エピソード0
やっとこの日が来た。
私は快晴の青空の下、綺麗な花に囲まれた草原を進んでいる。
草原に咲く花々に目を向けて、世界はこんなにも美しかったんだと実感する。
耳をすませば、森のさざめきが聞こえてきて心地よさを感じる。
一歩一歩、踏みしめる度に私がしていたことへの罪の重さを感じてしまう。
私がしていたこと。
それは人類を世界を滅ぼそうとした事だ。
実際、私は特別な力がありそれが可能であった。
幸い、手遅れになる前にある人物が私を止めてくれた。
本当に良かったと今は心から感じている。
ふと気配を感じて私は視線を前に向ける。
ドクン!
彼を見た時、鼓動が大きくなる。
185cmくらいかな?
私より一回り高い。
金髪のイケメンで高価な鎧を身に纏っている。
私を、世界を救った張本人『元勇者』だ。
「やあ、久しぶりだね」
元勇者の言葉には慈しみのようなものを感じる。
こんな私なんかの為に涙を流し、今まで生かしてくれた。
彼がいなかったら私はとうに死んでいただろう。
「久しぶり。それよりも私に手錠もハメないなんて何考えてるの?私がヤバい『人』だって知ってるでしょ」
「ああ、分かっている。君が『人』だって事はね」
あの日、私の野望は勇者によって叩き折られた。
今となってはそうなって良かったと思っている。
けど、時々思う。
彼が居なかったら、この世界はどうなっていたのだろうと。
私の思い描いた世界になっていたのだろうか、と。
今の私は死んだ存在として処理されている。
もちろん目の前の男によって。
そのおかげで今もこうして生きていられる。
けど、それももう終わり。
「ねぇ、王様になった気分はどう?」
「大変だよ。今まであった国の王様、貴族が全て滅んでしまったせいで、一から国をつくに直さないといけない。全ての国が一つになったのは良いけど、国土が広すぎて見切れない。遠い将来また国が分裂するんじゃないかって気が気じゃないよ」
「そうなんだ。時代が変わっても争いは無くならないのね」
「生き残った者が新たに争いを生む。第二の君が生まれないように努力するよ」
私と勇者(王様)は互いに見つめ合う。
「本当に良いのかい。今の君なら人生をやり直すこともできる」
ああ、本当に慈悲深い人だ。
こんな私にそんな目を向けてくれるなんて。
「ううん。それは許されないことよ。私は、死ななければならない人間。生きて償えっていう人はいるけど、私は死んで償わなければいけないの。私が死なないと、本当の意味で世界は次に進めない」
私は草原の中正座し、首を差し出す。
「この日をずっと待ってたの。500年も生きて、もう私を知るものは、友達も家族も誰もいない。私の居場所はここじゃないの。だからお願い。私をみんなの元に送って」
しばらく待つと、ようやく剣を抜く音が聞こえてくる。
覚悟が決まったみたいだ。
「分かった。『元』勇者として、新たな世界の王としてこの手で今度こそケリをつけよう。さようなら」
その言葉を最後に意識が途切れる。
魔女カーフェ、500年の人生を持ってようやく解放されたのである。