


「ふーん」


カーフェは踵を返して、ご依頼版へ向かう。

しかし、そこに待ったがかかる。


「そういえば、君に頼みがあるんだった」


「?」


「ランクアップ試験の審査官をやってもらいたい」


「そんなに人員が足りないの?」


カーフェが疑問に思うのも無理はない。

いくら魔素だまりで忙しいとはいえ、ギルド職員ではなく、別の者に依頼を頼むなど今まで無かったからである。


「もちろん報酬は出す」


「内容は?」


「今回の試験はDランクへのランクアップ試験だ。会場は大樹の森。魔素だまりの関係から範囲は限られてくるが、討伐対象はDランクの魔物。対象は問わない。討伐し、素材を取ってくるまでを監視するのが君の役割だ」


「つまり、自力で討伐するのを見届ければいいのね」


「ああ、それと君が手を出したら試験は終了となる。その判断は各自に任せている。それと最後に試験時間は午後1時から。4時までに回収し、ギルドに討伐すること。メンバーは4人だ」


「分かった。引き受けるわ」


「助かる。じゃあ、1時にギルドに集合だ」


「ええ」


仕方ない。カーフェは街で時間をつぶすことにした。



午後1時。

カーフェがギルドに入ると、知らないギルド職員のそばに、4人の冒険者が集まっていた。

カーフェは受付員に目配せすると、4人を観察する。

カーフェと同じくらいだろうか?女性4人パーティーだ。

そして何より顔がそっくり。

4つ子だろうか。


「よし、全員集まったな。まず、今回の審査官をするカーフェだ」


よろしくとあいさつをするカーフェ。

心なしか4つ子の目が輝いている気がする。


「では、試験の簡単な説明を今一度するぞ。試験会場は大樹の森。討伐範囲は大樹の森の東側全域。西側には入るなよ。討伐対象は、ランクDの魔物全般。4時までにギルドに戻ること」


説明を終えると試験を開始すると言い残して、裏手に入っていった。


一行はギルドの前に集まると、それぞれ自己紹介をする。


予想通りこの子たちは4つ子のようだ。

順番に長女ファル、フィル、フェル、フォルと言うらしい。

武器は全員弓。必中というスキルを全員所持しているらしい。

パーティー名は”4つ子の魂”。

そのままだ。


全員中距離武器。どんな戦いをするのか楽しみだ。






大樹の森に向かう道中、カーフェは4つ子にやたら話しかけられていた。


どうやら、この4つ子はカーフェのファンのようだ。

ぐいぐいと食い気味に距離を縮めてくる。

こんなタイプの人間は初めてだ。カーフェは非常に戸惑っていた。


4つ子の話によると、小さいころカーフェに助けられ。

それが要因となり冒険者を志すようになったとか。

カーフェは覚えていなかったが、少しばかり気恥ずかしさを覚える。


それ以降カーフェの動向をにずっと注意し、ストーカーをしていたらしい。

深淵の森はさすがに入れなかったが、戦闘を見てみたかったと悔しがっていた。

なんというか、彼女らを見ていると犬のように見えてならない。

ずっと尊敬のまなざしを感じる。

私はそんな尊敬されるような人間ではないはずなのに・・・・・・。






大樹の森にやってきた。

話を聞いていたからか、思ったより早く着いた気がする。

大樹の森には魔素だまりのせいか警備員がいる。

話をするとすんなり通してくれた。


「私は見ているだけだから、あなたたちの力見せてみて」


「「「「はい!」」」」


息の合った返事だ。

これなら連携も問題なさそうだ。

さて、お手並み拝見。




4つ子のリーダーは長女のファル。

彼女が先頭に立ち指揮を振るう。

次女フィル、三女フェルが左右の確認、四女フォルが後方確認をして一列に並んで進んでいく。


カーフェは少し距離を取って着いていく。


このあたりの魔物の生息地は基本変わらない。

深淵にいるランクの低い魔物は新緑の森、街道の森、大樹の森にも出現する。

つまりウルフ種やキラービー種も多くいる。


彼女らは何を討伐対象に選ぶのだろうか。


しばらく足を進めると、川が見えてきた。

川を見つけると彼女らはアイコンタクトを取り、各自行動を開始する。


各自弓を構えると、矢を放ち魚を捕まえる。

ある程度集まったらその場で火を通し、そのままこの場を離れ隠れる。

何かを待っているようだ。

火をおこしながら何か細工をしていたのが気になる。


しばらくすると、ある魔物がやってきた。


クマのような容姿に鋭利な爪、長い尾。

グレイブボアである。

通常のボアより爪が細く鋭い。

そして尾の一本一本も鋭く出来ている。

それにより、多数の攻撃手段で餌を捕まえることが出来る。

体が少しばかり小柄なのも特徴の一つである。


グレイブボアはランクD。

彼女らの標的はグレイブボアであったようだ。


グレイブボアが現れたのを確認すると、彼女らは次の行動を開始する。


彼女らは四方に散らばり木の上に上る。

そして、それぞれバラバラのタイミングで矢を放つ。

彼女らは必中のスキルを持っている。

攻撃は必ず当たる。


グレイブボアもすぐに矢に気づき応戦しようとする。必中のスキルを活かした死角からの攻撃に手を焼いているようだ。

おまけに標的を絞られないように、あえてバラバラのタイミングで矢を放ち、グレイブボアの体力を削っていく。

グレイブボアは傷が増えていくごとに動きが鈍っていく。


恐ろしい連携だ。

カーフェは戦慄していた。

連携がいいなんてものじゃない。

タイミングを変えるといっても、四方4人がかりでの絶え間ない攻撃だ。

矢の雨といってもいい。

貫通力がなく、少しずつ削っていくしかないのが欠点だが、相手からしたら堪ったものではないだろう。


やがて、長女ファルの放った矢が両目に刺さり、失明。

標的の位置すら確認出来なくなったグレイブボアでは格好の的となり、やがて動かなくなった。


グレイブボアの死体を確認したのち、素材と魔石をはぎ取り、戦闘を終えた。


結果を言えば完勝。一方的であった。


文句の付けようがない。

カーフェはそう感じた。


彼女らはカーフェのもとに集まり、何かを求めているようであった。

意図を理解したカーフェは、溜息を吐き、彼女らを一人一人撫でるのだった。




全員お代わりを欲しがったので、長くやることになった気がする。

ほどほどにして、ここらで説教を入れる。


森を舐めるな、と叱ると、彼女らは硬直して動かなくなった。

ショックだったようだ。






そして、ギルドに戻る。

午後2時半。

早い時間に戻ってきたが、ギルド職員は誰も驚いた様子を見せなかった。


「で、結果は?」


「合格」


カーフェはギルド職員の問いに答える。


「よし、お前たちはたった今からランクDパーティーだ」


彼女らはとても喜んでいた。


カーフェも報酬をもらって笑みを漏らす。

世の中やはり金である。


依頼を完了し、解散となった。






解散にはなったが、その後カーフェは”4つ子の魂”の面々と共にいた。


夕飯を誘われ断り切れず、今に至る。


「えっと、えーっと。深淵について教えてください!!」


「私たちと模擬戦を!!」


「稽古を!!」


「一緒に暮らしましょう!!」


各自勝手に会話を展開させてくる。

もちろん最後だけはきちんと断ったが。


夕飯の時間、彼女たちといろいろな話をした。

生い立ち、趣味、夢から友達、家族、苦労話などいろいろなことを聞いた。


正直、羨ましいと感じた。

カーフェは今までの人生自分のことに時間を使ったことなどなかったからだ。

だからこそ、今のこの時間がとても新鮮で有意義なものになった。


そうして仲を深めたところで、今度こそ解散になった。

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