1章IV 『煉獄』
一悶着あったが、3,4限は体育だ。教室で体操着に着替えている。というかおかしくないか?5,6限は魔獣討伐訓練で体を動かすのになんで3,4限も体育なんだ。4/6で体を動かすカリキュラムとか言うの本当に滅ぶべき。
「さーよちん!まだ〜?」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
制服から体操服へ着替える最中に、急に後ろから私の体に腕を回される。その腕は外部に晒されている私の胸にあたり、驚いた私は公害レベルの大声を出してしまった。
「な、なんだよびっくりしたな〜急に大声出してー」
「き、急なのはそっちでしょ!?む、胸を急に後ろから揉むな!」
「胸…?はてーどれのことを言ってるのかなー?」
「こ、こいつ……」
分かってますよ、私が貧相な体をしてる事くらい…いいよなー、愛莉はナイスバディで、Eカップくらいあるんでしょう?はぁぁぁ、私はまだスポブラやキャミソールで十分ですよーだ。
「こら!そこの2人!品位のない行動はやめなさい!風紀に関わります!」
風紀委員()に見つかった。確かにこのやり取りが風紀を乱しているかいないかでいえば、乱している方だろう。なんの反論もできない。
「うわー、凛花に見つかっちゃった〜、凛花着替えるの早いよねー。早すぎて凛花が服脱いでるとこ見れたことないや〜」
愛莉は素行が悪いことからか、よく涼風さんからは目をつけられている。その結果愛莉は勝手に下の名前で呼び捨てにするほど仲がいいと思っているらしい。多分涼風さんは厄介なクラスメイトと思ってるだけだろうけど。
「当たり前でしょ!学園で淫らな格好でいる時間は極力短い方がいいに決まってます!だから出来るだけ素早く着替えるべきで…」
「凛花、体操服脱いで」
その場にいた全員の不意を付いたかのように愛莉が発声する。
「!?」
「あーあ、愛莉それはやばいって」
あぁ、さすがにライン超えなんじゃないか…これは。涼風さんご愁傷さまです…。
愛莉の体はピンク色のオーラで覆われていた。ということは『服従』の行使である。
「え?いや!ちょっと待ってえ!?」
可哀想なことに涼風さんの体は彼女の意志とは関係なく彼女の衣を脱ごうとしている。そして露になるのは彼女の華奢な体と綺麗な下着であった。涼風さんの体と顔がみるみると赤くなっていく。動揺の声が大きかったのか、周りで着替えた生徒の視線も涼風さんに集まり、余計に彼女の羞恥心を高めている。
「へー、意外と大人っぽいブラ使ってんじゃん〜どこで買ってんの?それ」
「っっ!!!」
涼風さんが付けていたのは水色の花柄デザインになっている下着だ。上と下でセットになっており、同じ柄が付いている。私が知らないだけでもしかして下着ってこうなってるのが普通なのかな。
「うぅ〜〜〜」
涼風さんは恥辱の心からかもう言葉が声となって出てこない。その場でうずくまって動けなくなってしまう。
「愛莉、可哀想だって、さすがに戻してあげなよ」
「戻すも何も、凛花への命令は体操服を脱ぐことだけだったからもう服従は終わってるはずだよ〜。服じゃなくて体操服に留めてあげた私に感謝してほしいね〜」
「こ、この!!淫乱女…!」
涼風さん、少々頭が真っ白になってしまっているのかな?私の心の中の声よりもお口が悪くなっておいでですよ?
「面白い格好でいらっしゃいますね。涼風さん」
あー、七五三さんまで参戦してきた。めんどいことになりそう。もうこの人たち置いて先に体育館行こうかな。でも先に体育館行ったところで、ちょっと寒い部屋の中で待機させられるだけだしなぁ。なんで5月にまでなってるのに体育館だけ異常に寒いんだろう。あそこって万年冷房とか付いてるのかな。
「柚葉まで…!」
「涼風さんにはお似合いの格好だと思いますよ?」
委員長が涼風さんに挑発をする。売り文句だけが飛び交っている。涼風さんに買い文句を言う気力など無さそうだ。
「1人だけ安全圏から…ムカつく!分解!」
涼風さんの怒りゲージが満タンになってしまったのか、涼風さんが委員長の方を向いてこう叫ぶ。
青いオーラを纏った涼風さんが魔法を行使したのだ。
「ですから私にその魔法は無力………っっ!」
七五三さんが途端に紅葉した。そりゃそうだ。だって今涼風さんの魔法の行使で七五三さんの衣類全部繊維に分解されちゃったもん。あぁ、糸くずとなった委員長の体操服がヒラヒラと彼女の体を舞っていく。スタイルいいな…委員長。
「ちょ、ちょっとお待ちください!い、今魔法を」
「はは!そんだけ恥ずかしがってたらコンセントレーション出来ないね!?その魔法はかなりの集中力がいるんだっけ?」
委員長ターンエンド、涼風さんのターンだ。今度は委員長に対して煽りをかましていく。もう他のクラスメイトは時間が危ういので体育館に向かっている人が多く、被害でいえば委員長の方が小さいだろうけど。私たちしか見てないし。
「おい凛花〜パンツまで分解するのはナシだろー、全裸ってちょっと着てるだけの姿よりエロくないんだぞー、もう少し様式美ってやつをだなー」
「うるさい!これは柚葉に屈辱を味合わせるだけにやった行為だ!そんなものは求めてない!」
涼風さんと愛莉が言い合いをする。いやまぁ確かに涼風さんの方が格好的にはえっちかもしれない…愛莉の気持ちがわかってしまった私を少し殴りたい気分だ。
「あ、あの。皆さんすいません、えっと…ちょっと離れていただけないかと……」
「あー、私が壁になっておくんでちょっと集中力を高めといてください。元はと言えばうちの愛莉が原因なので」
流石にこの状態で私が助け舟を出さないわけには行かない。委員長にも悪いし。
「ありがとうございます早乙女さん。少しお身体借りますね」
教室の角に七五三さんを配置し、私がその前に立ち塞がる。これで委員長も集中力が維持できて、魔法を行使出来るようになるだろう。
「は〜面白かった。凛花ももう体育館行ったしうちらも行こ〜」
「分かった。委員長が準備できたら私たちも行こ」
愛莉が体育館に行こうと誘ってきた。もう授業開始まで1分半くらいしかない。さすがに行かないとまずいな。まぁ体育の先生も百鬼先生だからちょっと謝れば許してくれるだろうけど。
「んーー」
な、なんだ。こいつ私のことをずっと凝視して。
「私が命令したらさ〜、紗夜ちんの胸ってもしかして大きくなったりするのかな?」
「!?」
た、確かに。その発想はなかった。無機物にまで命令出来るということはもちろんそういった類の命令もできるわけで…
「やってみるか〜、対象、紗夜ちんの胸。大きくなれ〜」
沈黙。何も起きない間が10秒ほどあった。何も起きない。愛莉の魔法は絶対私の体に行使されているはずなのに。私の体はうんともすんとも言わない。
「な、なんで」
「あはは〜やっぱ無理だったかー。私の魔法もバッタをクリームパンには出来ないように、物理的に不可能なことは出来ないからね〜」
「そんな…私の胸の成長は物理的に不可能…?」
私は体育の前に深い心の傷を負ってしまった。