表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/97

001・出会い

 ――この世界は、平和である。



「わぁ、大きい葉だ」


 村近くの山で見つけた薬草の立派さに、僕は驚いた。


 すぐに短剣を抜き、


 サクッ


 茎を切断した。


 採取した薬草は、丁寧に布袋に収め、リュックにしまう。


(うん、高く売れそう)


 僕は笑顔だ。


 リュックを背負い直し、立ち上がる。


「よし、次だ」


 新たな薬草を求めて、再び山の中を歩きだした。


 …………。


 …………。


 …………。


 僕の名前は、ククリ。


 年齢は、13歳。


 見た目は、茶色い髪、青い瞳、平凡な顔、あと少し背が低い、普通の村人だよ。


 仕事は、薬草採取。


 それで、生計立ててます。


 暮らしているのは、マパルト村。


 アークライト王国の東の端っこにある、人口200人ほどの小さな村だ。


 まぁ、どこにでもある田舎村の1つだね。


 僕は、そこで1人暮らし。


 父さん、母さんは、3年前に亡くなってる。


 両親は、薬草採取の名人だった。


 だから、僕も小さい頃から一緒に山に登って、薬草採取のやり方を教わっていた。


 おかげで今も、1人で暮らせている。


 ありがと、父さん、母さん。


 その教わった知識で、


「あ、あった」


 と、また薬草を見つけた。


 短剣を抜き、


 サクッ


 再び回収、リュックにしまう。


 今日は順調だね。


「ふう」


 と、一息。


 ふと、頭上を見上げる。


 木々の葉の隙間から、青い空と輝く太陽が見えた。


 僕は、青い瞳を細め、


(……うん)


 と、少しだけ微笑んだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 やがて、午後になった。


(ん、少し休むかな)


 と、僕は休憩することにする。


 いつもの休憩場所、森の中にある清流の川へと移動した。


 澄んだ水が流れている。


 川底も見えるし、水中を泳ぐ魚も4~5匹、見えている。


(んしょ)


 僕は、大きな石を椅子にして座る。


 靴を脱ぎ、素足を川の流れに浸しながら、水筒を取り出した。


 チャポ


 川の水を入れる。


 水筒の中には『浄化の魔石』が入っていて、中身を飲用可能な水にしてくれるんだ。


 30秒ほど、上下に振る。


 ジャポ ジャポ


(もういいかな?)


 両手で水筒を持ち、綺麗になった水をコク、コク……と飲んだ。


 ん、美味しい。


 しばらく飲んで、


「ぷはっ」


 大きく息をつく。


 はぁ……満足。


 太陽は暖かく、森に吹く風は涼やかだ。


 耳を澄ませば、


 サラサラ


 川を流れる水音も心地好かった。 


 ……うん。


 平和だね。


 本当に、この世界は平和になった。


 小さい頃は、この山でもよく魔物を見かけたけれど、今では全く見かけない。


 そう、3年前、



 ――勇者・・様とその仲間たちが、この世界の国々を脅かせていた魔王・・を倒してくれたから。



 人類の勝利に、世界中の人が喜んだ。


 当時は、お祭り騒ぎだったなぁ。


 平和な時代の到来。


 長い間、夢物語だったのが、現実になるんだもの。


 本当、びっくりだよ。


 そして、魔王の眷属だった魔物たちも数を減らして、人前にあまり現れなくなった。


 深刻な魔物災害も激減した。


(…………)


 カチャッ


 僕は、短剣を鞘から抜いた。


 その刃を見つめる。 


 実は、この短剣は、両親の形見の品だった。



 ……魔物に殺された、両親の。



 僕の父さんと母さんが死んだのは、勇者様が魔王を倒したほんの7日前だった。


 たったの7日……。


 それだけの差で、2人は死んだ。


(……ん)

 

 僕は、唇を噛む。


 平和になって嬉しい。


 それは本心だよ。


 だけど、素直に喜べない、情けない自分もいる。 

 

 もしも……。


 もしも、勇者様があと7日早く、魔王を倒してくれてたなら……なんて考えてしまう。


(…………)


 馬鹿だな、僕。


 そんなの、逆恨みじゃないか。


 恐ろしい魔王を相手に、勇者様もがんばってくれたのにね?


 形見の短剣を、上にかざす。


 その刃は、太陽の光を優しく反射している。


「うん」


 僕は頷いた。


 その時、


「あれ?」


 ふと、短剣の奥にある川の流れの中に、何か(・・)が見えた。


 何だろう?


 黒い布……? 


 目を凝らして、


「えっ、女の人!?」


 僕は、驚きの声をあげてしまった。


 川の中にある岩に引っかかるようにして、長い黒髪の女の人が水に浮かんでいた。


 もがくように、白い手が弱々しく動く。


(生きてる!)


 た、大変だ!


 僕は短剣を鞘にしまうと、水を蹴りながらそちらに向かったんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ