005・お風呂
山から帰った僕は、
(よいしょ)
と、作業部屋の床に、薬草の布袋を全て下した。
縛った口を開封する。
「何をしてるんですか?」
と、ティアさんが聞いてくる。
僕は、
「薬草を選別するんだ」
と、答えた。
今日、集めた薬草は、残念ながら全て売り物になる訳じゃない。
葉の傷、大きさはもちろん、虫の卵が植え付けられていないか、薬草ではない別の植物ではないか、などなど、確認と選別が必要になる。
合格した葉だけ、商品として売れるのだ。
彼女は、
「そうなのですね」
と、興味深そうに頷く。
それから、
「あの、私にもできるでしょうか?」
「え?」
「…………」
「あ、うん、できると思うけど」
でも、体調、大丈夫かな?
少し心配。
彼女は微笑み、
「今は、頭痛もしないので」
「…………」
「無理はしません。だから、お願いします」
「うん、わかった」
僕は頷いた。
ま、軽作業だしね。
それに、彼女の気持ちを尊重したいもの。
僕は笑って、
「じゃあ、一緒にやろう」
「はい、ククリ君」
彼女も嬉しそうに頷いた。
ということで、
バフッ
と、床に白い布を広げる。
その上で、僕らは、1本1本の薬草の葉を根気よく調べていく。
(ヨシ、ダメ、ヨシ、ヨシ、ダメ、ヨシ……)
10枚に1枚ぐらいの割合で、不合格。
ちなみに不合格の葉は、我が家の薬草茶になります。
パッ パッ
手慣れた様子で作業する僕。
初めてのティアさんは、丁寧に1枚、1枚、時間をかけて見ている。
(うんうん)
それで正解。
彼女は時々、
「あの、すみません……この葉は大丈夫ですか?」
と、僕に聞く。
僕も確認する。
「ん、大丈夫」
「ありがとうございます」
「ううん。またわからなかったら、遠慮なく聞いてね」
「はい、ククリ君」
彼女も安心したように微笑んだ。
それからも、2人で黙々と作業する。
…………。
…………。
…………。
やがて、1時間半で作業も終了。
全体の9割が僕、1割がティアさんって感じ。
彼女は息を吐く。
僕は笑って、
「ん、お疲れ様」
「いえ、あまり役に立てなくて……」
「そんなことないよ。むしろ初めてなのに、1つも間違えなかった。時間はかかっても、それが1番大事なんだから。凄いよ、ティアさん」
「そんな……」
お姉さんは驚き、少し照れた様子。
でも、本当だ。
わからない時は、ちゃんと僕に聞いた。
そういうのって、実はなかなかできない気がする。
僕は笑顔で、
「手伝ってくれてありがとね、ティアさん」
「ククリ君……」
彼女は、少し潤んだ瞳で僕を見つめた。
そのあと、僕は、選別した合格の薬草を布袋に包む。
それを抱えて、
「じゃあ、村長の家に納品に行こう」
と、立ち上がった。
彼女は少し驚いたように、
「納品……ですか?」
「うん。村人の売りたい収穫物は、1度、村長さんに預けるんだ。月に2度来る行商人に、村全体の売り物としてまとめて売るんだよ」
「なるほど」
「じゃ、行こっか。半分持ってくれる?」
「はい、ククリ君」
頷き、彼女も別の布袋を抱えてくれる。
そして、僕らは家を出る。
2人で、高台にある村長の家へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
「じゃ、これ、選別した薬草だよ」
「ほいよ~」
僕は、2つの布袋を渡す。
村長も、気軽に受け取ってくれた。
まぁ、毎度のこと。
ただ今日は、
「お願いします」
と、僕の隣でティアさんも、黒髪を肩からこぼしながら頭を下げていた。
うん、少し新鮮。
ともあれ、
(納品完了っと)
本日の仕事も、これで終わり。
少し肩も軽くなる。
と思ったら、
「あ、ククリ。ちと待ち」
「ん?」
「ほれ、これ渡しとくけな」
「え……わっ?」
ズシッ
今度は村長の方から、木箱を渡された。
結構、重い。
(何これ?)
僕は目を丸くする。
そんな僕に、村長は、
「ほれ、お姉ちゃんの着替えとか、食いもんとか、用意しといたんよ」
「あ」
なるほど、それか。
ティアさんは「私の……?」と驚いた様子。
僕は笑って、
「ありがとう、村長」
「なんも、なんも。もし足りんもんあったら、また言うてな」
「うん」
大きく頷く。
ティアさんも慌てて、
「すみません、ありがとうございます」
と、また頭を下げる。
村長は朗らかに、
「なんも、なんも。気にせんと」
「……はい」
「ま、気になんなら、そん代わりに、このククリと仲良うしてなぁ?」
「あ……はい!」
頷くティアさん。
その表情は、大真面目です。
(…………)
なんか、少し照れる。
そんな僕ら2人を、村長は交互に見る。
少し目を丸くして、
「ほうほう……? そうかそうかぁ」
と、楽しそうに笑った。
◇◇◇◇◇◇◇
再び家に戻ると、お風呂を焚いた。
せっかく、着替えも届いたしね。
ティアさんも女の人だし、お風呂に入れるのは嬉しいみたいだった。
なので、
「お先にどうぞ」
と、1番風呂を譲る。
家主より先には入れない、と彼女は遠慮してたけど、強引に風呂場に押し込みました。
彼女は、すぐ気を遣う。
だからこそ、
(お風呂ぐらい、綺麗なお湯に入って、心も休めて欲しいよね)
と思うのだ。
待ってる間は、もらった食材を地下の保管庫に運ぶ。
よいしょ、よいしょ。
肉と野菜、果物、あと、お米など。
結構な量がある。
(ティアさんにたくさん食べてもらえるね)
と、僕は安心する。
運び終わったら、次は、今日使った薬草採取の道具の手入れ。
短剣を洗い、汚れを落とす。
水滴は、しっかり拭く。
刃も確認。
必要なら研ぐけど……ん、まだ大丈夫そう。
布袋は、中と外の土を払う。
(あ、穴だ)
針と糸で、サクサク縫う。
まだまだ使える。
そんなこんなで、30分が経過。
(…………)
ティアさん、まだ出てこない。
だ、大丈夫かな?
中でのぼせて、倒れてたりとかしないよね?
少し心配。
だけど、覗きに行くのも……う~ん?
と、迷っていると、
カタン
「お先でした」
と、居間の戸が開き、彼女が戻ってきた。
あ、よかった。
僕は、そちらを見る。
そして、
(…………)
思わず、固まった。
ゆったりした麻の服をまとうティアさんは、戸口に立ったまま、濡れた黒髪をタオルで拭いていた。
手が動くたび、長くこぼれる濡れ髪が艶やかに輝く。
暑いのか、服の胸元は開き気味。
おかげで、魅惑の白い谷間がくっきり見えていた。
湯上りの白い肌は、赤く上気し。
こぼれる吐息は、熱っぽい。
お風呂が気持ちよかったのか、その表情はとても満足そうで――、
「……ククリ君?」
(はっ)
彼女の声で、我に返った。
僕は慌てて、
「で、出たんだね」
「はい。ありがとうございました、ククリ君」
「えっと、お湯、熱くなかった?」
「ちょうどよかったですよ」
「そっか」
「冷めない内に、どうかククリ君も」
「う、うん」
笑顔で促され、僕も立ち上がった。
見送られながら、風呂場に移動。
そそくさと服を脱ぎ、身体を洗い、湯船に浸かった。
「…………」
いつものお風呂。
なんだけど、
(このお湯に、さっきまでティアさんが入っていたんだよね……)
ドキドキ
意識すると、妙に落ち着かない。
何だ、僕?
どうした?
あの黒髪のお姉さんが来てから、何だか彼女のことばかり考えている気がするぞ。
ブクブク
湯船に鼻まで浸かる。
…………。
しばし悩み、やがて僕はお風呂をあがった。