表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/86

085・行商人ポポとの再会

 新しい入村者が来て、10日。


 役所での村民登録も済み、4人も村に馴染んできたように思う。


 騎士崩れの元冒険者。


(いや実際は、現役の騎士様だけど……)


 でも、おかげで力持ち。


 畑仕事や狩猟も、当然、得意で、村のみんなも4人を歓迎しているとか。


 井戸端会議で、ご近所さんからそんな話を聞く。 


(そっか)


 僕としても、一安心。


 また、シュレイラさんからも、


「4人も、この村を気に入ったみたいだね」


「そうなの?」


「ああ。村人もおおらかで裏がないし、自然も多くて落ち着くってさ」


「…………」


「王都の騎士ってのも、色々ストレスあるからね」


「……そっか」


「仕事だけど、このマパルトに来れてよかったってよ」


「うん」


 僕は頷き、笑う。


(そう思ってもらえたなら、嬉しいな)


 ここは、自分の生まれ育った村だから。 


 僕の横で聞いていたティアさんも「わかります」と納得した表情でしみじみ頷いていた。


 赤毛のお姉さんも、


「アタシも同じ気持ちだよ」


 と、笑った。


 ちなみに、僕も4人と話したけど、いい人柄の人たちだと思ったよ。


 都会には、村人を見下す人も多い。 


 でも、そんな素振りは欠片もなくて。


 普通に、対等に接してくれる。


 それは当たり前に思えるけれど、でも、全然当たり前じゃなくて……だから、素直に嬉しかった。


 多分、女王様が、


(その辺も考慮して、人選してくれたんだろうな)


 とも思う。


 そんなことを考える僕に、


「ククリ君」


「ん?」


「マパルトは、本当にいい村ですね」


 と、黒髪のお姉さんが笑った。


 僕は、目を丸くする。


 屈託のない、素直な言葉。 


 だから、


「――うん」


 僕も笑顔で、自信満々に答えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 本日は、行商の日だ。


 村の広場に、5台の行商馬車が入ってくる。


 その内の1台に、


「ポポ!」


 と、彼女の姿を見つけ、僕は声をかけた。


 馬車が止まり、御者席から少女が降りる。 


 水色の髪がフワリと舞い、


「やっほ、ククリ」


 と、着地した彼女が笑った。


 明るい表情に、僕も笑顔になる。


 前回会ったのは、彼女が大変な目に遭ったあとのことだったから、実は少し心配してたんだ。 


 前みたいに接してくれるか……って。


 だって、僕らが原因だったから。


 別れる前は、普通だったけど。


 でも、時間も空いて、心変わりがあってもおかしくないと思ってた。


 だけど、


(変わらないんだね、ポポは)


 それが嬉しい。


 彼女は、僕の斜め後ろにいるティアさんにも気づく。


 明るい笑顔で、


「ティア姉さん!」


 ギュッ


 と、抱き着いた。


 黒髪のお姉さんは、紅い目を丸くする。


 すぐに微笑み、


「ポポ、久しぶりですね」


 と、優しく抱き返した。


 その表情には、どことなく安心したような嬉しさが見える。


 そんな僕らの下に、


「お、集まってんね」


「あ、炎姫様!」


「よ、ポポ、久しぶり」


「はい。この間は、王都までお世話になりました」


「いいって。アタシも楽しかったよ」


 ポンポン


 やって来た赤毛のお姉さんは笑いながら、少女の頭を軽く叩く。


 ポポも笑って、


「はい!」


 と、元気よく答えた。


 そのあとは、行商のお時間だ。


 各行商人に、村長が村の商品を納めて代金を頂く。


 今度は村長から、僕らが納品分の額をもらう。


 ジャラッ


 そして、僕ら村人は硬貨の入った布袋を手に、行商人から欲しい商品を買っていくのだ。


(さて、何を買おうかな?)


 まずは、魔石や日用品。


 そうした生活必需品を優先し、残りは自由に買える。


 珍しい食材。


 異国の調味料。


 都会の最新の調理器具。


 名工の作った包丁。


 保温効果のある魔法の食器。


(う~ん)


 欲しい気もするけど、どれも絶対に必要でもない。


 あと、やっぱり高い。


 他にも、洋服や玩具などの雑貨、日用品、武器防具、農具、狩猟道具なども売ってるけど……特に買わなくてもいいかな。


(よし、貯金しよ)


 と、決める僕。


 でも、炎姫様は、


「ああ、この燻製肉くれ。それと、そっちの加工した魚のすり身も頼むよ。あと、酒な」


「へい、毎度!」


 と、買い込んでいた。


(おやまぁ)


 さすが、お金持ち。


 すると、見ている僕に、


「食材はアタシが用意したから、料理はククリな」


「え……」


「な?」


「あ……うん」


 思わず、頷く。


 シュレイラさんは、満面の笑みだ。


(ま、仕方ない)


 だって、こんな笑顔を向けられたら、断れないよね。


 …………。


 その間、ティアさんは、やはりと言うべきか行商で売っている武具を眺めていた。


 大半は量産品。


 他にも、中古品も多い。


 本人は、特別な『氷雪の魔法大剣』を所持してるのに……。


 だけど、


「武器には、皆、独自の魅力がありますから」


「そう?」


「はい。見れば作り手の技量もわかり、時には意図や工夫も見えます」


「…………」


「また中古の品は、今日までの使われ方や歴史も感じます。大事にされてきたか、何を斬ってきたか、色々わかりますから」


「そうなんだ」


 僕には、わからない。


 でも、


(さすが、元勇者様……かな)


 過酷な戦場の日々で、そうした審美眼も鍛えられたのかもしれないね。


 ティアさんは、


「はぁ……素敵な刃文ですね」


 と、うっとり。


 …………。


 いや、これ、ただの武器好きなお姉さんかも……。


(深くは考えまい)


 僕は、そう自分を納得させる。


 そんな黒髪のお姉さんに、見習い商人の少女は、


「この短剣とか、安くしとくわよ?」


 なんて、お勧めしていた。


(ああ……)


 ティアさん、買いそう。


 ま、彼女個人にもお金を渡してあるし、好きに使ってもらっていいんだけどね。


 僕は、2人のやり取りを眺める。


 と、その時、食材を抱えた炎姫様が言う。


「ククリ」


「ん?」


「言っとくと、ポポの護衛もいるからな」


「……え?」


 僕は、キョトンとする。


 彼女は、別の馬車の行商人をあごでクイッと示す。


 そして、


「王国の諜報員」


「…………」


「行商に化けて、護衛してんのさ」


「そうなの?」


 僕は、青い目を丸くする。


 結ばれた赤毛の髪を揺らして、炎姫様は頷いた。


「あの子も、ティアに近い人間だからね」


「…………」


「帝国が狙う可能性がある以上、対策はしてるんだよ」


「そっか」


「ああ。あの村の4人だって、最優先はお前らだけど、村全体の護衛でもあるんだからね」


「うん」


 それは何となく、理解してた。


 僕は聞く。


「ポポは知ってるの?」


「一応」


「…………」


「前に、陰で護衛をつけることは伝えてある。けど、誰かは知らないよ」


「そうなの?」


「ああ。知ってると、意外と重荷になるからね」


「そっか」


 なるほど、確かにそうかも。


 わかっていると、どうしてもその人の行動を意識してしまうものね。


 僕は、頷いた。


 そんな僕らの前で、


 チャリン


(……あ)


 黒髪のお姉さんが短剣を買っていた。


 彼女は、


「わかりました。薬草採取の時に活用してみます」


 と、頷いていた。


 その売り文句で、説得されたのか。


 採取ナイフ、持ってるのに。


(……いや、いいんだけどね)


 ただ、僕が貧乏性なのだ。


 そして、見習い商人の少女は、


「ティア姉さん、毎度!」


 と、水色の髪を躍らせながら嬉しそうに笑っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 太陽の光に短剣をかざすティアさん。


(う~ん、嬉しそう)


 刃の表裏を返して眺めたり、軽く剣先を触ったりしている。


 まるで、子供が玩具を買ったみたい。


 その姿を眺めていると、


「あ、そうだわ」


 と、ポポが言った。


(ん?)


 振り返る僕に、


「あのね、ククリ」


「うん」


「来月なんだけど、ジム兄の店、ようやく開店が決まったの」


「え、そうなの?」


 僕は目を瞠る。


 2人のお姉さんたちも聞こえていたのか、こちらを見る。


 赤毛のお姉さんが、


「おお、そうかい」


「おめでとうございます」


 と、ティアさんも短剣を鞘にしまい、笑う。


 彼の親戚の少女も、


「ありがと」


 と、はにかむ。


 そっか、ついに開店かぁ。


(ジムさん、やったね)


 僕の両親が生きている頃からお付き合いしてる行商人さんだ。


 もはや友人で、兄みたいな存在だった。


 そんなジムさんの夢。


 それが叶う日が来るのだ。


 僕も青い空を見上げて、遠い王都アークレイにいる彼に祝福と成功を願う。


 そして、ポポは、


「でね?」


「あ、うん」


「その開店準備と最初の数日間の手伝いで、次の行商、私、回れないんだ。だから、この村にも来れないの」


「え、そうなの?」


「ごめんね」


「ううん」


 僕は、首を振る。


 笑って、


「ジムさんの大事な日だからね。しっかり助けてあげて」


「うん、ありがと」


 見習い行商人の少女も、安心したように微笑んだ。


 ま、そんなこともあるよね。


 行商も大事だけど、家族も大事。


 僕も応援したい。


 だけど、


「本当は僕も、手伝いに行けたらいいんだけどな」


 と、呟いた。


 それに、ポポは目を丸くする。


 ティアさんが、


「では、手伝いに行きますか?」


 と、言った。


 僕は苦笑する。


「ううん。王都は遠いから」


「…………」


「この間、クルチオン大湖まで往復して20日間も村を離れたのに、また何日も村を離れるのはみんなに迷惑だよ」


 そう答えた。


 小さな村だから。


 何日も人が減ると、意外と大変になるんだ。


 村のみんなは優しいから、きっと『行ってきな』って言うだろうけど……。


(それに甘えちゃいけないよね)


 と、思うのだ。


 だけど、


「2~3日ならいいのでは?」


 と、ティアさん。


 綺麗な黒髪をサラリと揺らし、首を傾けている。


 え……?


(2~3日?)


 僕は、青い目を瞬く。


 ティアさんは微笑み、


「ここに、ちょうど良い空飛ぶ馬車(・・・・・)みたいな乗り物(・・・・・・・)がありますので」


 ポン


 その白い手が、隣の赤毛のお姉さんの肩を叩く。


 叩かれた本人は、キョトン。


「アタシかい!?」


 すぐに叫んだ。


 周囲にいた村のみんなが何事かとこちらを見てくる。


(え……)


 シュレイラさん?


 僕は唖然。


 赤毛のお姉さんは、


「そりゃ、アタシが空飛べば、半日で王都に着くけどさ……本気かい?」


「はい」


「…………」


「この間、女王を乗せてきたではありませんか?」


「そりゃ、そうだけど」


「なら、ククリ君も乗せなさい」


「…………」


「女王にしたなら、ククリ君にもする。それぐらい当然のことでしょう?」


 と言う、元勇者様。


 いや、当然じゃないです。


(村人と女王様を一緒にしないで……)


 僕は、そう思う。


 だけど、


「はぁ、仕方ないね」


(え?)


 シュレイラさん?


 彼女は長い赤色の髪をガシガシとかき、息を吐く。


 僕を見て、


「わかった、運ぶよ」


 と、言った。


 …………。


 え、本当に?


 僕はポカンとしてしまう。


 そんな僕の手を取り、


「よかったですね、ククリ君」


「あ、う、うん」


「もちろん私も、護衛として同行しますから。――できますね、シュレイラ?」


「ああ、できるよ」


 赤毛の美女は『降参』みたいに両手をあげる。


(2人も運ぶの?)


 僕は驚きだ。


 赤毛のお姉さんは、少々自棄になっている気がする。


 ティアさんは、


「結構」


「…………」


「ふふっ、では、私は村長に話してきます」


「あ、うん」


 僕は頷く。


 彼女は、ニコッと笑う。


 繋いだ僕の手を1度、ギュッと握って離すと、村長を探しに行ってしまった。


 僕らは、それを見送る。


 赤毛を揺らし、炎姫様はため息。


 僕は茫然。


 水色の髪の少女は、


「えっと……」


「…………」


「じ、じゃあ、当日はよろしくね、ククリ?」


「うん……」


 気遣うような声に、僕は何とか頷いたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ