1話
以前投稿していたものに変更点を加えたものになります。
ベースは同じですが、話はガラッと変わっているのでご了承ください。
森の奥深くへと進む、一台の馬車を邪魔するように、雨足はより一層、その強さを増していった。
「もっと速くならないんですか!」
「この雨じゃどうしようもないですよ」
馬車には馭者のほかに男女が一名ずつ。
女の腕の中には生後間もない赤子の姿もあった。
「クソッ!あいつら空飛んでやがる。追いつかれるのも時間の問題だ。この子だけでもどうにかしよう」
「どうにかって・・・どうするんですか」
「・・・・・この森のどこかに隠して置いていく」
「ッ!正気ですか!まだ1歳にもなってないんですよ!」
「このままでもどうせ死ぬんだ!1%でもこの子が生きられる可能性があるならそれに賭ける。」
「だからって・・・」
「頼む、これが俺からの最後のお願いだ」
「最後って・・・あなたがわがまま言ったことなんて、ないじゃない・・・」
「じゃあ、これが一生に一度のお願いになるな」
馬車が止まるまでの短い時間、男女は肩を寄せ合い子供を抱いていた。
女の目からは大きな水滴が一つ、また一つと零れ落ちていく。
「・・・そろそろ止めてくれ」
男女は馬車から降りると、大きな木まで駆け足で向かった。
木の幹にはちょっとした空間があり、そこに子供を隠す。
不思議と大木の周囲だけは雨も止んでおり、月明かりが差し込んでいた。
「助かる・・・わよね」
「あぁ、僕たちの子供なんだ。絶対生き残るさ」
「見つけたぞ、貴様ら」
ついに追っ手に追いつかれてしまった。
追っ手は白銀の鎧を身に着け、輝く剣を男女に向ける。
「貴様らの命もここまでだ。大人しく死んでもらおうか」
「僕たちだって無抵抗じゃすまないよ。いくら僕たちが―――生きることにだって執着するのさ。」
「ふっ、ならば最後の悪あがきでもしてみろ」
互いに睨み合い、直後、火花を散らしながら二つの剣が悲鳴を上げる。
白銀の騎士はその大きな剣を器用に振りながら着実に男を追い詰めていった。
「貴様もなかなかやるが・・・私ほどではなかったようだな。最後に聞こう、貴様らの子供はどこに隠した?」
「そんなこと・・・言うわけないだろ?」
「それは残念だ」
容赦なく騎士の剣は男の首を落とした。
「子供もそう遠くにはいるまい、お前たちは周囲を捜索してくれ」
騎士の合図を皮切りに、他の騎士たちは一斉に散らばっていく。
「さて、次は貴様の番だぞ」
「早くしなさい。あの人もいなくなったし、自分の子供のために死ねるのなら本望よ。・・・それに、これがあの子にしてあげられる最後のことだもの」
「強い心をもつ人間だ。惜しいことをしたな。だがこれは決定事項だ、楽に逝くがいい」
月明かり差し込む森の舞台に、再び静寂が訪れる。
白銀の騎士もその場を後にするが、そこには新たな影がうごめいていた。
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