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女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


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027・初日の終わり

 門前の検査を受け、王都内に入った。


 日暮れ前の時間だけど、街灯のある街並みは明るく、まだ人通りは多い。


(うん……)


 やはり、田舎の村とは違うね。


 まさに、都会の景色。


 それを眺めていると、


 キュッ


 突然、ティアさんが僕の手を握った。


 彼女を見ると、


「はぐれないように」


 と、微笑んだ。 


(あ、うん)


 そうだね。


 ちょうど仕事終わりの時間で、歩道は混雑している。


 小柄な僕は、歩くのも大変だ。


 ぶつかる人波をかき分けながら、黒髪のお姉さんに手を引かれ、冒険者ギルドを目指す。 


 やがて、建物に到着。 


 中に入ると、


(わぁ……)


 室内も大混雑。


 本日のクエスト終わりの冒険者が多数、集まっていた。


 受付の列も長い。


(そっかぁ)


 今日は、予定より帰るの遅くなったしね。


 隣のお姉さんも、少し呆然。


 僕は苦笑し、


「並ぼっか」


「……はい」


 諦めの境地で、2人で列の最後尾へ。


 …………。


 …………。


 …………。


 待ち時間40分ほどで、僕らの番となった。


「次の方、どうぞ」


「うん」


「はい」


 僕らは受付カウンターに、依頼書、冒険者証、採取した薬草を提出する。 


 確認する受付嬢さん。


 慣れた様子で、冒険者証の登録情報を読み、


「……あ」


 と、小さく呟いた。


(ん?)


 彼女は、ポチポチ、鍵盤を叩く。


 その上で、


「ククリ様、ティア様ですね?」


「あ、はい」


「はい」


「申し訳ありません。ただ今、案内の者が来ますのでもう少々お待ちください」


「え……?」


「案内?」


 僕らは、キョトンとする。


 30秒ほどで、奥から別のギルド職員が現れた。


 年配の男の人。


 少し偉い立場の人っぽい。


 彼は、受付嬢さんと視線で会話をして、


 コク


 小さく頷き合う。


 そして、その僕らに一礼。


「お待たせしました。個室がありますので、どうぞこちらへ」


 と、言う。


 え……個室?


 僕は驚き、ティアさんも目を丸くする。


 会話が聞こえたらしい周りの冒険者も『何だ何だ?』とざわつき、興味深そうな視線を向けてくる。


(おっと……)


 悪目立ちは嫌かな。


 僕は、


「わかりました」


 と、頷いた。


 そんな僕を見て、黒髪のお姉さんも頷く。


 彼は微笑み、


「では、こちらです」


 と、歩きだす。


 多くの視線の中、僕ら2人はその背中に続いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 案内されたのは、小さな応接室。


 仕立ての良い机とソファーがあり、5~6人ほどが集まれる広さだ。


 僕らは、ソファーに座る。


 ……うん、とても柔らかい。


 対面に座った男の人は、冒険者の管理や指導を担当する責任者と名乗り、


「誠に申し訳ありません」


 と、冒頭から謝られた。


(はい?)


 戸惑う僕ら。


 詳しく話を聞くと、実は3時間ほど前に、例の5人の件をシュレイラさんから報告されたとのこと。


(ああ、なるほど)


 僕は、ようやく納得。


 それは、ギルドの不祥事。 


 だから、他の人に聞かれない個室に案内されたのだ。


 個室では、簡単な事実確認がされたあと、再び丁寧な謝罪をされる。


 そして最後に、慰謝料まで払われてしまった。


 ジャラン


 大量の硬貨の入った袋。


 金額は、30万リオン。


(うへ……)


 出稼ぎ、約1ヶ月分だ。


 これには、ティアさんも驚いた様子だった。


 あまりの多さに、最初、断ることも考えた。


 だけど、


(あ……これ、口止め料も込みだよね)


 と、僕は気づく。


 つまり、受け取らないと逆にまずい。


 なので、諦めて受け取ることにする。


 ただ大金なので、ギルドは預金業務も行っているので、全額、口座に入れてもらった。


 あと、薬草採取のクエスト完了手続きも行った。


 報酬は、1万リオン。


(……うん)


 ま、これが普通。


 その後、その男の人に頭を下げられながら退室し、僕らは受付ロビーに戻る。


 全ては、20分ほどの出来事だった。


 …………。


 …………。


 …………。


 賑やかな空間を抜け、僕らは冒険者ギルドを出た。


 外は、もう夜だ。


 夜空には、3つの月が見える。


 村と変わらない空の景色……だけど、街が明るいから、見える星は少なかった。


「…………」


「…………」


 ティアさんと2人、通りを歩く。


 こぼれる息は、白い


 寒い冬の空気だ。


 ふと、隣を見る。


 すると、彼女もちょうど僕の方を見ていた。


 目が合う。


 クスッ


 思わず、笑い合った。


「何だか今日は、大変な出稼ぎ初日になっちゃったね」


「はい、そうですね」


「でも、30万、儲かっちゃった」


「はい」


 頷くお姉さん。


 ちなみに出稼ぎで稼いだお金は、最終的に、割合別で村全体に分配される。


 なので、僕は、


「宿に帰ったら、村のみんなに自慢できるね」


「あれは、口止め料では?」


「あ、そっか」


「ふふっ、はい」


「ま、誤魔化して自慢するよ」


「そうですか」


「うん」


 と、笑った。


 そんな僕に、ティアさんも優しく微笑んでいる。


 その時、


 ドン


(おっと)


 歩いている人にぶつかり、転びそうになった。


 ティアさんが慌てて支えてくれる。


「ククリ君」

 

「ごめん、ありがとう」


「いいえ」


 長い黒髪を揺らし、彼女は首を振る。


 僕は苦笑し、


「夜でも人が多いね、王都は」


 と、都会の景色を眺めた。


 隣のお姉さんも、紅い瞳を細め、


 キュッ


「では、やはり手を繋ぎましょう」


 僕の手を握る。


 僕は、青い目を瞬く。


 すぐに笑った。


「うん」


「はい」


 彼女も微笑み、僕らは歩きだす。


 しばらくして、


「……ククリ君の手は、温かいですね」


 と、呟きが聞こえた。


 隣を見る。


 彼女の口元から、白い吐息が長くたなびいている。


 夜景を背景に見える彼女の横顔は、何だか幻想的で、とても綺麗だと思った。


 繋いだ手だけが温かい。


(…………)


 僕も前を向く。


 2人で、王都の冬の夜道を歩いていった。

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