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フェンリルの子  作者: 墨谷トモ
プロローグ
2/4

2話

その日の夜はいつもより月が明るかった。

城の窓から差し込む青白い光は、脇目も振らず玉座へ向かっている。

光に照らされた玉座には魔を統べる王が鎮座していた。


「久しいな。今さら何の用だと言うのだ?」

「そんなこと、聞かなくても分かるんじゃないのか?親父」


明確に口にはしないが、魔族が求めるものはただ一つ。

それをお互いに理解している。

親子であるなら尚更だろう。


「お前にはまだ早い」

「はっ、それは今から分かることだ」

「・・・お前のことだ、力ずくでもここに座ろうとするんだろう。だが、お前にはまだ早い。」

「何回も何回も同じことを・・・」


男は怒りに染まった顔を見せる。

その手からは泥のような黒い固形物・・・といえるのだろうか、どろどろとしたものが溢れでていた。


「そんなものにまで手を出していたのか。堕ちるところまで堕ちたな」

「俺は魔王になる。全ての魔は俺のモノだ」


男が手を振り上げると、黒い物体は魔王目掛けて飛んで行った。


「そんなもの、簡単に防げるぞ」


魔王は右手を掲げバリアを展開する。

しかし、黒い物体はバリアに触れると、たちまち溶かし始めてしまう。

魔王の視界は塞がれ、ついに開けた視界の先には男が迫っていた。

魔王の顔には焦りが見える。


「平和ボケしたあんたの時代もこれで終わりだ!」


男の手が魔王に触れるその時、白い閃光が走る。

魔王の前にいたはずの男の姿はなく、そこには白銀の毛を身に宿したフェンリルが立っていた。


「クソ犬がぁ!」


男は抉られたわき腹を抑えながら立ち上がる。

抑えている手の隙間からは、血が絶えず滴っていた。


「魔王様、ご無事ですか?」

「お前のおかげでなんとか無事だ。油断していた。まさか、あれが憎悪そのものだとはな。」

「俺にこんなことして、ただで済むとは思うなよ!」


先程までの余裕と自信にあふれた態度とは裏腹に、男は焦りと怒りを露にする。


「まだそんな気力が残っているのか」

「・・・ロス、コロス、コロス、コロス、殺す、殺す、殺す!」

「まずい、憎悪に取り込まれ始めている。フェンリル、お前は神獣だ、あれに触れたらひとたまりもない。下がっていろ」


男は既に体の半分を黒い物体で覆われていた。


「我は魔王だぞ。禁忌に触れた存在を律するのも我の役目。実の息子であろうと容赦はせん。あいにく、もう聞こえてはおらんようだがな」


大地が揺れ、大気が呼応する。

それほど強大な魔力が魔王によって集められているのだ。

次の一撃、それで勝負が決まる。

フェンリルは対峙している二人からそう感じていた。


「来い!我が息子よ!我は世界でただ一人、魔を統べる名を冠するもの。今こそその身を賭して力を示さん。天よ、大地よ、この世の全てを構成する魔力よ、ここに集え!貴様が破滅を望むなら、叶えてやろう。無明の牢獄ヴァン・レクス・アビス


既に自我の無くなった男は不敵な笑みを浮かべている。


『先に逝く、お前は急がなくてよい。遠くへ逃げろ』


フェンリルは轟音の鳴り響く城を背に、森の中へと駆けていく。

まるで何かに誘われるように―――。

本作を読んでいただいてありがとうございます。




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