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021・依頼受注

 さて、登録は済んだ。


 なら次は、


「じゃあ、クエスト、やってみよっか」


「はい、ククリ君」


 僕の言葉に、ティアさんも頷いた。


 王都まで来たのは、出稼ぎが目的だからね。


 冒険者登録は、その手段。


 だから、


(ここからが本番だ)


 グッ


 僕は両手を握り、自分に気合を入れた。


 見れば、登録で時間をかけたからか、掲示板の前の冒険者の数も減っている。


 うん、今の内だね。


 僕とティアさんは、掲示板へと向かった。


 掲示板は横に長く、たくさんのクエスト依頼書が貼り出されている。


 その多さに、


「いっぱいありますね」


 ティアさんは、目を丸くしていた。


 僕は頷いて、


「うん。でも、僕らが受注できるのは、10級までのクエストなんだ」


「そうなのですね」


「えっと、10級の掲示板は……この辺だね」


「はい、そうですね」


 掲示板上に『10』と書かれた掲示板の前に立つ。


 依頼書の数は、50枚ぐらい。


(どれどれ?)


 その内容を、確認する。


 荷物の配達、施設の清掃、土木工事、害獣駆除、薬草採取、ウサギの毛皮集め、販売手伝い、冒険の荷物持ち、などなど……色々ある。


 10級は、冒険者の最初の等級だ。


 なので、クエストも初心者向き。


 危険度は低く、報酬も安い。


 隣のお姉さんが聞く。


「去年のククリ君は、何をしたのですか?」


「ん?」


 僕は、彼女を見る。


 少し悪戯心が湧いた。


 小さく笑って、


「何だと思う?」


 と、逆に聞き返した。


 彼女は少し考え、


「……薬草採取?」


「正解」


 捻りのない答えに、僕らは笑い合った。 


(ま、そりゃね)


 僕の取柄、それしかないし。


 しかも僕は、まだ子供。


 体格も小さく、力も弱い。


 配達、土木などの力仕事は、大人みたいにはできないし、清掃も高い所には手が届かない。


 害獣駆除も、命懸けになってしまう。


 必然、慣れた仕事に落ち着くんだ。


 彼女は言う。


「では、今年も?」


「うん、そのつもり」


 僕は頷く。


 でも、彼女を見て、


「だけど、今年はティアさんもいるし、もしかしたら他の仕事もやってみるかも……」


「そうですか」


「いい?」


「もちろんです」


 黒髪を揺らし、お姉さんは頷く。


 僕を優しく見つめて、


「私は、ククリ君に従います」


 と、微笑んだ。


(……ん)


 その信頼が嬉しい。


 少し照れながら、


「ありがとう、ティアさん」


 と、僕も小さくはにかんで答えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 未来のことは置いておいて、本日は出稼ぎ初日である。


 やはり、仕事は慣れたものを選びたい。


 なので、僕は、


 ペリッ


 掲示板から『薬草採取』の依頼書を剥がした。


(……さて)


 受注の手続きだ。


 僕は、隣のお姉さんを見て、


「あとは、この依頼書を受注用の受付で提示すればいいんだよ」


「はい、わかりました」


 頷くティアさん。


 僕も頷き、


「じゃ、行こう」


「はい」


 と、僕らは受付に歩きだした。 


 受付前は、混雑していた。


 受付は3つあり、そのどれもに20人ぐらいの冒険者の列ができていた。


(あ~)


 さっき、掲示板の前にいた人たちだね。


 ま、仕方ない。


 僕らも1つの列の最後尾に並ぶ。


 本来は、代表者1人が並ぶべきなんだろうけど、今回は、ティアさんの勉強のため、2人で並んだ。


 うん、のんびり待とう。


 ワイワイ ガヤガヤ


 僕らの後ろにも、すぐに人が並ぶ。


(あ……)


 その時、列の先に、マパルト村の人たちが並んでいるのが見えた。


 ティアさんも気づいた様子。


 彼女は紅い目を細め、


「皆さんは、土木と配達、あとウサギの毛皮を集めるようですね」


「見えるの?」


 僕は驚いた。


 あんなに離れた人が持つ依頼書の文字が……?


 彼女は微笑み、


「はい」


 と、当たり前のように頷いた。


(そっか)


 目がいいんだね、ティアさん。


 そう言えば、赤猿と戦った時も、その攻撃を見切っていたっけ。


 動体視力も、相当、高いのかも……。


 僕は、素直に感心する。


「凄いね、ティアさん」


「いえ、そんな」


 照れるお姉さん。


 なんか、可愛い。


 それから、


「皆さんも、村での慣れた仕事をする感じですね」


「うん、そうだね」


 僕は頷く。


 村の人は、自分たちで家を作るし。


 特に、出稼ぎ組は狩人が多いから、腕力も体力もある。


 当然、ウサギを狩るのも得意だろう。


 確か去年も、同じだった気がする。


 僕は言う。


「僕らもがんばらないとね」


「はい」


 力強く頷く、黒髪のお姉さん。


 その時だった。



「ちっ……今年も田舎の連中が集まってきたのか」



 と、後ろから声が聞こえた。


 少しドキッとする。


 見れば、僕らの2~3人後ろに並んでいる冒険者たちだった。


 列の長さに、辟易してる感じ。


 そして、


「この時期になると、あちこちから来やがって……マジで鬱陶しいぜ」


「全くな」


「混んでて堪らんわ」


「なぁ」


「俺らの仕事も減るしよ」


「田舎に引っ込んでろよな……ったく」


 なんて会話。


(…………)


 軽口だけど、確かな悪態。


 他の冒険者は聞き流してる感じで、気にしてない人も多そう。


 だけど、


「……っ」


 隣のお姉さんは、美貌をしかめる。


 小さな怒気。


 何か一言、言い返したそうな雰囲気だった。


 クイッ


 僕は、彼女の服を引く。


 こちらを見た彼女に、首を振った。


「ククリ君」


「気にしないで」


「ですが……」


「いいの。冒険者は口が悪い人も多いから、本気にしたら駄目だよ?」


「…………」


「それに、本当のことだから」


「ククリ君」


 少し非難めいた目で見られる。


 僕は苦笑する。


「彼らは、本職の冒険者だ」


「…………」


「でも、僕らは片手間に冒険者をしてる。逆の立場なら、きっと僕も同じように感じるよ」


「そんな……」


「想像してみて?」


「想像?」


「いつも僕らが薬草採取している山に、突然、他所者が入ってきて、好き勝手に山を荒らして、薬草を持っていったら」


「…………」


「ね……?」


「…………」


 彼女は、黙り込む。


 山は誰の物でもないし、何も悪くない。


 だけど、


(――嫌だ)


 と感じてしまう。


 それが人間だ。


 そして、王都ここでは、僕らが他所者なんだ。


 だから、僕らは、本職の冒険者の人たちの仕事全てを奪うことがないように、その中で稼ぐように注意しないといけない。


 配慮は大事なんだ。


 その上で、


(やっぱり恨まれることも覚悟しないとね)


 それは仕方ない。


 だって、お互い、生きるために必死だから。


 僕は言う。


「大丈夫」


「…………」


「冒険者の人たちも、わかってくれる人は多いから。一部の人の声だけを気にしちゃ駄目だよ」


「……はい」


 彼女は頷いた。


 紅い瞳が、僕を見つめる。


(……?)


 キョトンとする僕に、


「ククリ君は、大人ですね」


「え?」


「私の方が年上なのに……何だか、自分が恥ずかしいです」


「…………」


 少し唖然。


 でも、すぐに笑う。


「ティアさんがいるから」


「え……?」


「1人だったら怖かったかも。でも、ティアさんがいるから心強くて平気だった」


「…………」


「ティアさんが怒ってくれたから、僕は落ち着いていられた」


「……ククリ君」


「だから、ありがとう」


 少し照れながら、お礼を言う。


 彼女は呆然とする。


 すぐに、何とも言えない表情になり、


 ギュッ


(わっ?)


 突然、抱きしめられた。


 って、え……ええ?


 大きな弾力のある胸が押しつけられ、甘い匂いがする。


 綺麗な黒髪がサラサラと、僕の肌を撫でていく。


 僕は驚き、


「テ、ティアさん?」


「すみません。何となく、こうしたくなりました」


「……う、うん」


「ですが、ククリ君がいけないんですよ?」


「……えっと」


「…………」


「……ごめんなさい?」


「いいえ」


 彼女は首を振り、やがて身体を離した。


 僕を見つめる。


 そして、


「わかりました。もう気にしません」


「あ、うん」


「ククリ君のために」


「…………」


 僕は、何とも言えない表情だ。


 そんな僕の様子に、黒髪のお姉さんは何だかおかしそうに笑っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 30分ほどで、僕らの番が来た。


 受注専用の受付で、


「お願いします」


 と、『薬草採取の依頼書』と僕ら2人分の『冒険者証』を提出する。


 受付嬢さんは、


「はい、かしこまりました」


 と受け取る。


 依頼内容を確認。


 次に、僕らの冒険者証を器具に固定。


 フォン


 透明な部分に、登録情報が表示される。


 受付嬢さんは、その等級、実力などを参考に受注の可否を判断するんだ。


 今回は当然、


「問題ありませんね」


 と、受付嬢さんは頷く。


 ポチポチ


 鍵盤を叩き、受注記録を冒険者証に登録する。


 依頼書と冒険者証を返してくれ、


「期限は、3日間です。お忘れなきように」


「はい」


「はい」


「特にティア様は、初めてのクエストですね。どうか無理をなさいませんようご注意くださいね」


「あ、はい」


「それでは、良き冒険を」


 ニコッ


 素敵な笑顔で、僕らを送り出してくれた。


 僕らは頷く。


 受付嬢さんはすぐに表情を戻して、


「次の方、どうぞ」


 と、業務に戻った。


 邪魔にならないよう、僕らも受付前を離れる。


(ふぅ……)


 無事、受注完了だ。


 ティアさんも冒険者証を胸元で握り締め、大きく息を吐いていた。


 僕らは顔を見合わせる。


 笑って、


「依頼を受けるのは、こんな感じ」


「はい、覚えました」


「うん」


「このあとは……どこに?」


「王都近くの草原だね。目的の薬草はそこに生えてるみたい」


「なるほど」


「ちなみに、これ、初級クエストだから『冒険者の心得』にも薬草の生えてる場所が記載されててね」


「え?」


「ほら、この巻末の地図」


 ペラペラ


 実際にページを開く。


「あ……本当ですね」


 初心者冒険者のお姉さんは、驚いた顔だ。


 僕は笑いながら、


「この冊子、意外と便利なんだよ」


「ですね」


「うん。活用してね」


「はい」


 彼女も微笑む。


(さて)


 では、実際に行ってみますか。


 僕らの格好は、すでにいつもの薬草採取の時と同じ。


 装備も万全だ。


「じゃあ、これから王都の門を出て――」


 と説明し始めた、その時、



 ザワッ



 突然、冒険者ギルド内の空気がざわめいた。


(ん?)


 思わず、言葉が止まる。


 いや、僕だけじゃない。


 ギルド内の全員が今の動作を止め、言葉なく、ある1点を見ていた。


 建物の出入口。


 無音の中、僕の視線も吸い寄せられる。


(……あ)


 そこに、1人の女の人がいた。


 真っ赤な鎧と、炎みたいな形状の槍を手にした女冒険者だ。


 豊かな赤毛の髪は、ポニーテールに結ばれている。


 ただ、そこにいるだけ。


 なのに、凄い存在感。


 不思議な引力みたいなものがあって、全員の意識が彼女1人に引き寄せられている感じだ。


 黒髪のお姉さんは、


「……?」


 と、小首をかしげる。


 でも、僕は青い瞳を見開いていた。


(まさか……)


 でも、あの容姿……間違いない。


 あの人は……きっと!

新しいお姉さんキャラの登場です……!(こそっ)

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