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033・雪羽虫

 王国兵と冒険者2500人は、弧を描くように配置された。


 雪羽虫の進路を塞ぐ形だ。


 僕とティアさんら村の出稼ぎ組の20人は、ギルド職員に指示された区画に移動する。


 移動先は、森の手前の小さな丘。


 間には草原が広がり、ちょうど見下ろすようになる。


(うん、射易いね)


 視界も広く、射線も通り、飛距離も出る。


 村の狩人たちも、


「ここならええな」


「んだな」


「風も悪ぅないしの」


「ありがてぇ」


「なぁ」


「うん、そうだね」


 僕も皆と頷き合う。


 カシャ


 みんなと並んで丘の上に立ち、矢筒の矢を抜く。


 弓につがえる。


(ふぅ)


 軽く息を吐く。


 矢筒の矢は、20本。


 僕の後ろには、ティアさんがいる。


 彼女の近くには矢筒が10個、計200本が用意されている。


 僕の矢筒が空になったら、彼女に交換してもらう予定だ。


 同じように村の狩人6人に対して、補給係6人が控え、残り8人が矢と死骸の回収に徹する。


 要は、村人20名の集団行動だ。  


 チラッ


 少し離れた場所では、同じように集まる冒険者たちの姿も見える。 


 あちらは別区画。


 同士討ちを避けるため、各冒険者は自分たちの担当区画内でのみ、駆除活動が許されていた。


 と、その時、


「ククリ君」


「ん?」


「そろそろ始まるみたいです」


 ティアさんは、後ろを見る。


 視線を追うと、僕らの後方で、馬に乗った偉そうな王国騎士らしい人がいた。


 騎士は剣を高く掲げ、



「総員、駆除を始めい!」



 と、大声で号令を出した。


 ドンドンドン


 騎士の横で、数人の兵士が大きな太鼓を叩く。


 大きな重低音が周囲一帯に響き渡る。


 その合図に、2500人の王国兵と冒険者が一斉に動き出した。


 僕も、弓の弦を引き絞る。


 と、同時に、


 ドゴォン


(わっ?)


 遠くの方で、爆発が起きた。


 生まれた炎の中で、雪羽虫が燃えていくのが見える。


 あれは……魔法だ。


 魔法使いが駆除を始めたのだろう。


 同じように、竜巻や雷光が各地で弾け、激しい音を響かせている。


(うわ……凄)


 その迫力に、びっくりだ。


 また剣や斧を手に、雪羽虫のいる森に突っ込む集団もいる。


 駆除方法は、皆、それぞれである。


 見ていると、


「ククリ君」


「あ、うん」


 ティアさんの声で、我に返った。


 村の狩人も、皆、弓を引き絞る。


 僕ももう1度、矢をつがえた弦をキュウッと引き直した。


 目の前の森では、


 ブワァアア


 始まった騒ぎに反応し、森の木々にとまっていた雪羽虫の群体が一斉に飛び立っていた。


 大量の雪が、空に舞ったみたい。


 少し綺麗で、不気味な光景。


 その白い空間を狙い、


「はっ」


 バシュッ


 僕は、第1射目の矢を放った。 



 ◇◇◇◇◇◇◇



 バシュ バシュ


 あれから3時間が経過した。


 僕は休むことなく矢を射続け、空を舞う雪羽虫を落としている。


(腕……パンパンだ)


 正直、少し痛い。


 射落とした雪羽虫は、村の8人が回収してくれている。


 結構な数だ。


 多分、僕個人でも、もう1000匹は倒してる。


 だけど、空を、森を、草原を埋める白い魔物の群体は、まるで減ったように見えなかった。


(ま、それもそうか)


 推定5000万匹の群体だもの。


 チラッ


 回収された雪羽虫を見る。


 見た目は、5セルドぐらいの羽虫。


 でも、お尻部分に白い綿毛がフワフワと生えていて、20セルドぐらいの球体に見えた。


 ……少し可愛い。


 でも、口元には、牙がある。


 人の肉も裂く牙だ。 


 可愛くても、やはり魔物なのだ。


 ちなみに白い綿毛の部分は、衣服や寝具などの素材にもなるとか。


 売れるかな?


(……いや)


 さすがに、この数だと値崩れしそう。


 そんなことを考えながら、


 バシュッ バシュッ バシュッ


 僕は、淡々と矢を放つ。


 その時、


(――あ)


 手元の矢筒が空になった。


 と思ったら、


「はい、ククリ君」


 カチャッ


 ティアさんが素早く、20本満載の矢筒と交換してくれた。


 もう手慣れた感じ。


 僕は笑って、 


「ありがと」


「いえ」


 黒髪のお姉さんも微笑む。


 その笑顔に励まされ、僕は腕の痛みを我慢しながら、再び弓の弦を引き絞った。


 …………。


 …………。


 …………。


 日暮れと共に、本日の駆除作戦は終了した。


 本日の、だ。


 駆除できたのは、群れの1割ほどでしかない。


 ただ雪羽虫は日中に活動し、夜の間は大人しくなるので、僕ら人間も休むのである。


 僕は、出稼ぎ組の皆と野営する。


 周囲には、篝火や焚火、魔法の照明具などが設営され、意外と明るい。


 その灯りの中で、


「イタタ……」


 僕は、自分の両腕に湿布を貼っていた。


 もちろん、自分で数種類の薬草を組み合わせた『手作り湿布』だ。


 ひんやり感が気持ちいい。


 そんな僕に、


「お疲れ様でした、ククリ君」


 と、黒髪のお姉さんが声をかけてくれる。


 少し心配そうに、


「腕、大丈夫ですか?」


「あ、うん」


 僕は頷く。


 小さく苦笑して、


「多分、明日から筋肉痛かも」


「まぁ……」


「でも、滅多にない稼ぎ時だからね。多少無理してでも、がんばらないと」


「はい」


 彼女も頷く。


 本日の駆除で、僕らマパルト村の出稼ぎ組は、2万匹以上の雪羽虫を倒していた。


 村の回収班がギルド担当に、駆除した雪羽虫の死体袋を渡して、本日分の報酬を確定させている。


 その額、200万リオン。


 約半日で、これだ。


 目標は、40万匹4000万リオン。


 計算だと、


(あと10日間は、駆除作戦が続くかな) 


 と、思う。


 なので、明日は倍の4万匹を狙いたい。


 腕は痛い。


 でも、やる気はもっとある。


 ティアさんも、それをわかってくれているのだ。


(あ、そうだ)


 僕は思い出して、


「ティアさんは平気? 疲れてない?」


「あ、はい」


 長い黒髪を揺らして、彼女は頷く。


 微笑み、


「私は、ククリ君に矢筒を渡したり、時々、矢と雪羽虫の回収を手伝うだけでしたから」


 と、謙遜した。


(いやいや)


 実際、重労働だよ。


 僕は、射るだけ。


 でも、彼女は僕の状況を見ながら、予備の矢筒に矢を詰めたり、他の場所まで駆けたりしてる。


 僕より神経も削ったはずだ。


 なのに、


(それを、表に出さないんだ……)


 このお姉さん、本当にいい人。


 僕の視線に、彼女は「?」と不思議そうな表情をする


 それでもジッと見つめると、何だか落ち着かない様子で自分の黒髪の毛先を触りだした。


 少し恥ずかしそうに、


「あ、あの、ククリ君……何か?」


 と、聞いてくる。


 僕は「ううん」と首を振った。


 そして、言う。


「ティアさんがいてくれて、僕、心強かったよ」


「あ……」


「だから、今日1日、がんばれたんだ」


「…………」


「ありがとね、ティアさん」


 と、僕は笑った。


 彼女は、


「ククリ君」


 と、紅い瞳を潤ませる。


 僕とティアさんは、何となく見つめ合ってしまう。


 と、その時、


「おおい、ククリぃ」


 と、声をかけられた。


(ん?)


 見ると、狩人のみんながいた。


 おや、何だろう?


 キョトンとする僕に、


「悪い、ククリ。お前の湿布、わけてくれんか?」


「頼む~」


「腕、痛くてなぁ」


「ククリん湿布は、効くからよぉ」


「後生だぁ」


「あ、うん。いいよ~」


 僕は、頷いた。


 まだ何枚も、湿布あるし。


 なくなったら、近くの薬草で作ればいいし。 


 みんな、「おお~」「助かるわぁ」と嬉しそうにしてくれる。


 僕も笑った。


 湿布を渡し、


「あと、これも」


 と、小さな飴玉も渡す。


 ティアさんと村の皆が、僕の手元を覗き込む。


 僕は言う。


「これ、痛み止めの薬草飴」


「ほう?」


「舐めると、しばらく痛みが消えるから。夜寝る前とかに食べると、よく眠れるよ」


「ほうか」


「そりゃええな」


「1つくれ」


「オラも」


「俺もええかぁ?」


「うん、どうぞどうぞ~。だけど、少し苦いからね?」


 ピタッ


 皆の動きが止まる。


(おや?)


 みんな、顔を見合わせ、


「ククリの苦いは……本物だけんなぁ」


「く……」


「けんど、効果はある」


「背に腹は代えられんべ」


「んだ」


「マパルト村の男の意地、見せるだ」


「おう!」


 そんなことを言ってる。


(え、何?)


 全員、何で、そんな悲壮な顔してるの?


 担当が補充と回収だった他の村のみんなは、そんな僕と狩人たちに笑っている。


 ティアさんは、唖然。


 それから苦笑し、


「ククリ君は、人気者ですね」


 と、頷いた。


 何のこっちゃ……?


 …………。


 そんな風にして、僕らの雪羽虫の駆除活動、初日の夜は過ぎていったんだ。

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魔法でやっつけた人の討伐証明どないするんやろ
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