3話
教団に疑問の念を抱いているのは、白銀の鎧に身を包んだ騎士。
彼の名はアルベルト・エルフェンリート。
教団の信仰のために生まれ、信仰のために生きてきた男。
そんな彼はあの日、神というものよりも身近にある人間の光を見た。
いつまでたっても終わらぬ争いと汚職。
彼の信念は揺らごうとしていた。
夜の教会。ステンドグラスから差し込む月光は、最奥の女神像を仄かに照らしている。
薄暗い講堂の中には二人の男が何やら話をしていた。
「ガキを逃がしたようだな、アルベルト」
「大司教様、あの森は魔王城からも近い故、産まれて間もない赤子が生き延びる可能性は限りなく低いと思われます」
「まぁよい。信託は私が授かることに変わりは無いのだからな。もう下がってよいぞ」
「御意」
大司教から感じる不誠実さを、アルベルトは今更ながら感じ始めていた。
アルベルトが去った少し後の森——
誰にも見つかることのなかった赤子は泣くでもなく、ただじっと森の闇に揺れる影を眺めていた。
その影は次第に赤子に近づいていく。
それに伴って影もその様相を見せ始めた。
『このような場所に何故人間の子供が?』
純白の体毛で身を包んだ獣。
月明かりに照らされて、眩い光を纏いながら姿を現したフェンリル。
この辺りには非常に凶悪な魔物も多いため、苦しみながら死ぬよりも、今ここで楽にした方が赤子の為だと思い、フェンリルは赤子の首よりも大きな爪を細い首元に突き立てる。
赤子は怖がるどころか、フェンリルの爪を力いっぱい握りしめ笑顔を見せた。
その笑顔に、フェンリルは魔王の言葉を思い出す。
大きな爪は赤子の爪ではなく、包んでいた布に引っ掛けた。
そのまま背中に乗せるとフェンリルはどこかに消えていった。
本作を読んでいただいてありがとうございます。
よろしければ、ブックマーク、評価お願いします。
評価は下にある【☆☆☆☆☆】を押していただければできます。