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056・見習い行商人

本日、所用にていつもの更新時間に間に合いませんでした(汗)。

本当に申し訳ありません。


では、第56話になります。

どうか、ゆっくりお楽しみ頂けましたら幸いです。

「おお、ポポか」


 金髪の行商人ジムさんは、女の子にそう返した。


(ポポ?)


 あの子の名前かな?


 柔らかそうな水色の髪は、肩下ぐらいの長さ。


 彼女は頬を膨らませ、


「おおポポか、じゃないわよ。いつまで私1人に馬車番させるの?」


「はは、すまんすまん」


「もう、ジム兄ったら。忘れてたのね」


「いや、悪かったって。な?」


 両手を合わせ、謝るジムさん。


 僕とティアさんは、2人のやり取りにキョトンとしてしまう。


 それに気づき、


「ああ、すまんな、ククリ、ティア。この子は、ポポ。ワイの下で働く見習い商人や」


 と、紹介される。

 

 へぇ、見習い商人?


 驚く僕に、 


「遠縁の子でな。この冬から働かせとるんや」


「ども」


 ポポさんは、ニッと笑う。


 僕らも、


「こんにちは」


「どうも」


 と、挨拶。


 そんな僕を見て、


「あ、もしかして、君がジム兄の言ってた薬草少年のククリ?」


「え?」


 薬草少年?


 妙な言い方に、僕は目を丸くする。


 彼女は笑い、


「凄く薬草に詳しい、ジム兄のご贔屓さんでしょ?」


「あ、うん」


「私、ポポ。よろしくね」


「うん。よろしく、ポポさん」


 差し出された手を、僕は握る。


 彼女はおかしそうに「ポポでいいわよ」と言う。


(そっか)


 僕も「うん、ポポ」と頷いた。


 水色髪の少女は、僕の隣のお姉さんの方を見る。


 そして、


「貴方がティアさん?」


「はい」


「はぁ~、凄い美人さんね」


「どうも」


「うん。こんな美人のお姉さんがいて、薬草少年は幸せ者ね」


「…………」


 コホン


 ティアさん、なぜか咳払い。


 そして、言う。


「今後、何か欲しいものがあったら、他の行商人ではなく、なるべくポポから買いますね」


「わ、ありがと、ティア姉さん!」


 喜ぶ少女。


 黒髪のお姉さんも微笑んでいる。 


(…………)


 僕は無言。


 その横で、


「ティアはん、チョロ……」


 と、先輩行商人が呟く。


 うん……僕は、何も言うまい。


 と、その時、


(あれ……?)


 僕は、水色の髪から見える少女の耳に気づいた。


 少し尖ってる。


 僕の視線に、


「あ、これ?」


 と、彼女は、水色の髪を指で耳の後ろに送る。


 笑って、


「私の祖母がエルフなの」


 と、言う。


(へぇ……クォーターエルフ?)


 この辺じゃ、珍しい。


「そうなんだね」


「うん」


「ジムさんは……」


「ワイは人間やで」


 答える金髪の行商人さん。


(だよね?)


 耳、普通だし。


 まぁ、『遠縁』って言ってたから、そういうこともあるんだろう。 


 ティアさんも『ふぅん』って感じ。


 少女は、


「ククリは1人っ子?」


「うん」


「そう。今、何歳?」


「14」


「わ、同い年」


「あ、そうなんだ?」


 なんか新鮮。


 彼女も驚き、それから周囲を見る。


 また僕を見て、


「ね、ククリ」


「ん?」


「この村って、ククリと同年代の子、いないのね」


「あ……うん」


 僕は、頷いた。


 黒髪のお姉さんも『そう言えば……』みたいな顔をする。


 僕は、言う。


「ここ、田舎の村でしょ」


「うん。……あ、ごめん」


「ううん」


 ハッとする彼女に、僕は笑う。


 そして続ける。


「だから、都会に憧れて出ていく人もいて」


「うん」


「でね。父さん、母さんの年代の人たちが若い頃、集団で村を出た時期があって……」


「ああ……」


 察しの良い少女は、納得の表情を見せる。


 僕も、少し困ったように笑う


 実は、父さん、母さんも1度、村を出てからの出戻り組なんだ。


 でも、他の出戻り組はいない。 


 だから、この村で今、僕と1番近い年上は19歳、年下は7歳になるんだ。


 10代半ばは、僕1人だけ。


 ティアさんは、


「なるほど……周りは大人か、幼い子ばかり。だから、ククリ君はこんなにしっかり者になったのですね」


 と、納得した顔で呟く。


 ジムさんも、


「なるほどなぁ」


 と、頷いた。


(しっかりしてるかな……?)


 自分じゃ、よくわからない。


 ただ、


「だから同い年のポポに会えて、なんか嬉しい」


 と、僕は笑った。


 水色の髪の少女は、瑠璃色の目を瞬く。


 苦笑して、


「薬草少年は、なかなか口も上手いのね」


「え?」


「ううん。ま、これから何度もこの村来ると思うから、よろしくね」


「うん」


 明るく言うポポに、僕も笑う。


 そんな僕らに、ジムさんも優しく笑っている。


 そして、黒髪のお姉さんは何だか驚いているような表情で、僕とポポを見比べていた。


「…………」


 なんか不安そうに、こっちを見ている。


(……?)


 何だろう?


 ともあれ、そんな感じに僕は、同い年の見習い行商人ポポと出会い、賑わう村の1日を過ごしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 数日後、雨上がりのとある日に、僕らは薬草採取を再開した。


 今年の初採取だ。


 サクッ


(ん……綺麗な葉だね)


 若く、瑞々しい。


 短剣で刈った薬草は、丁寧に袋にしまう。


 ティアさんも同じようにナイフで薬草の茎を斬り、僕を振り返る。


 採った薬草を見せるようにして、微笑む。


(うん)


 僕も笑った。


 久しぶりの山での薬草集めを、僕らは充実した気持ちで行ったんだ。


 …………。


 …………。


 …………。


 穏やかで、ゆっくりした日々が続く。


 ティアさんは、


「都会とは、時間の流れが違う気がします」


 なんて言う。


 確かに、王都のせわしさに比べると、田舎の村はのんびりしてる。


 少し退屈……にも思う。


 でも、


(そういう暮らし、嫌いじゃないんだよね)


 僕は、根っからの村人なのかもしれない。


 ただ、黒髪のお姉さんもこうした時間を苦にしないみたいで、いつも穏やかな表情だった。


 元勇者のお姉さん。


 大変だった過去を思えば、


(……うん)


 今、こうした表情でいてくれることが、僕は嬉しかった。


 …………。


 そうして月日は流れ、また村に行商の来る日が訪れる。


 前回よりは、少し行商人の数は減ったかな?


 でも、顔馴染みの行商人ジムさんと一緒に、今回も見習いのポポが同行していた。


「やっほ、ククリ」


「うん、やっほ、ポポ」


 笑う彼女に、僕も笑顔を返す。


 同い年だからかな?


 会うのは2回目だけど、僕らは、もうすっかり打ち解けた感じである。


 黒髪のお姉さんも「こんにちは、ポポ」と微笑みかけている。


 そんな中、ジムさんは、


「毎度、毎度~!」


 と、他の村人相手の商売に勤しんでいた。


(んん?)


 なんか、上機嫌?


 僕が首をかしげていると、


「ククリのせいよ」


(え?)


 水色の髪の少女の言葉に、僕は驚く。 


 彼女は苦笑し、


「ほら、ククリが書いた紹介状。炎姫様に見せたのよ」


「あ、うん」


「そうしたら、炎姫様がククリの知り合いならって、有名な魔法薬師さんを伝手で紹介してくれて。ジム兄、その人と専属契約が結べたの」


「え、そうなの?」


 凄いね。


 僕は、青い目を丸くしちゃう。


 ポポは頷き、


「それも、ククリのおかげ」


「え?」


「ジム兄って、ククリの薬草を扱ってるでしょ?」


「あ、うん」


「その薬草の質の良さで、魔法薬師さんもジム兄を認めてくれたのよ。いい素材を扱ってるって」


「へぇ……」


 そうなんだ?


 その魔法薬師の人曰く、冒険者に薬草集めを頼むと品質の差が酷く、結果、魔法薬の作成にも使い辛いのだとか。


 だから、高品質の薬草を安定して欲しいらしい。


(ふ~ん?)


 ま、僕なりに選んで薬草を採取してるし。


 そこから更に、良い葉だけを仕分けてるし。


(だから、よかったのかな?)


 と、分析する。


 ティアさんは、


「さすが、ククリ君」


 と、尊敬の眼差しで僕を見てくる。


 ポポも「本当、薬草少年なのね、ククリって」なんて笑う。


 2人の賞賛に、僕は苦笑い。


 だって、僕にとっては両親から教わった通りにしてるだけで、当たり前のことなんだもの。


 今更だよね、と、少しくすぐったい。


 そんな僕を、


 ジッ


 と、少女は見つめてくる。


 そして、言う。


「そう言えば、炎姫様、ククリとティア姉さんのこと、凄く聞いてきたよ」


「え?」


「どんな様子か、とか」


「…………」


「何か困ってることはなさそうか、とか」


「……そう」


 僕は、曖昧に笑う。


 多分、それは元勇者のお姉さんのことを心配してだろうね。


 世話好き……なのもあるだろうけど、でもそれ以上に、正体がバレてないか、他国の諜報員の介入がないかなどの確認の意味が強いと思う。


 それを知らないポポは、


「炎姫様、2人のこと、本当に気に入ってんのね」


 なんて言う。


 僕は、苦笑。


 黒髪のお姉さんは、


「あの女も、お節介なことですね」


 と、少し呆れたように呟いていた。


 やがて、客足が途切れて、ジムさんもやって来る。


 すると、


 ガバッ


(わっ?)


 突然、抱き着かれた。


 驚く僕に、


「ありがとな、ククリ!」


「え?」


「ククリの薬草のおかげで、ワイにも運が巡ってきた気がするわ」


「う、うん、よかったね」


 上機嫌な彼に、僕は若干、気圧される。


 ジムさんは、


「魔法薬師様は、王家御用達のポーション作成もしてるほどの方なんや」


「そう」


「ここでバンバン納品して、あちこちの金持ちから信用とお金稼いで、3年以内に王都で自分の店、構えたるからな!」


「うん」


「ククリも、今後とも頼むで。薬草の買い取り額、アップするさかい」


「え、本当っ?」


 彼の言葉に、僕も目を輝かせた。


(やった)


 思わず、上機嫌になってしまう。


「がんばるね、ジムさん!」


「おう、ククリ!」


 ガシッ


 僕らは、固い握手を交わす。


 その様子に、


「はぁ、これだから男ってのは……」


「ふふっ」


 女性陣の2人は、呆れと微笑みの表情を浮かべていた。

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