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女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


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048・土産

 見つめ合う僕らを、女王様は見つめた。


 やがて、瞳を伏せ、紅茶のカップを一口、口に含む。


 カップを戻し、


 スッ


 視線を横に向ける。


「――お前たち、アレを持て」


 女王様は、指示を出した。


 壁際にいた付き人の女官と護衛騎士の1人が「はっ」と応え、応接室を退室する。


(……?)


 しばらくすると、女官の人が戻ってくる。


 彼女の両手はお盆を持ち、その上には美味しそうなクッキーの並んだお皿があった。


 ふんわり、甘くいい匂い。


 お皿は、僕らの前に置かれる。


 見ていると、


「難しい話はここまでだ。それを食べ、少し頭と心を休めるといい。我が宮廷料理人の作った焼き菓子だ」


 と、女王様。


(え、いいの?)


 僕は、唾を飲む。


 確認するように、赤毛のお姉さんを見る。


 彼女は、


「女王様のご命令だよ」 


 と、笑った。


 その笑顔に安心して、僕はクッキーを1枚手にする。


 パクッ


 ん、美味しい。


 歯触りサクサクで、砂糖とバターの風味がふんわり。


 クッキーには種類もあり、他にチョコレート入りやジャムやクリームを挟んだ物もある。


 モグモグ


 うん、どれも最高。 


(こんなの、村じゃ食べられないよ)


 シンプルだけど、だから、本物の料理人の作った味の違いがわかる。


 ああ、幸せ……。


 思わず、頬が緩んじゃう。


 隣のティアさんは、そんな僕の様子に優しい表情をしていた。


 女王様も、


「ようやく、年相応の童らしい姿を見れたな」


 と、満足そうに頷く。


 シュレイラさん、女官の人も穏やかな眼差しだ。  


(…………)


 なんか、そんなに見られると恥ずかしいんですが……。


 少し赤くなる。


 僕の反応に、皆、おかしそうに笑った。


 そうしている間に、


「失礼します」


 ガチャッ


 再び、応接室の扉が開いた。


 入ってきたのは、先程の護衛騎士の1人だ。


 一礼し、


「例の物、お持ちしました」


「うむ」


 頷く女王様。


 彼の後ろには、部下らしい騎士が3名いる。 


 騎士2名は、2人がかりで鞘に入った巨大な剣を抱えていた。


 もう1人の騎士は、小型の弓を持っている。


(……何だろう?) 


 思わず見ていると、


「お前たちに土産だ」


「え?」


「土産?」


「シュレイラから聞いている。『氷雪の巨人(フロストタイタン)』を倒したのは、お前たちだと」


「……あ」


「…………」


「公にはできぬが、その褒美と思え」


 と、女王様。


 ズシン


 巨大な剣は、ティアさんの前へ。


 受け取るティアさん。


 グッ


 当たり前のように、大剣を持ち上げる。


 2人がかりで運んだ重さを、たった1人で軽々と支える姿に、騎士たちは驚きの表情だ。


 彼女は、


「失礼。抜いても?」


「構わぬ」


 鷹揚に許可する女王様。


 黒髪のお姉さんは、ゆっくりと大剣の鞘を外す。


(わ……綺麗)


 目の前に現れたのは、長さ1・5メードはありそうな幅広の青白い大剣だった。


 迫力もあり、刃も美しい。


 剣身は片刃だ。


 鍔や柄も落ち着いた装飾で、華美ではない。 


 どうやら、実用品だ。


 分厚い剣身には、幾何学模様が刻まれ、根元に魔法石が填まっている。


 ヒュオ……


(ん……? なんか、冷気が)


 気のせい?


 いや、でも、大剣の方から冷たい空気が流れてくる気がした。


 と、女王様が、


「それは『氷雪の魔法大剣』だ」


「氷雪の?」


「ああ、例の『氷雪の巨人』から採れた『魔石』を素材とし、宮廷の筆頭魔法鍛冶師に作らせた。国宝ともなり得る一品だ」


「ほう……」


 唸るティアさん。


(そんな凄い剣なの?)


 女王様の説明に、僕は目を丸くしちゃう。


 それって、もしかしたら、シュレイラさんの『炎龍の槍』と同等の武器ってことじゃないの?


 え、本当にこれをくれるの?


 僕は、少々、唖然だ。


「…………」


 大剣をジッと見つめるティアさん。


 その紅い瞳は、興奮した子供みたいにキラキラ輝いていた。


 ああ……うん。


(このお姉さん、武器好きだっけ)


 思い出す僕である。 


 懐柔されちゃったかな、これは……。


 そう思う僕の前に、


 カタン


(ん?)


 もう1人の騎士が持っていた小型の弓が置かれた。


 緑を基調にした弓。


 装飾は綺麗で、なんか高そう……。


 でも、弦がない。


 と、女王様が、


「それは、ククリの物だ」


「え……?」


「お前は、弓の腕がいいと聞いている。市販品だが、それは『魔法弓』でな。矢ではなく、魔力の矢(・・・・)を放つ」


「魔力の矢?」


「そうだ。大気の魔素を利用するため、矢数は無限。威力も相応にある」


「…………」


 え、凄くない?


 市販品って言うけど、


(多分、これ、何百万もする奴だと思う)


 下手したら、1千万ぐらい?


 だって、魔法の弓だもの。


 魔法武具の市場価格って、それぐらいするんだよ。 


 …………。


 僕は沈黙し、恐縮。


 隣の黒髪のお姉さんは、お目目を輝かせてる。


 僕は、聞く。


「あの……これ、本当にもらえるんですか?」


「無論だ」


 頷く女王様。


 そして、言う。


「この魔法武具には、すでにお前たちの魔力紋で契約してある。ゆえに、もうお前たちにしか扱えない」


「え……」


「ほう?」


 いや、僕らの魔力紋って、


(どこから、その情報を……?)


 疑問が表情に出ていたらしい。


 女王様は、


「お前たちは冒険者だ。その魔力紋は、冒険者ギルドに登録されているだろう?」


「…………」


 あの……守秘義務は?


 ニコッ


 女王様は笑う。


 にこやかだからこそ、恐ろしい。


(……そうですか)


 さすが、やり手の女王様。


 眺めていた赤毛のお姉さんも、苦笑している。


 美しい女王様は言う。


「受け取りを断るか?」


「…………」


「ん? 答えよ、童」

 

「いえ、ありがとうございます」


 ペコッ


 僕は、頭を下げる。


 そうするしかないじゃないか。


 隣の黒髪のお姉さんも、見惚れていた大剣から目を離し、慌てて女王様に頭を下げていた。


(……怖いなぁ)


 この恩返し、どうしよう?


 対価に、どんな要求を、どんなタイミングでされるか……心配です。 


 そう思っていると、


「遠慮なく、受け取っときな」


 と、赤毛のお姉さんが横から言ってきた。


(え……?)


 僕は、彼女を見る。


 シュレイラさんは、


「今後のためだよ」


「今後?」


「そうだよ。帝国も馬鹿じゃない。その諜報員は各国に潜んでるんだ。この王国にだってね」


「……あ」


「最悪の場合も考えな」


「…………」


 そっか。


 ティアさんのこと、気づかれる可能性もあるのか。


 公に認めていなくても、拉致か、暗殺か、どちらにしろ、強引な手段を取られるかも知れない。


 その時に、 


(自衛のための武器は必要なんだね)


 僕は、女王様を見る。


 僕らの国の女王様は、美しく微笑んだ。



「――我が国の国益を守り、我が民を守るは、女王たるこのわたくしの役目である。そして、お前たちも我が民、ただそれだけのことだ」



 気高い声と眼差し。


(ああ……)


 これが、王という存在なんだ。


 その輝きに、僕は青い瞳を細めてしまう。


 黒髪のお姉さんも、少し驚いたように女王様を見つめる。


 そして、今度は心からの感謝を込めて、僕らはもう1度、頭を下げたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 話の直後、女王様は退室した。


 王国のトップとして仕事が山積みで、制限時間が来たらしい。


 女官の人の耳打ちに、


「そうか」


 と、女王様は頷き、席を立ったのだ。


 僕らも立ち上がり、見送る。


(……大変だな)


 素直にそう思う。


 ティアさんに関することは、ここ数日に判明した事実。


 きっと忙しいスケジュールの中、緊急の事案だと、僕らに会う時間を捻出してくれたんだろう。


 その後、僕らも応接室を退室する。 


 シュレイラさんと共に城内を歩き、やがて、行きに乗った馬車で王城をあとにしたんだ。


 …………。


 …………。


 …………。


 行き同様、帰りも2度の検問を受け、貴族街を抜ける。


 庶民の暮らす王都区画に戻ってきた。


 ガラガラ


 馬車の車輪の音がする。


 小さな振動を感じながら、


(なんか、夢みたいだったな……)


 と思った。


 僕みたいな田舎の村人が、お城に行き、女王様にもお目通りできるなんて……。


 現実感がない。


 だけど、


「…………」


 座席に座る僕の手には、『魔法弓』がある。


 隣に座る黒髪のお姉さんの横にも、巨大な『氷雪の魔法大剣』が置かれていた。


 夢じゃないのだ。


 と、彼女と視線が合う。


 ニコッ


 優しく微笑んでくれた。


(……うん)


 ティアさんが勇者と聞いて、正直、驚いたけど……でも、彼女はいつも通りだ。


 それに安心する。


 勇者だった事実を、あまり実感してないだけかもしれない。


 でも、


(ティアさんは、ティアさんだよね)


 優しくて、気遣いで、ちょっと不器用で、でも真面目で、みんなに好かれるお姉さん。


 勇者なんて、関係ない。


 それが、僕の知るティアさんだ。 


 そして今の彼女は、そのまま変わりない。


 帝国とか、皇帝とか、各国の思惑とかどうでもいいし、このまま彼女と平穏に暮らしていきたいな。


 僕は、そう願うんだ。


 そんな僕らを、赤毛のお姉さんが眺めている。


 そして、


「ほれ、ククリ」


「え?」


「女王様からもう1つお土産、さっき出されたクッキーだとよ」


 ガサッ


 と、綺麗な紙袋を渡された。


(わっ?)


 驚き受け取り、中を見る。


 フワッ


 甘い香りが立ち昇り、焼きたてのクッキーが100枚ぐらい入っていた。


「おお……」


「村の皆で食いなってさ」


「そっか。うん、そうする。ありがとう」


「アタシに礼言って、どうすんのさ」


「あ、そっか。じゃあ、シュレイラさんから女王様に、お礼、伝えてもらえる?」


「ああ、いいよ」


 快諾するお姉さん。


 僕はもう1度、「ありがとう」と笑った。


 彼女も笑う。


 ティアさんも微笑み、


「よかったですね」


「うん」


 僕は、大きく頷く。


 金髪を結い上げた綺麗な女王様を思い出して、


「女王様って凄いね」


「え?」


「僕らだけじゃなくて、村のみんなへのお土産も配慮してくれるし」


「ああ、はい」


「色々、思惑もあると思うけど、ティアさんのことを守ってくれるって約束もしてくれるし、優しい人だよね」


「ええ、そうかもしれませんね」


 と、黒髪のお姉さんも微笑んだ。


 僕も笑って、うんうんと頷く。


 だけど、話を聞いていた赤毛のお姉さんが、



「――あんま、アイツを信頼すんじゃないよ?」



 と、警告した。


(え?)


 僕らは、彼女を見る。


 女王様と親しい第1級冒険者は、


「あの女は、為政者だ」


「…………」


「アイツが第1に考えるのは、王国の利益だけ。利害が一致してる間は、信用できる」


「……うん」


「けど、そうじゃなければ……」


「……簡単に見捨てる?」


 僕は問う。


 赤毛のお姉さんは、少し怖い表情で笑う。


 ポン


 僕の頭に手を乗せ、


「わかってるならいいさ」


「…………」


「信用はしてもいいが、盲目に信頼するんじゃないよ。自分たちの身を最後に守るのは、自分たちだけだからね」


「うん、わかった」


 僕は、頷いた。


 そして、言う。


「じゃあ、信頼はシュレイラさんにするね」


「は……?」


「だって、そういうこと、ちゃんと言ってくれるんだもん」


「…………」


「だから、信じます」


「ククリ……お前ね?」


 呆れる赤毛のお姉さん。


 でも、僕は笑う。


 彼女は人情に厚そうな人だから、自分を信じる人は裏切らない気がする。


 もし女王様が敵対しても。


 それを、こっそり僕らに伝えてくれると思う。


 …………。


 少し嫌な奴だな、僕。


 計算で人を信じるなんて……ね。


 でも、


「全く……本当にしっかりしてるね、ククリは」


 と、彼女は苦笑。


 その表情は、そんな僕でも受け入れるものだった。


(……シュレイラさん)


 少し嬉しい。


 この赤毛のお姉さんは、本当にいい人だ。


 ギュッ


 と、そんな僕らの様子を見ていたティアさんが、突然、僕の腕に自分の腕を絡めた。


(え……わ?)


 ムニュン


 彼女の大きな胸が、僕の腕で潰れる。 


 はわわ……や、柔らかい。


 彼女は、シュレイラさんを軽く睨む。


 そして、僕を見る。


「大丈夫です、私がいますから」


「え?」


「私がいますから。ククリ君に何があっても、このティアが守ります。――いいですね?」


「う、うん」


 その視線の圧に、頷く僕。


 彼女も、


「はい、ククリ君」


 と頷き、満足そうに微笑んだ。


 そんな僕らに、シュレイラさんは金色の隻眼を丸くしている。


 すぐに苦笑し、


「本当、愛されてんね、ククリは」


 と、笑った。


(あはは……)


 僕も誤魔化し笑い。


 でも、ま、やっぱり嬉しいんだけど……。 


 ティアさんは、フンス……と、鼻息荒く、誇らしげでやる気に満ちている。


 触れ合う肌は熱い。


 柔らかな黒髪も、甘い匂いがする。


 彼女がここにいることを、強く実感させてくれる。


(……うん)


 僕は、窓の外を見る。


 遠くに、さっきまで僕らの滞在した丘の上の王城が見えた。


 青空に映える、綺麗なお城。


 その景色に、つい青い瞳を細めてしまう。


 …………。


 やがて20分後、僕らを乗せた馬車は、宿泊している宿屋に着いたんだ。

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