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084・猪肉のステーキ料理

「ククリ、いるか?」


 ドン ドン


 夕方、家の扉が叩かれた。 


 玄関を開けると、赤毛のお姉さんがお肉の塊を抱えて、笑顔で立っていた。


(えっと……)


「どうしたの、シュレイラさん?」


 と、僕は聞く。


 僕の後ろには、ティアさんもいる。


 彼女も驚いたように紅い瞳を丸くしている。


 炎姫様は笑って、


「肉だ」


「あ、うん」


「実は、あの4人と山に入ってさ」


「4人って……あの新しく入村した?」


「そうだよ」


「うん」


「でね、アイツら、村では狩人として生きるつもりらしくてさ。ほら、その初獲物!」


 グイッ


 彼女は、塊肉を持ち上げる。


 多分、1・5ギログぐらいありそうだ。


 赤毛のお姉さんは言う。


「大牙猪だよ」


 へぇ、大牙猪なんだ?


 野生動物だけど、結構、獰猛。


 赤地に白い斑の体毛が生えていて、長い曲がった牙が特徴の猪だ。


 見た所、


「ロース肉?」


「だね、背中の部分だよ」


「うん。美味しそうだね」


「だろ? 初獲物だからって、アタシにも分けてくれてさ」


「そっか」


「だから、頼んだよ、ククリ」


「……ん?」


 満面の笑顔で言われて、僕はキョトンとする。


 炎姫様は、


「料理」


 と、一言だけ。


(…………)


 あ、うん……多分、そうかなと少~し思ってたけど……。


 僕は若干、遠い目だ。


 と、その時、


 クイ クイ


 僕の服の裾が引っ張られる。


(ん?)


 見れば、黒髪のお姉さんが何かを訴えるような眼差しで僕を見ていた。


 そして、言う。


「私も手伝います」


「…………」


 その紅い瞳には、食欲の輝きがキラキラしてる。


 ……うん、そっか。


 実は食べるの、大好きだもんね。


 僕は、曖昧に笑う。


 2人の美人なお姉さんが前後から、期待を込めた目でジッと見つめてくる。


(はぁ)


 僕はため息。


 苦笑して、


「わかった、作るよ」


「やった!」


「ククリ君!」


 お姉さんたちは嬉しそう。


 僕の前で、2人仲良く手を取り合って喜んでいる。


 やれやれ。


(でも、美味しそうなお肉だし、いっか)


 そう気を取り直す。


 そうして僕は塊肉を預かると、我が家の台所へ向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(さて……っと)


 僕は、袖まくり。


 こんな大きなお肉だし、贅沢豪快にステーキがいいと思う。


 となれば、


(まず、ステーキソースかな)


 保冷庫から玉葱を取り出し、皮を剥いて洗う。


 芯を取り除き、


 シャ シャ


 と、すり下ろしていく。


「私が代わります」


「あ、ありがと」


 ティアさんと交代。


 力持ちのお姉さんなので、僕より早い。


 すった玉葱と、醤油、酒、みりん、砂糖、水と合わせ、煮ながら沸騰させる。


 煮詰めないように注意。


 よし、完成。


(次は付け合わせ)


 人参、じゃがいもでいいか。


 じゃがいもは丁寧に洗って、皮ごと軽く茹でる。


 適度な大きさに切っていく。


 トントン


 人参も同様に。


 フライパンにバターを溶かして、人参と一緒に炒めていく。


 ジュウウ……


 そして、塩胡椒、砂糖で味付け。


 ん、いいでしょう。


「ティアさん、ご飯、炊いてくれる?」


「はい、お任せを」


「ありがとう、お願いします」


 微笑み、快諾してくれるティアさん。


 白米を用意し2回水で研ぎ、丁寧に適量の水を入れ、火にかける。


 うん、あっちはお任せ。


 では僕は、本命のステーキを……の前に、大蒜の皮を剥き、薄くスライスしておく。


 油で炒める。


 よし、ガーリックチップ、完成。


 今度こそ、


(次は、お肉様だ)


 僕は、シュレイラさん差し入れの塊肉を見つめる。


 大きいなぁ。


 まずは、大胆に3つの塊に切り分けた。


 大食いな大人のお姉さん2人の分は、僕より大きめにしておく。


 で、そのステーキ肉に、何回か切れ込みを入れる。


 中まで、しっかり火を通すためだ。


 そして塩胡椒をすり込み、味を馴染ませるため、20分ほど置いておく。


 その間に、細長いパンを何個か用意。


 表面を軽く焙り、真ん中に切れ目を入れておく。


(よし)


 肉も、もういいだろう。


 肉用のフライパンを用意。


 今回は油代わりに、お肉の脂身を切り取って使ってみる。


 ジュワ……


(もういいかな)


 温度を確かめ、お肉を投入。


 ジュウウ……


 片面を5分ほど、焼く。


 ひっくり返し、


(うん、いい感じ)


 匂いと焦げ目の焼き色が素晴らしい。 


 そのまま焼き、最後に再度、ひっくり返して少量の水を入れ、蓋をする。


 こうして、中までしっかり火を通す。


 仕上げに、ガーリックチップを上から降りかけ、


「――ん、完成」


 と、僕は笑った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らは3人で食卓を囲む。


 目の前には、大皿に乗った猪肉のステーキと、付け合わせの人参、じゃがいも。


 そばには、ホカホカの白米。


 そして、切れ目の入ったこんがりパンが数本分。


 それらを見つめ、


「おおお……」


 炎姫様は、金色の隻眼を輝かせた。


 料理を手伝ってくれた黒髪のお姉さんも、待ちきれないといった様子で僕をチラチラと見る。


 僕は笑って、


「はい、2人とも召し上がれ」


「ああ、いただくよ!」


「いただきます、ククリ君」


 赤と黒の髪のお姉さんたちは、料理に飛びついた。


 まずは、ステーキをガブリ。


 すぐに、表情が蕩ける。


「んん……!」


「肉……っ」


 頬を膨らませながらも、至福の笑みだ。


(あはは)


 よかった。


 満足してくれたみたいだ。


 僕も安心し、自分のお肉を食べてみる。


 ガブッ


(ん……!)


 まさに、お肉って感じだ。


 脂が甘い。


 臭みもなく、噛み応え充分。


 牛肉に比べたら、少ししっかりした肉質かな……?


 だけど、猪肉らしい旨みが強い。


 あと、脂も重くなくて、意外とさっぱりしているから量が食べられる。


 実は、ヘルシーかも。


 そのままで食べたあとは、玉葱のステーキソースを使う。


「あ……」


「私も」


 2人のお姉さんも真似をする。


 モグモグ


 うん、美味い。


 肉々しさに味が加わり、また違う美味しさが生まれた。


 ホカホカご飯と食べれば、


(ん……!)


 肉とソースがお米に絡み、実に美味です。


 もちろん、


(パンに挟んで食べるのもよし、だね)


 香ばしいパンに肉汁とソースが沁みて、肉の味がより際立つ感じ。


 モグモグ


(うん!)


 白米でも、こんがりパンでも、どっちも最高。


 大食いの2人のお姉さんも、両方の味を楽しんでいる様子だ。


 たまに、付け合わせも食べる。


 人参の甘み、じゃがいものほくほくした感触も堪らない。


 がっつりお肉の中での、美味しい休息だ。


(あ、そうだ)


 僕は思いつき、台所へ。


 保冷庫からレモンを取り出し、包丁でスライス。


 食卓に戻り、


 チュッ


 ステーキ肉の上で絞る。


 食べると、


(お……さっぱり、いい香り)


 これも良い味変だ。


 思わず、頬が緩んでしまう。


 と、そんな僕の様子を、ティアさん、シュレイラさんが見ていた。


「使う?」


「はい」


「ああ!」


 強く頷かれ、2人にもレモンのスライスを渡した。


 それを降りかけ、


 パクッ


 咀嚼し、


「ん……っ」


「こりゃ、さっぱりするね。いくらでも食えそうだ!」


「はい」


「くぅ……まさに、肉だねぇ」


「同感です」


 嬉しそうに、お肉を頬張る2人です。


(うん)


 その幸せそうな様子を見ているだけで、僕も満足、満腹だよ。


 思わず、笑顔だ。


 今度、猪肉を分けてくれた4人にお礼を言いに行こう。


 お返しに、薬草茶の茶葉でも渡そうかな。


 そんなことを考え、


 パクッ


(ん、美味しい……!)


 僕は、また表情を緩ませる。


 …………。


 そんな風にして、とある日の夕食で、僕らは美味しいお肉を味わったのだ。

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