029・王都の10日間
王都に来て、10日間が経った。
僕とティアさんは、毎日、王都アークレイの東西南北に広がる草原で薬草採取を行っていた。
晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、毎日。
雨の日には、雨具を着込んで採取する。
似たような場所で採れる薬草だった場合、2種類のクエストを1日で受注することもあった。
報酬も2倍。
(うん、美味しいです)
そういう日は、ご機嫌だ。
完了手続きの時には、ティアさんとも笑い合ってしまう。
また初日以来、あのシュレイラさんからは、普通に話しかけられるようになってしまった。
実に、気さくなお姉さん。
王国トップの冒険者なのにね……?
周りの冒険者に関係を聞かれた僕は、
「クエストで困ってた時に、助けてくれたんです」
とだけ答えた。
「そうか」
「姐御らしいな」
「全くだぜ」
「私も昔、助けてもらったわ」
「俺も」
「俺らもだ」
と、みんな納得してた。
その辺からして、あの赤毛のお姉さんの人柄がわかる気がする。
僕もニコニコ、彼女の話題を聞いてしまう。
でも、そんな僕に、なぜかティアさんは「…………」と無言になってしまうことが多い。
(はて、何で?)
聞いても、
「いえ、何でも」
「そ、そう」
と、教えてくれないんだ。
(……ま、いいか)
人間、人に言いたくないこともあるよね?
そんなシュレイラさんは、4日目、魔物討伐クエストのため、『白霧の渓谷』という場所へと旅立った。
現地に生息する魔物を、間引くのだという。
ちなみに、4~5メードの大型魔物が無数にいる場所らしい。
(赤猿より大きいじゃん)
僕は、びっくりだ。
出発前の彼女曰く、
「女王の政策方針でね。魔王が死んで魔物が減った今、人間の支配領域を広げたいんだとよ」
「ふぅん?」
「ったく、こき使いやがって。あの年増女王が」
「…………」
凄い言い方。
でも、本気じゃなくて、軽口っぽい。
どうやら、この赤毛のお姉さんは、アークライト王国の女王様からの依頼も多数受けているため、顔馴染みみたいだ。
さすが、第1級冒険者。
(雲の上の話だなぁ)
と、思う。
ちなみに、彼女は基本、単独で活動してる。
だけど、たまに気に入った仲間を臨時で何人か雇い、クエストに向かうこともあるとか。
今回も3人、募集してた。
そして、王都の冒険者は皆、彼女に指名されるのを期待してるらしい。
その赤毛のお姉さんは、
「今度、ティアも指名しようか?」
「結構です」
「何で? 自分で言うのも何だけど、アタシに指名されるのは、結構、名誉なことなんだよ?」
「私にとっては、ククリ君といられる名誉が1番です」
「ふぅん、そうかい」
「はい」
「アンタの剣の腕には一目置いてんだけどね……。ま、いいさ」
「…………」
「ふふっ、愛されてんね、ククリ」
と、笑われた。
(ど、どうも……)
僕は何だか、くすぐったい気持ち。
でも、そんな僕の隣で、ティアさんは胸を張っていたけどね。
ま、そんなこんなで、赤毛の冒険者は旅立ったんだ。
…………。
…………。
…………。
そして現在、僕らは冒険者ギルドの受付にいる。
今は、夕暮れ時。
本日の薬草採取を終わらせて、受付で納品とクエスト完了手続きを行っていた。
品質に問題もなく、
ジャラン
「ククリ様、ティア様、お疲れ様でした」
と、報酬が渡された。
毎日のことなので、受付嬢さんも僕らの顔を覚えてる感じ。
僕らも、
「ありがとうございます」
「どうも」
と、硬貨に入った布袋を受け取る。
受付嬢さんに笑顔で見送られ、僕らは冒険者ギルドをあとにする。
ふと見上げた空は、もう薄暗い。
だけど、街中はたくさんの光で全然明るい。
まさに、大都会らしい景色。
うん、さすが王都だ。
(…………)
その美しい景色を眺めながら、僕は、少し考え込む。
と、隣のお姉さんが、
「今日も、クエスト成功しましたね」
と、微笑んだ。
達成感に満ちた笑顔。
僕も笑って、
「うん、そうだね」
と、頷く。
ただ、こうして成功できているのは、彼女のおかげだと思う。
実は、この10日の間に1度だけ、草原で魔物に遭遇したことがあった。
草むらから現れたのは、牙の生えた鼠。
ファングラット、だ。
体長1メードぐらいで、10匹ぐらいの群れ。
(やば……)
見た時は、さすがに焦った。
だけど、黒髪のお姉さんが前に出て、
「はっ」
ヒュン ヒュパン
その長剣が、あっさり3匹を斬り殺してしまった。
生き残りも、即、逃げ出す。
(……凄いや)
僕は、呆然。
そんな僕に気づき、
ニコッ
彼女は、少し恥ずかしそうに微笑んでくれる。
……うん、可愛い。
そんな風に、薬草採取の手伝いだけでなく、僕の護衛役もしてくれるティアさん。
この10日間の貢献度は、本当に高い。
だからこそ、
(うん、決めた)
僕は、彼女に言う。
「ねぇ、ティアさん?」
「あ、はい」
「この10日間、ずっと働いてるしさ、明日はお休みにしようか」
「え?」
「せっかく王都にいるんだし、2人で散策してみない?」
「あ……」
彼女は、紅い目を丸くする。
でも、すぐに意味が浸透したみたい。
僕を見つめ、
「はい、ククリ君」
と、嬉しそうにはにかみ、頷いてくれたんだ。