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087・王都の公園

 バフォン


 炎と翼をはためかせ、僕らは、王都から数百メード離れた街道に着陸する。


 さすがに街中には降りられない。


(ふぅ……)


 安定した地面。


 それに、何だか安心する。


 ティアさんは、長い黒髪を手で払って整え、それが凄く様になっていた。


 視線が合い、


 クスッ


 彼女は、少し恥ずかしそうに笑う。


 そのあと、炎龍の槍に括り付けてあった各自の旅の荷物を背負うと、


「よし、行くか」


「うん」


「はい」


 赤毛のお姉さんの号令で、僕らは街道を歩きだした。


 …………。


 …………。


 …………。


 王都の城門前だ。


(……うん)


 今日も混んでる。


 門前には、たくさんの旅人や馬車などが入都審査・手続きのために行列となっていた。


 30~40分かかるかな?


 と、その時、


「おい、見ろ」


「炎姫様だ」


「へぇ、あの人が……」


「綺麗な人ね」


「一緒にいるのは誰だ?」


「さぁ?」


「黒髪のお姉ちゃん、美人じゃねぇ?」


「きっと2人は、炎姫様の今回の冒険者仲間じゃないかしら」


「あの子供も?」


 ザワザワ


 そんな感じで、注目を集める。


(ああ、そっか)


 炎を噴きながら、空からあれだけ目立つ登場をしたんだから、みんな気づくよね。


 この注目も当然だ。


 でも、小心な僕は落ち着かない。


 こういうの、


(正直、苦手です……)


 と、若干、遠い目だ。


 でも、悪いことばかりじゃなくて、


(ん……?)


 門の方から王国兵が2人やって来る。


 僕らの前で敬礼し、


「失礼。第1級冒険者のシュレイラ・バルムント様でしょうか?」


 と、聞いてくる。


 炎姫様は、頷いた。


「ああ、そうだよ」


「やはり、そうでしたか」


「では、すぐに入都の手続きを行いますので、こちらへ」


(え……?)


 僕は驚く。


 もしかして、特別扱い?


 でも、赤毛のお姉さんは慣れた様子で「ああ、助かるよ」と頷いていた。


 僕らに、


「何してんだい、行くよ?」


「あ、うん」


「はい」


 頷き、ティアさんと顔を見合わせる。


(そっか)


 王国最強の第1級冒険者。


 その肩書きは、こんな恩恵も受けられるんだね。 


(凄いなぁ……)


 素直に感心してしまう。 


 …………。


 他の人には申し訳ないけど、そうして僕らは特に待つことなく、王都内に入ることができたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 相変わらず、賑やかな王都だ。


 建物も多く、道も広く、人もたくさんいる。


 ワイワイ ガヤガヤ


 聞こえる喧噪も大きい。


 広い車道には、馬車が何台も行き交い、小さな砂埃を舞わせていた。


 時刻は、夕暮れ。


 歩道の街灯は、すでに光っている。


(綺麗だな……)


 宝石みたいに光が散りばめられた景色は、どこか幻想的でもあった。


 しばらく見惚れてしまう。


 ティアさんも同じように景色を見ながら、


 キュッ


 僕の手を握る。


(……うん)


 気持ちはわかる。


 これだけ人が多いと、何となく自分が1人なのを強く感じてしまう。


 だから、人恋しくなるんだ。


 僕もキュッと握り返す。


 何となく、安心する。


 そうしたら、頭も回転してきた。


(さて……)


 この時間だと、ジムさんのお店に顔を出しに行くには、さすがに遅いだろう。


 本日は、開店前日。


 きっと忙しいだろうし、


(会うのは、明日かな)


 その方がいいと思う。


 となると、


「今夜の宿、探さないと」


「そうですね」


 僕の言葉に、頷くティアさん。


 王都だから宿屋も多いけれど、泊りたい人も多いからね。


 満室なことも多い。


 だから、どこか見つかるといいんだけど……。


 と思ったら、



「――なら、アタシの家に泊まるかい?」



(……え?)


 僕らは、シュレイラさんを見る。 


 赤毛のお姉さんは、


「王都にもアタシの家、あるからさ」


「…………」


「…………」


「宿屋に泊まって金を払うのも、もったいないじゃないか」


 と、おっしゃる。


 王都に持ち家。


 そう……彼女は、炎姫様だ。


 王国で1番の冒険者なのだから、当然、お金持ちなのである。


(そっか)


 僕は、納得。


 その上で、


「いいの?」


「もちろんさ」


「ありがとう、シュレイラさん。じゃあ、お言葉に甘えて」


「ああ、歓迎するよ」


 彼女は、笑顔で頷いてくれる。


 ティアさんは、


「……むぅ」


 そんな僕と赤毛のお姉さんを、少し羨ましそうに見ていた。


 やがて、3人で歩きだす。


 歩きながら、


(シュレイラさんの家……か)


 どんな家なんだろう?


 ワクワク


 うん、ちょっと楽しみだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 赤毛のお姉さんを先頭に、僕らは通りを歩いていく。


 すると、


「こっちが近道なんだよ」


 と、近くの公園へ。


(そうなんだ?)


 僕らも、あとに続く。


 都会の王都だけれど、公園内には自然が多かった。


 緑の芝生に散策路。


 噴水の周りには、花壇がある。


 葉の茂った木々の下には、休憩用のベンチも設置されていた。


(へぇ……)


 山育ちの僕には、何だか安心感がある。


 普段は、人も多いのかな?


 ただ、今は夕暮れ。


 赤い夕陽に照らされる園内には、歩く人の姿はまばらだった。


 僕ら3人は、その散策路を進む。


 と、その時、


(ん……?)


 公園の隅の方で、1人の女の人が木の下にしゃがんでいるのが見えた。


 何してるんだろう?


 モゾモゾ


 地面を触っている。


 もしかして、何か落としたのかな?


 今は、薄暗い。


 なかなか見つからないのか、全然、立ち上がらない。


(……困ってるのかな?)


 なら、助けないと。


 助け合いは、村の基本。


 ここはマパルト村の村民の誇りとして、そちらに向かう。


「おい、ククリ?」


「ククリ君?」


 2人のお姉さんが驚く。


 僕は、


「あの、どうかしましたか?」


 しゃがむ女の人に声をかけた。


 彼女は、振り返る。


 20代ぐらいの女の人だ。


 森みたいな緑色の髪は長く、少し乱暴に三つ編みにされている。


 瞳は、薄い水色。


 その上に、丸眼鏡をかけている。


 服は、厚手のシャツとズボン。


 だけど、サイズが大きめで、少し着崩れた感じだ。


 眼鏡の奥の瞳が、僕を見る。


「……何?」


 と、聞かれた。


 警戒、疑念の声だ。


 僕は、素直に答える。


「ずっと地面にしゃがんでるから、何か落としたのかと思って」


「…………」


「もしそうなら、手伝いますよ」


「何で?」


「えっと、困ってる人がいたら助けるものだと思うので……」


「…………」


「…………」


「…………」


「あの……?」 


 ジッと見つめられ、僕は首をかしげる。


 すると、


「落とし物じゃない」


 と、彼女は答えた。


 僕から視線を外し、地面に向き直る。


 カサカサ


 生えている草を、手で払う。


(…………)


 見ている僕の後ろに、2人のお姉さんもやって来る。


 その時、気づいた。



「――あ、暮蜜草だ」



 ピタッ


 眼鏡の女の人の手が止まる。


 ちょうど彼女の指の先、払っている草の多くはその薬草だった。


 彼女が、また僕を見る。


「知ってるの?」


「うん」


 僕は頷いた。


「夕暮れの時刻、葉の先から蜜を出すんだよね」


「…………」


「その蜜の栄養価が高くて、でも、そのまま舐めると毒の成分も多いから、1度、煮込んで毒の成分を飛ばさないといけないんだ」


「…………」


「だけど、暮蜜草、こんな都会の公園にも生えてるんだね」


 ちょっと驚いたよ。


 僕の説明に、2人のお姉さんは感心した顔だ。


 そして、


 ジッ


 眼鏡のお姉さんは、また僕を見つめる。


 やがて、頷いた。


「そう、暮蜜草」


「…………」


「でも、私が探してるのは『宵月の蜜草』。暮蜜草と似てるけど、違う奴」


「宵月の蜜草を探してるの……?」


「そう」


 答え、また彼女は地面を見る。


 カサカサ


 また、草を払っていく。


(なるほど)


 暮蜜草と宵月の蜜草は、生息場所も外見も似てる。


 だから、彼女はこの暮蜜草の群生地で『宵月の蜜草』を探してたのか。


 僕は、納得。


 そして、言う。


「ここじゃないよ」


「?」


「多分、こっち」


 と、僕は歩きだす。


 怪訝な顔をする眼鏡のお姉さん。


 その2つの薬草は似てるし、生える場所も近いけど、でも、実は少し違う。


 木の根の近く。


 薄暗い、湿った地面。


 噴水の飛沫も、ここには飛んでくる。


 僕は止まり、


「あった」


 と、呟いた。


 眼鏡お姉さんの、レンズの奥の瞳が丸くなる。


 2人のお姉さんも顔を見合わせる。


 3人でやって来て、


「……本当だわ」


 眼鏡のお姉さんが呟いた。


 僕の足元。


 公園の木の根と根の間で、暮蜜草の中に1つだけ、白い半月型の葉の草がある。


 宵月の蜜草。


 結構、希少な薬草。


(思ったより簡単に見つかって、よかった)


 僕は笑う。


「これだよね?」


「……ええ」


「よかった。じゃあ、僕はこれで」


「あ……」


 僕は頷き、歩きだす。


(うん、助けられてよかった)


 ただの自己満足。


 でも、それでも人の役に立てたのなら嬉しいものだよね。


 僕は、2人のお姉さんの下へ。


 彼女たちは、


「さすがです」


「やるねぇ、ククリ」


 と、笑っていた。


 僕も微笑む。


 すると、その時、


「ち、ちょっと」


(ん?)


 背後から、眼鏡のお姉さんに声をかけられた。


 僕は振り返る。


 彼女は、少し複雑そうな表情だ。


(???)


 僕は、首をかしげる。


 すると、眼鏡お姉さんは、


「お前、名前は?」


「ククリ」


 素直に答えた。


 彼女は「ククリ……」と小さく繰り返す。


 何だろう?


 でも、もう暗くなるし、これ以上は遅くなると大変だ。


 僕は、また歩きだそうとする。


 すると、


「た、助かったわ。感謝する」


 と、慌てた声がした。


 僕は振り返り、彼女を見る。


 笑って、


「うん」


 と、頷いた。


 それから「それじゃあね」と言って、また前を向く。


 今度こそ、歩きだした。


 2人のお姉さんもついてくる。


 眼鏡のお姉さんはぼんやり立ったまま、なぜかずっと僕を見ていた。


(……?)


 まぁ、いいか。


 でも、公園に薬草が生えてるなんて知らなかったな。


(今度、採りに来ようっと)


 そう決めた。


 すると、


「ククリ君はさすがですね」


 と、ティアさんが楽しそうに言った。


 ……何のこと?


 不思議がる僕に、2人のお姉さんは笑っていた。


 …………。


 そんな風にして、やがて僕ら3人は、緑の多い広い公園を通り抜けたんだ。

ご覧頂き、ありがとうございました。


実は、作者の別作品なのですが『少年マールの転生冒険記』という作品のコミック2巻が本日発売となりました。

もしよかったら、皆さん、ぜひ手に取ってみて下さいね。

挿絵(By みてみん)


公式の紹介サイトのURLは、こちら!

https://firecross.jp/comic/product/2035


各書店様へのリンクもありますので、よかったらご活用下さい。

どうぞ、よろしくお願いします~!

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