変化
初めての奉仕活動を終えてから、カーフェはひたすら奉仕活動を続けていた。
期間は約1か月。
ギルドに戻った後、知らされたことである。
まず初日はお婆さんの家の庭の草むしり。
翌日からは商業区にある旅館の掃除をこなした。
旅館はとても広く、掃除範囲も客室に食堂、露天風呂と広大であった。
次に公共施設、広大な公園の管理である。
草むしりにゴミ掃除、係員とともに遊び場の点検などを行った。
次はとある和菓子店の売り子および接客。
そして、大手販売店の接客。
今までしてこなかったことを多くこなす期間となった。
もちろんカーフェは不慣れである。
しかし、持ち前の根性と器用さと起点の良さで何とか切り抜けていった。
そんな中カーフェを最も苦しめたのは、やはり人付き合いであった。
和菓子店から大手販売店はもっぱら人と関わってなんぼの仕事だ。
人との関わり方をあまり知らないカーフェはとても苦労していた。
だが、カーフェは消して逃げ出すことはせず、一人一人ときちんと向き合う姿勢を見せていた。
これはカーフェにとって大きく変化したポイント。初日のお婆さんとの出会いがあったからこその変化なのかもしれない。
一月の奉仕活動を終えたころには、カーフェの表情から硬さが取れ、自然な笑みが漏れるようになった。
顔見知りも出来、以前とは見違えてみえる。
仕事中に客に話しかけられることも増え、世間の評価が大きく変わったことが感じられる。
この変化を最も喜んでいたのは"希望の守り手"の面々。
つまり家族である。
リリィやカインはもちろんのこと、レアードも初めは心配するそぶりを見せていた。
初めのうちは早めに依頼を切り上げて、こっそり様子を見に行っていたほどだ。
しかし、帰宅した際のカーフェの表情がだんだんと変わってきたことで、レアード達の心配も消え、普段通りに戻っていった。
また、この変化にはギルド職員も驚いていた。
毎日、奉仕活動の報告をカーフェ本人から受けていたが、だんだんと笑顔を浮かべるようになったこと。
声が弾んで聞こえる気がするようになったようだ。
また、担当員のような立場になっているギルド職員でさえも、初めて笑顔を見た、と驚きを見せていた。
そして、一月の奉仕活動を終えたカーフェは、現在子供たちとともに街中を観光していた。
共に行動をしているのは、リア、シル、エアの三人である。
他の子どもたちも誘ったが、他の子はまだ怖がって孤児院を出れないである。
そのことに心を痛めるがひとまずは、彼女らとの交流を楽しむことにする。
「外を歩いて回るの初めてだね!」
リアはとても落ち着かない様子であたりを見回していた。
「あ、あっちから回ろうぜ」
シルはどうやら窃盗をしたお肉屋さんのほうへは行きたくないようだ。
「だ、だいじょうぶかなぁ?」
ほとんど外に出たことはないエアはカーフェの袖をつかんで離さない。
三者三様の反応にカーフェは笑みを浮かべる。
「大丈夫よ。みんなそこまで私たちのこと嫌ってないから」
全員とは言わないけど、という言葉は噤んでおく。
「私、調理器具が欲しいの!」
リアは現在、料理を担当している。
リアのスキルはブレンドという。
このスキルは、どんなものもうまく合わせられるようになるというスキルで料理に活かせている。
なので、リアの料理に失敗はほぼないのだ。
そんなリアが調理器具が欲しいというのは当然の要求である。
「分かったわ。まずは大手販売店に行きましょうか」
カーフェたちが向かったのは、カーフェが接客を経験したお店。
中に入ると、働いていた時のことを思い出す。
カーフェはリアらを連れて、キッチン用品エリアへ向かう。
道中、かつての仕事仲間に出会い、手を振るなど、仲の良さを見せていた。
「お姉ちゃん、ここで働いていたの?」
「そうよ、ここで一週間ほど臨時で働いていたの」
「すごーい!」
「こらっ、静かにしなさい」
リアとの一連の光景を見て、微笑ましそうに横切っていくお客さん。
カーフェは少し恥ずかしそうにする。
キッチンエリアに着いたリアは目を輝かせて動き回る。
シルとエアもここが何なのかよく分かっていない様子であったが、動き回れることが楽しいのか笑みを浮かべていた。
そうして、調理器具を購入したカーフェたちは次に娯楽施設へ向かった。
娯楽施設を楽しみにしていたのはシルであった。
娯楽施設にも顔見知りがいて挨拶をした。
主に行ったのはボール遊び。
決まった位置から的にボールをくぐらせたり、ボールを相手の陣地に蹴りだしたり、カーフェも楽しい時間を過ごしていた。
途中から、顔見知りの家族も交じってみんなで遊んでいた。
いくつかのグループがまとまったおかげでリア、シル、エア、それぞれに友達ができたようだ。
カーフェにはそれが何より嬉しかった。
娯楽施設を出て、遅めの昼食をとる。
ここは行ったことのないところ。
しかし、カーフェたちを遮るものは何もない。
周りの目を気にすることなく、食事を楽しむことが出来た。
これもすべて特別報酬と臨時収入のおかげだ。
束の間だけど、このような時間を作ることができてカーフェは満足していた。
次に向かうのは大きな公園。
これはエアの要望で、エアは病弱なこともあり今まで外にほとんど出たことがなかった。
思いっきり走り回りたいそうだ。
娯楽施設で遊んだ後だというのに、疲れ知らずだ。
リア、シル、エアの三人は公園で遊んでいるほかの子たちとともに鬼ごっこをして遊んでいた。
カーフェは、他のママ友に混ざって話を合わせている。
年齢が違いすぎて、少し苦労しているようだ。
最後に向かったのは、和菓子屋さん。
ここもお世話居なったところだ。
家で待つ子供たちにたくさんお菓子を買ってあげたい。
カーフェはまさに孤児院のママの様である。
ここでも、従業員の顔なじみと会話をし、帰宅した。
孤児院に戻ってきた時、もう日が沈み始めていた。
子供たちは、興奮が収まらないのかまだウズウズしている。
カーフェは笑みを浮かべて、家の扉を開いた。
家では、子供たちが今か今かと待ち構えていた。
家を出る前にお菓子をたくさん買ってくるという発言によるものだろう。
子供たちの目は輝いていて、皆大きな袋に視線を向けていた。
「ただいま。お菓子は夕飯の後よ」
子供たちはブーブー言うがカーフェは無視。
久しぶりにリアの夕飯の手伝いを始めた。
この日の夕食後はパーティーの様だった。
レアード達希望の守り手の面々とともにテーブルいっぱいに広げたお菓子を皆で取り合って食べる。
子供たちだけでなくレアード達でさえそうだ。
食べきれないほどの量が勢いよく消えていく。
カーフェも負けじとお菓子を胃袋に入れていった。
この日は忘れられない日となるだろう。
皆の楽しそうな声、溢れんばかりの笑顔、周りを楽しませようとする仕草。
すべてがいままで経験したことのない光景であり、夢のような時間。
誰一人欠けることなく皆で成長していく。
そしていつでも、いや毎日パーティーを開けるくらい頑張ろうとカーフェは心に誓ったのである。




