3章I 『治癒』
「姫野愛莉……。国魔連の犬が……」
あたしは建物に映し出されたピンク髪の人間を強い視線で睨みつける。
「しずく怖いよぉ〜?可愛い顔が台無しだって〜」
「うざい」
あたしは綾音の顔面に軽めのグーパンをぶち当てる。
「い、いったい!!酷いよぅ!親父にもぶたれたことないのに!!あやねのお父さん2歳の頃に出ていっちゃったからガチでないんだけどぉ」
「微妙に突っ込みにくいのやめてくれない……?」
「にゃはは。でもさぁ、睨みつけるんだったら、その偽物じゃなくて、あそこにいる本物でも睨みつけたらいいんじゃないのぉ?」
「は」
綾音が大通りの奥の方を指さしながら言う。本物って一体……?
「まさか…。あれが本物の姫野愛莉?」
多数の軍人をボディガードとして引き連れ、向こうからこちらへ歩いてくるピンク髪の女の人。建物に映し出されている人間と全く同じ、寸分違わない。
「初めて見た……」
「あれあれ?怖気付いちゃった感じですかぁ?もっと強気に睨みつけてくださいよ、しずくさーん」
「うざい」
いや、あれだけ文句は言ってたけれど、あの姫野愛莉ってやつはめちゃくちゃ力が強いって聞くし、周りには軍人も沢山いるし、勝てるわけないって……。
「あ、本物の姫野さんですかぁ?ちょっとお話したいんですけどぉ?」
「何者だ!お前!」
「ちょ、ちょっと綾音!?」
綾音がいきなりあの集団に突っ込んで、姫野愛莉に直接話しかけにいった。メンタル化け物過ぎないか?
「いいじゃないですかぁ。ちょっとくらいお話しましょうよ」
「止まれ!それ以上動くと打つぞ!」
「はいはい。冗談ですってばぁ」
綾音の悪ふざけに対し、軍人も軍人の方でバカ真面目に対応している。多数の武装集団が綾音に対して銃を向けたところで、綾音は両手を上げ、降参の意を示した。
「君は……。あの子と喋っていたようだけれど、知り合いなのかな?」
「えっ、あっ、はい。そうですけどぉ……」
「え?あたし?」
軍人に囲まれている人物があたしの方を指さして、綾音に問いかける。
「ふむ。ならば丁度いい。ここに来た本来の目的は違うが、別の私の目的も遂行しよう。管理番号179番。夢見しずくと言ったね?」
「は、はい。そうですけど……」
「ふむ。2人きり……。いや、そこの緑髪の子も一緒に来てもらおう。3人で話がしたい。お前らは下がっていろ」
「はっ!!」
「え、ちょっ3人で話ってそんないきなり」
「横着してる暇は無い。こっちに来てくれ」
「ひゃぁ〜」
姫野愛莉に連れられるまま、私は近くの建物と建物の間の路地裏へと連れていかれる。
「ちょっ、一体なんなんですか」
「よし、この辺でいいかな。さて、しずくちゃん」
「は、はい」
「私と手を組まない〜?」
「……へ?」
まず、姫野愛莉が急に腑抜けた感じの声になったことにびっくりした。さっきまでの真面目感のある雰囲気は何処へ……。そして、何?手を組むって言った??
「手を組むってぇ結構急だねぇ?どういうことかなぁ?」
「どうもこうもないな〜。私は国魔連に居たくているわけじゃないんだよ〜。だから、君たちに協力して欲しいの」
「で、でもなんであたし達なんですか。あたしなんて魔法も使えない冤罪で捕まってる人間なのに」
「だからだよ」
「!」
魔法が使えない。だから、あたしに声をかけた。どういうこと?
「私はこれまで魔法が使えない魔法少女を2人見てきた。その2人とも、時間が経つと究極的に強い魔法を使えるようになっていたんだ。だから、あなたもその一員かもしれないと思ってね〜」
「魔法が使えない魔法少女があたしの他にもいるんですか!?」
「そうなの〜。だから、あなたが魔法が使えないと聞いて、接近のチャンスを伺っていたんだけれど、中々タイミングが合わなくてね。今日ようやく会えたって感じだね〜」
「なるほどぉ。それで?そんなことあやねも聞いていいわけぇ?」
「もちろん。綾音さんにも協力してもらいたいんだ〜。綾音さんの魔法はおそらくだけど、私が今まで見た中でもかなり最強格。ぜひ仲間になってほしいんだ〜」
「ふぅーん。あやねを見込んでってわけね。なら協力してもいいかなぁ」
綾音の魔法が最強格……?あたし人の魔法とか興味無いから、全然知らないんだけど、一体どんな魔法なんだろう。……ってそんなことより!
「ま、待ってよ綾音!こいつはこれでもこのクソみたいな地獄を管理している張本人なんだよ?罠って可能性だってあるし」
「そっか〜。信用してもらえないかぁ。まぁそうだよね。じゃああれを見て?」
「あれ?」
姫野愛莉が指さした先には、さっきこいつのことを守っていた軍人の集団が微動だにせず立っていた。
「ふふっ」
パチンッ!
姫野愛莉が顔の隣で指を大きく鳴らす。その瞬間だった。
「!!?」
軍人たちの体が木っ端微塵に吹き飛んだ。そこにあった人影は完全に消え、血飛沫が舞う。周りにいた通行人は悲鳴をあげ、みな驚いてその場から逃げ出す。
「あららぁ。これは一体どういうことなのかなぁ?」
「これで私は国魔連側からしたら謀反を起こしたことになる。どう?信用に値するとは思わない〜?」
「い、いや……。」
信用できるとか、信用できないとか。そういう話では全くない。今目の前で起こった出来事がそんな単純な二元論に帰着できるほどあたしの脳内は単純じゃない。
「し、信用出来るわけないでしょ!!そ、そんな簡単に人を殺しちゃうよな奴なんて!!」
「あぁそう。じゃあしょうがないね。2人とも動くな」
「!!」
な、なんだ。体が動かなくなる。そのまま、姫野愛莉が私の体を押し倒し、馬乗りになってくる。身動きが取れない。起き上がろうと抵抗することすら出来ない。
「な、何するの!!」
「え〜。だって、私が興味あるのは別にあなた本体じゃないの。あなたの魔法が使えないという体の構造自体に興味がある。だからさ、手始めに脳みそだけでも持って帰れば研究材料になるよね〜?」
「こいつ……!」
こいつ、最初から仲間になんてなる気無かったな!!あたしを研究材料として利用することを第1に考えていたんだ!
「さーて、内臓は出来るだけ傷つけたくないよね〜。目印でも付けようかな」
姫野愛莉は自分の服のポケットからマッキーを取り出し、それを私の顔に向ける。そして、あたしの顔の外周を半周させた。
「あはは〜。この線に沿って皮膚を切り取れば、綺麗に脳みそを取り出せるよね〜。」
さらに、こいつは大ぶりのナイフを取りだして、あたしの方へ向ける。これは……。
「んーーー!!!んぅ!!!!」
口を手で塞がれて声が出ない。ころ、殺される!!このままだと!!!
「んぐぅ!!!!」
頭部に刃物が刺さり激しい痛みが即座に脳へと伝わる。あたしは思わず目を瞑り、数秒の間必死に抵抗する。
「あ、あれ…?」
必死にもがいてるうちに、上に馬乗りになっている姫野愛莉の体重が後ろ寄りになった。そのタイミングを見計らって、あたしは彼女を跳ね除け距離を取る。
「はぁ……はぁ………、って。え、なんで?」
あたしは傷を受けたであろう頭の部分を指でなぞる。が、そこには血が流れている様子はなく、なんなら傷一つなかった。嘘だ。そんなことはありえない。あたしはさっき絶対に痛みを自分の体に感じていたはずだ。
そして、その動揺は向こうも同じ様子の様だ。
「ふーん。一体どういうカラクリなのかな?あなたは魔法が使えないって聞いていたし、魔法がそもそも使えていたとしても、毎朝打っている薬の影響で魔法を行使することは出来ないはずだけど?」
「そんなこと、こっちが知りたいね。あたしはてっきり幻覚を見せてきたもんだと思ってたんだけど、どうやら違うらしいしね」
「うーん。少しイレギュラーが多すぎるかな。ここは一旦引こう。魔法が使えたかもしれない魔法少女が居るということはさすがに上に報告せざるを得ないしね。まぁ部下を皆殺しにして相当怒られるだろうけど仕方ないか〜」
「お、おい待て!」
あたしが静止する間もなく、一瞬で彼女は姿を消した。移動力もあるってのかあいつの魔法は…。
「しずく大丈夫だったぁ?怖かったねぇ」
「現実的には大丈夫なんだけど、あたしも自分の体に何が起きてるのかあまり理解してない。なんで傷が治ったのか……」
「何でだろうねぇ。回復系の魔法がしずくに行使されたとかぁ?」
「どうだろ?私の知り合いで回復系の魔法を持ってる人なんて知らないし、それに、魔法が使えたところで……」
「ううん!あやねは1人知ってるよぉ。その子の所に行ってみない?」
「うーん」
いや別に綾音の知り合いだからといってあたしを助けるような義理はないだろうし、全く当てにならない可能性の方が高いけど、何にも当たれないよりはマシか。
「そうだね、行ってみようか」
「わーい!久しぶりにゆなっちと会うなぁ。楽しみ」
あたし達はそのゆなっちという人物に会ってみることにした。




