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050・魔法弓

 昔々、500年以上も昔のことだ。


 この大陸には、今よりも魔法文明の発展した国々が存在したという。


 でも、今は存在しない。


 その国々は皆、滅んでしまっている。


 滅んだ理由は、定かではなくて。


 強大な魔物にやられたとか、大規模な魔法実験の失敗だとか、女神の怒りを買ったとか、諸説あるけど……現時点では不明。


 今も、研究者や考古学者が調べている最中だ。


 そうした国々の名残りは、遺跡、遺産といった形で残っている。


 大陸最大のレオバルト帝国は、そうした遺跡が最も多く、遺産となる古代魔法具もたくさん発掘されているとか。


 生きた(・・・)古代魔法具は、特に貴重品。


 その所持数が、そのまま国力に繋がっているというのが世間の認識だ。


 そう言えば、


(村から半日ほどの山の中にも、小さい遺跡があったね)


 と、思い出す。


 確か、50年前に破棄された坑道の奥……だったかな?


 今は封鎖されてる。


 僕も木板で塞がれた入り口を見たことがあるだけだ。


 …………。


 基本、古代遺跡は珍しいものである。


 だけど、探せば、結構、各地に存在する……そんな不思議な存在なんだ。 


 …………。


 …………。


 …………。


 そして現在、


(わぁ……)


 馬車を降りた僕らの目の前には、荒野に点在する古代遺跡の景色が広がっていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 馬車が停まったのは、岩と土の広がる荒野だった。


 植物はあまりない。


 サボテンが所々に生えているだけだ。


 同じように転がる岩は、大きいものだと5メード近いサイズのものもあった。


 その景色が、ずっと広がっている。


 そして、乾燥した土に半分埋もれるように、古い遺跡が見えた。


 1つ、2つじゃない。


 100以上の数だ。


 全て石造りで、崩れた壁や屋根、折れた柱などが見え、細かい装飾や彩色は長い年月で風化していた。


 ほわぁ、


(これは凄いや)


 僕は、青い目を丸くしちゃう。


 多分、これ、古代の都市がそのまま遺跡になってるんだ。


 うん、凄い規模……。


 隣のティアさんも、目の前の光景に紅い瞳を見開いている。


 シュレイラさんが、


「どうだい?」


 と、笑った。


「ここなら思いっきり試せそうだろ?」


「うん」


「はい」


 僕らは頷いた。


 だけど、


「でも、いいの?」


「ん?」


「試した魔法で、遺跡、壊れちゃうかもよ?」


「ああ、平気さ」


「…………」


「ここの古代遺跡群はね、もう調査済みなんだよ。発見された遺産も回収されてるし、壊しても問題なくてね。今は放置されてる場所なのさ」


「そうなんだ」


 彼女の答えに、僕も頷く。


(それなら安心、かな)


 視線を向けると、黒髪のお姉さんも納得した顔で頷いている。


 シュレイラさんも笑顔で、


「こんな場所には、人も来ないしね」


「うん」


「ただ、ああいうの(・・・・・)はいるけど」


「?」


 ああいうの?


 僕はキョトンとする。


 彼女が指差すので、そちらを見ると、


(わっ?)


 半分、土に埋もれた石造りの遺跡の中からモゾモゾと、巨大な黒い生き物が這い出してきた。



 ――真っ黒なさそりだ。



 体長1メード強。


 全身が、硬そうな漆黒の甲殻に覆われている。


 長い尾の先には太い針が、両碗には巨大な鋏が備わり、太陽の光に妖しく輝いていた。


(え……魔物?)


 僕は、唖然だ。


 黒髪のお姉さんは、美貌をしかめている。


 赤毛の美女は、


黒死の蠍(ブラックスコーピオン)だよ」


 と、笑う。


 楽しげに魔物を眺めながら、  


「この遺跡群は今、人間の代わりに『黒死の蠍』たちの巣になってるのさ」


「…………」


「…………」


「どうだい? 魔法のまとにいいだろう?」


 なんて言う。


(ああ……うん)


 この姐御さん、大陸最強の第1級冒険者の1人だったね。


 ただの村人とは感覚が違うのです。


 よく見たら、


(……うわ)


 あちこちの遺跡の中や周囲で、危険な黒い影が無数に蠢いていた。


 これ、100匹や200匹じゃないなぁ。


 距離があるからか、幸い、向こうは僕らのことは認識していない様子だった。


 ティアさんは、


「なるほど、的ですか」


 なんて呟いている。


 どうやら彼女は、シュレイラさん寄りの思考みたいだ。


 と、その時、


 ポン


 赤毛のお姉さんの手が僕の肩を叩く。


「さ、ククリ」


「え?」


「ティアの前に、まずお前の『魔法弓』を試そうか」


「…………」


「その辺の1匹、射ってごらん」


 と、笑顔で言う。


(……うん)


 この姐御さんの言葉には、なんか逆らえない。


 カチャ


 僕は、緑色の美しい弓を左手に持ちながら、1歩、前に出る。


 黒髪のお姉さんは、


「がんばって、ククリ君」


 と、両手を口に添えて言う。


 彼女の声援に、僕は小さく笑った。


 それから、目を閉じ、


「すぅ……はぁ……」


 と、深呼吸。


(――よし)


 心を落ち着けると、青い瞳を開き、2人のお姉さんが見守る前で『魔法弓』を静かに構えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 金属と木の組み合わさった緑色の弓だ。


 弦はない。


 でも、構えると、


 ヒィン


(あ……)


 弓の上下両端から『光の弦』が1本、ピンと張り詰めた。


 僕は、指で触る。


 ちゃんと、感触がある。


 なんか、不思議……。 


 クッと引く。


 美しい緑色の弓がしなり、正面に『魔力の光弾』が発生した。


 ジッ ジジッ


(へぇ……?)


 形状は、球体だ。


 矢じゃないのか。


 重さもなく、違和感が凄いけど……まぁ、いいや。


(――集中)


 遠くに『黒死の蠍』を確認。


 距離は、約30メード。


 使い慣れた短弓と同じ感覚で、狙いを定め――光の弦を離した。


 パシィン


 光弾が射出される。


 空中に美しい光の尾が伸び、まるで光の矢みたいに見えた。


 それは、


 ヒュオォ……ン


 空の彼方に飛んでいく。


(……あ、れ?)


 僕は、唖然。


 後ろにいる2人のお姉さんも、ポカンとした表情だ。


 …………。


 なるほど。


(これ、全然、矢が落ちないや)


 真っ直ぐ飛んでった。


 そう理解した僕は、改めて、魔法弓を構える。


 狙い方を修正。  


 もう1度、30メート先の『黒死の蠍』を狙い、『魔法の光弾』を放つ。


 パシィン


 光弾が射出される。


 直進する光の矢は、


 ドパァン


 見事、命中。


 漆黒の甲殻を穿ち、魔物の肉体を貫通する。


 更に遺跡の床も砕き、魔力の火花を散らしながら光弾は消滅した。


(う、わ……)


 何、この威力?


 僕は、愕然とした。


 今までの短弓なら、あの頑丈な甲殻に弾かれていたと思う。


 なのに、簡単に貫通した。


 狙うのも容易で、矢の軌道も正確。


 遠距離から狙われた『黒死の蠍』は、自分に何が起きたのかわからないまま絶命したと思う。 


 ピクピク


 黒い肉体が痙攣し、紫色の血だまりが広がる。


 僕は、手元の弓を見る。


 これが、


「魔法弓……か」


 本当に、凄い弓だね。


 何だか、怖くなるぐらいだ。


 と、その時、


「さすがです、ククリ君!」


 パチパチ


 僕の後ろで、黒髪のお姉さんが両手を打ち鳴らした。


 紅い瞳は、感嘆の輝き。


 赤毛のお姉さんも頷き、


「たった1射で修正して当てるのかい。魔法弓は初めてだってのにやるじゃないか、ククリ」


 と、褒めてくれた。


 2人のお姉さんの視線に、


「あ、ありがと」


 と、僕も応じる。


 真っ直ぐな賞賛に、何だか少しくすぐったい。


(でも、嬉しいな)


 それから、


 カチャッ


 手にした緑色の美しい魔法弓を見つめる。


 ……うん。


 青い瞳を細めて、


「これから、よろしくね」


 と、新しい相棒に微笑んだんだ。

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