1章VII 『魔法無効』
目を覚ますとそこには無機質な天井が広がっていた。ここはどこだろう?保健室かな?たしか私は昼休みに教室で倒れて…
「紗夜ちん!?目覚ました!大丈夫??」
隣には愛莉が座っていた。私のことをずっと看病してくれていたのだろうか。愛莉の瞼は少し赤く染っている。泣いてくれてたのかな…めちゃくちゃ心配してたみたい。
「うん、大丈夫。今はどこも痛くないし平気。」
「良かった〜〜、何が起きたのか分からなくて心配でー。」
「うむ、その調子だと確かに大丈夫そうだな。」
「百鬼先生…」
その場には保健室の先生の代わりに百鬼先生も居たようだ。百鬼先生が私の顔色を確認し、体温を測る。そのまま触診した後、保健室の生徒様態記録シートのようなものに、無事回復と書いていたのが確認できる。
「姫野からおそらく魔法が原因による意識昏睡というように聞いたからな。一応私の『魔法無効』を試して見たが、効果はあったようだな。」
「そうなんですね。ありがとうございます。」
「あぁ、ただ、少し不可解な点があってな。」
「不可解な点…?」
なんだろう。私が魔法を使えないことと関連しているのだろうか。それとも私の体は完全には治っていないとか?私はそもそも魔法を使うことが出来ないため、百鬼先生の『魔法無効』を食らったことが人生で1度もない。だから、初めて私を対象としたことによって違和感を感じたということなのだろうが…。
「うむ、それが私の魔力行使が完遂できた気がしないんだ。具体的にいえば、手応えを感じていない。」
「手応え…ですか…?」
「あぁ、私が『魔法無効』によって魔力を打ち消す時は、私の感覚ではモヤとなっている魔力を霧を払うかのように追い払う感じなんだ。そして、私の第六感でそれを感じることが出来る。しかし、今早乙女の中にあった姫野の魔法を払う時、早乙女の中にある魔法を全て完全にうち消せたという感じがしないんだ。」
「なるほどねー、じゃあもしかしたら紗夜ちんが魔法を使えないのは、魔法を使えなくするという魔法がかかってるかもしれないってことー?」
「その可能性は大いにあるな。そして、私の魔力が通用しないということは、それなりに大きな力が働いているのだと思う。」
「は、はぁ、私の体にそんな眠れる力みたいなものが隠されているかもしれないんですか…」
話のスケールが大きくなっている。私に「魔法が使えなくなる魔法」がかかっているという仮説が立ったようだ。ただ、この推測が正しいとしても、私はこんな魔法をかけられた記憶がない。寝ている間にこっそり…となら分からなくもないが、私が魔法を発現しているのも生まれつき、魔法が使えないのも生まれつきだ。生まれた瞬間からその魔法が使われていないとおかしな話になってしまう。
「まぁ、憶測に過ぎないがな。重く捉えないでくれ。それはそうと、まだ昼休みは20分あるのでよく休んで欲しいのだが、5,6限の魔獣討伐訓練はどうする?」
そっか、この学園昼休みが90分もあるからまだ昼休みがこんなに残っているのか。90分の間に食事、休憩、掃除等を全てこなさなければならないカリキュラムになっている。そして午後の魔獣討伐訓練か。そりゃもちろん
「参加させていただきます」「紗夜ちんの身が安全だもん。もちろん休みます。」
え?愛莉が欠席の意を示したことに驚いてしまい、思わず声が出なくなってしまう。
「え?」
「いや、私は大丈夫だよ愛莉。私が休むと私とペアの愛莉まで連帯的に欠席扱いになっちゃうし。」
「いやーいいのにー、私が欠席扱いとかそういうのよりも、紗夜ちんの体の方が私は心配だよー」
愛莉はこんな時まで私の体を第1優先に考えてくれているのか。ありがたいけど、でも私の体の元気さは訓練の参加是非に関して何も本質を捉えていない。
「いいんだよ、どうせ体が万全でもそうでなくても私に出来るようなことは何一つないんだから、私はいけるよ。」
「ん〜まぁそれもそっかー、分かった。紗夜ちんのことは絶対守るからね〜。」
そもそも、私が元気であろうとなかろうと、私が何も出来ないのには変わりがないし、愛莉が全て負担しなければならないことに変わりがない。多少私の体調が悪かったとて、参加した方がベストなのだ。
「よし、分かった。では2人とも出席ということで手配しておく。くれぐれも無理はしないようにな。」
「はーーい」
じゃあ後20分少し横になるかー。
しかし、私の中に隠されているかもしれない眠れる力的なやつねー。私に本当にそんな力があれば確かにいいんだけど。果たして本当にそんなものが隠されているのだろうか。そして隠されているとするのであれば誰がそれを封印しているのか?
更にそもそもなんのために私にそのような魔法をかけたのか?もう一度魔法をかけられた経験が無いか思い返してみるが、全くもってそのような記憶は無い。だが、百鬼先生の考察はかなり辻褄が合う。一体私の体はどうなっているのだろうか。
考えているとまたショートしそうになるので、私は考えを一旦止めた。今は次の魔獣討伐訓練のために頭を休ませよう。