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009・中古剣

 行商で賑わう広場は、村人も大勢だ。


 ムギュ ムギュ


 その人混みをかき分けながら、小柄な僕は村の広場を歩いていく。


(ん~?)


 ティアさん、どこだろ?


 と、周囲を見て、


「あ、いた」


 3台の行商馬車の1番奥の方に、黒髪のお姉さんを発見する。


 美人は目立つね、うん。


 どうやら、商品を吟味しているみたいだ。


 僕は、そちらに近づく。


「ティアさん」 


 と、声をかける。


 気づいた彼女は、


「あ、ククリ君」


 綺麗な長い黒髪を揺らして、振り返る。


 僕は笑って、


「何か欲しい物、あった?」


 と聞いた。


 彼女は頷く。


「はい、これです」


「どれどれ?」


 と、僕は、彼女の正面にある商品を覗く。


(……え?)


 青い目を瞬いた。


 行商馬車の横には、大きな樽があり、そこに何本もの剣が放り込まれていた。


 安売りの中古の剣。


 …………。


 え、これが欲しいの?


 ティアさん?


 僕は、彼女を見る。


 黒髪のお姉さんの瞳は、生き生きとしていた。


「この剣が欲しくて」


「…………」


「思ったより安いので、買ってしまおうかと思ってるんです」


「そ、そう」


 僕は頷いた。


 まぁ、確かに。


 魔物が減って、武器の需要もなくなり、今は中古の剣も凄く安いんだよね。


 1本、3万リオンぐらい?


 多分、本来の5分の1の価格。


 ちなみに、ティアさんに渡したお金の額も、ちょうど3万リオン。


(…………)


 僕は聞く。


「えっと、お洒落な服とか、アクセサリーとかも売ってるけど……」


「これがいいです」


「…………」


 断言するお姉さん。


 服やアクセサリーより、剣に興味がある様子。


 女の人には珍しい気もするけど、


(でも、考えたら、世の中、女の騎士様や冒険者もたくさんいるからね)


 何より、ティアさん本人の希望である。


 なら、それを尊重したいな。


(――うん)


 僕は頷いて、


「それじゃあ、買おうよ」


 と、背を押した。


「よろしいですか?」


「うん、もちろん」


「ありがとうございます、ククリ君」


 笑顔のティアさん。


 本当に嬉しそうだ。


 彼女は、樽の中の剣を1本1本、吟味する。


 そして、


「これにします」


「それ?」


「はい。中古ですが、しっかり手入れもされていて、各部の作りもよく、重心も整っています」


「……わかるの?」


「何となくですが」


「そっか」


 彼女は、選んだ1本を買った。


 行商人も「毎度」と在庫が減って嬉しそうだ。


 カチャ


 彼女は、胸の前で剣を掲げる。


 見た目、普通の長剣だ。


 刃の長さは0・8メードほどで、両刃である。


 中古らしく、鍔の一部が欠けている。


 けれど、銀色の刃は新品のように美しく、ティアさんの美貌を反射していた。


 彼女は、満足そうに頷く。


「これで、ククリ君を守れます」


「……え?」


 僕は、キョトンとした。


 守る……? 僕を?


 彼女は、僕を見て、


「私は、ずっとククリ君のお世話になっていて……だから、何かお返しをしたかったんです」


「…………」


「でも、今の私は何もできなくて」


 少し沈んだ声。


 彼女は、買ったばかりの剣の柄をギュッと握る。


「それでも、せめて、山の薬草集めの時に何かあったなら、私がククリ君を守ろうと……」


「…………」


「だから、剣が欲しかったんです」


「ティアさん……」


 僕は、少し呆然だ。 


 彼女は、恥ずかしそうに微笑む。


(……そっか)


 父さん、母さんが死んだ時のことを、前に僕が話したから。


 ティアさんは、それを覚えてて。


 それで……。


 …………。


 胸の奥が、何だか痺れた。


 僕は、彼女を見る。


「ありがとう、ティアさん」


「いいえ」


 心からのお礼に、彼女は優しくはにかむ。


 そして、


 カチャリ


 剣を鞘に納め、腰ベルトに提げる。


 その姿は、凄く似合っていた。


(ん……)


 僕は、青い瞳を細める。 


 目の前の黒髪のお姉さんは、僕には何だかとても凛々しく、頼もしく見えた。

単位の補足


1リオン=約1円

1メード=約1メートル


になります。


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