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我らが太古の星シリーズ

作者: 尚文産商堂

プロローグ


病院から見える景色、それが私が知っているすべてだった。

生まれてから、ずっと私はこの病院の同じベッドにいる。

院内学校はあるけど、行ったことはない。

知り合いといえば、この病院の看護師さん達と、お母さん、お父さん、それともう一人だけ……


第1章


「おはよっ」

元気よく、私がいる個室へ入ってくるのは、私の唯一の友人。

鼎昭夫(かなえてるお)は、私と同じ時に、同じ部屋で生まれた人。

だから、私の両親と彼の両親は、とても仲がいい。

その都合で、私は彼と友人になった。

「おはよう」

窓の向こう、ずっと広がっている草原地帯のさらに向こう側に、彼が住んでいる街がある。

電車で1時間から1時間半かけて、毎日会いに来てくれる。

小さい頃は、私と会うためだけに家から抜け出してきたこともあった。

それほどまでに、私に会いに来てくれるのは、とてもうれしい。

「今日の調子はどう?」

高校の制服そのままに、彼は来ていた。

「大丈夫、今日はちょっと調子がいいの」

「そっか」

彼は、ベッドのすぐ横に椅子を持ってきて、そこに座った。

「そうそう、実はこんなことがあってな……」

彼は、そうしてから実に楽しそうに、学校での出来事を教えてくれる。

殆ど日課になりつつある。

そんな彼を見ていると、わたしまで本当に学校に通っているような気分になるから、とても不思議。

話を聞いているうちに私は、ふと気になったことを聞いてみた。

話が一瞬途切れる間に、言った。

「ねえ、あなたにとって、私はどう見えてるの?」

「なんだよ突然」

「いいから、答えてよ」

気軽に聞いてみた。

彼は、彼なりにじっくりと考えて答えた。

「そーだな、いい友人って言ったところか。まあ、そのあたりだな」

「その辺りって……」

「ああ、そうそう。当たりで思い出したんだけど……」

こんな感じで、1日は過ぎて行った。


看護師さんが病室へ入ってくるころになると、ネタも尽き、面会時間も終わりに近づく。

「そろそろだね」

「また明日も来てくれるよね」

私は、彼の眼を見て聞く。

そういうと、いつもにっこりとほほ笑んで、彼は言う。

「ああ、当然さ」

看護師と入れ違いに、彼は家路へ就く。

「彼氏?」

看護師は、いつもそう言って茶かす。

「かも……しれないですけど、どうなんでしょうね」

私はそういい返しながらも、今日聞いてみたことをずっと考えてみる。

友人として、彼はずっと一緒にいてくれる。

でも、そんな彼を好きになりつつある私もいる。

もう、15歳を過ぎ、彼も高校生。

好きな人が一人や二人いても不思議じゃない……

その中に、私は入ってるんだろうか……


第2章


翌日、彼が来た時、手に何かを持っていた。

「これって……?」

プレゼント用に丁寧に包装されている箱だった。

「開けてみて」

包装紙を開けたら、ネックレスが入っていた。

「つけてみて」

彼はニッコリ笑って言った。

「『聖女アガタ』のメダルなんだ」

首からぶら下げると、たしかにメダルがついていた。

「胸の病気の守護聖人なんだって。ちょうどいいと思って」

「ありがとう」

私はメダルをやさしく握りながら、彼に行った。

ほのかに、温かさがあった。


翌々日、私が彼といろいろ話をしている時、突然主治医の先生が入ってきた。

「どうしたんですか」

「…先日の検査の結果、手術をすべきだと結論付けました。御両親や、話しておきたい人に、伝えておいてください」

たったそれだけだった。

医者が出ていってから、彼の方を見た。

にこやかに笑っていた。

「大丈夫、ずっと待っててやるよ」

そう言った、何気ない一言に、私は励まされた。


生まれてから、ずっと私は病院にいる。

病名なんて、単なる名称にすぎない。

私が治る方法は手術しかないのだろうか。

本当にそうなのだろうか。


手術のことを両親に話すと、あることを教えてくれた。

「別の方法もあるのよ。手術することには変わらないけどね」

「どんな方法?」

両親は、私が聞こえないように相談すると、言った。

「こんな方法なんだけど……」


彼にそのことを話すと、そのために、来なくなるということはしないといった。

「ロボットやアンドロイドになったとしても、変わりはしないさ。君は君、だろ?」

そう言ってくれて、今では感謝している。


第3章


「アンドロイド化……かなり危険ですよ。技術は確立されているとはいえ、まだ完成とは言えない状態ですから」

「でも、この身体よりかはまし…と思います」

医者に、両親がいる前で聞いてみた。

「御両親は……」

二人とも軽くうなづく。

医者は、深くため息をついて最後にもう一度聞いた。

「では、アンドロイド化をするために必要なことを聞きます。あなたは、その体から離れ、ロボットの体を手に入れることを了承しますか」

「はい」

しっかりと返事をする。

医者は持ってきていたカバンの中から、誓約書を取り出し、私に差し出した。

「ここに、あなたの名前を書いてください」

ペンを借りて、署名欄に名前を書き込む。

誓約書を返すと、両親の方に渡す。

「未成年者なので、保護者の方の署名も必要なんです。どちらかで構いませんので、お願いします」

お父さんが、代表して署名した。

「これでいいですか」

「ええ、結構です」

お父さんが書いた署名を確認してから、誓約書を医者はクリアファイルにしまい込んだ。

「では、1週間後までに準備を整えておきます。それまでに、しておきたいことをできるだけしておいていただけませんか。それと、御両親の方はちょっとこちらへ……」

医者が立ち上がってからすぐに両親が立ち上がる。

3人はそのまま廊下へと去っていった。

入れ替わるように彼が入ってきた。

「やぁ、調子はどう?」

「まあまあ」

彼はダウンジャケットにジーンズ姿でやってきた。

いつの間に冬が来たのかと思わせる。

「これ、プレゼント」

片手に持っていたフルーツ盛り合わせのバスケットを、私のところへ持ってきた。

「ありがと」

いつものように受け取る。

「そうそう、ついこの前こんなのがあってな……」

いつものように彼は高校のことや、家でのことを話してくれた。

その途中で、告白されたということを私に話した。

「…そうなんだ」

ピクンと、胸の一番奥のところが痛みだす。

「ああ、でもな、結局断ったんだ」

「なんで?聞く限りいいような気がするけど」

そう聞くと同時に、次はそれが気持ちい痛さへと変わっていく。

「俺には、もう好きになっちまったやつがいるからさって言ったら、"そう……"って一言だけいいよんの」

「じゃあ、誰が好きなの?」

「…そりゃー……まあ、アレだ」

「アレじゃわからない」

私がわざと膨れて見せると、彼は頭の後ろを軽く触りながら私に言った。

「お前に決まってるだろ」

照れ隠しに笑いだす。

急にそう言われて、何を言い返せばいいのかわからなくなる。

頭が真っ白になるという感覚を、唐突に深く味わうことになった。

口が開いたままで、次の言葉が出てこない。

「だからさ、前にも言っただろ?お前がどうなっても、俺はお前を捨てはしない。そのことを忘れないでくれよ」

彼がそこまで言ったときに、両親が入ってきた。

「…おや、こんにちわ」

「こんにちは」

彼は両親にあいさつをすると、すっくと立ち上がり、私に一言いってから部屋から出て行った。

「じゃ、また」

その背中を追う私の気持ちが妙にドキドキしているのだけを、しっかりと覚えている。


第4章


術日当日となった日、私の新しい体を見せてくれた。

「今の技術ではこれが限度です」

そういう医者は何か残念な顔つきだったが、私が見る限り、今の体となんら変わらないような気がした。

骨格がカーボンでできていたり、皮膚が生身よりも幾分硬いような気がするが、気になるほどではなかった。

「私の体……」

今の体よりもわずかに大きいその体に移るときには、私は意識がない。

「最後に、あなたに紹介しておきたい人がいます…人というべきか、量子コンピューターのTeroさんです」

「初めまして」

なぜここにTeroが出てくるのか、私には意味がわからなかった。

私はTeroのマスターでもないし、母親がその職に就いていると聞いたこともない。

しかし、その疑問はTero自身から語られた言葉によって、はっきりとわかった。

「あなたの体を基にして計算し、この体を作ってみたんだけど、どうかな」

「病気とか骨折とかはしないんですか?」

「けがをしたり、骨格が一部損壊することは、十分にあり得るけど、今のように胸部にがんが宿るようなことはないよ」

最近は仕事も忙しくなりつつあるというのに、こんなこともしていたということは、さらに忙しくなるんじゃないのだろうかと思った。


ロボットの体を作ることは、Teroにとって普通のことらしいが、私から見ればすごいことだった。

「…まず、最後に確認をさせていただきます」

「はい」

「アンドロイド化することに対して、一切異議を唱えませんか」

「はい」

「本事案によって元の肉体は臓器提供用とすることに同意しますか」

「はい」

「遺言書の製作は済ませましたか」

「はい」

「では、この書類に自署をしてください」

私は差し出された書類の頭から最後までを一通り目を通してから、ポールペンで自分の名前を書いた。

「ご両親の連署も必要なので……」

目くばせをしながら、両親に署名させた。

そこまでした時、彼がやってきた。

一瞬気まずい空気が流れたが、それもすぐに消え去った。

「ごめん、高校が長引いちゃって」

「いいの」

医者の一行は、Teroと両親を残して、いったん部屋の外へ出てもらった。

「あのさ、あの時の答え……」

「あの時?」

両親がいるというのに、私に聞いてくる。

でも、この機を逃しては、いう機会もなくなるだろうと思った私は、思い切った。

「うん、大好きだよ」

両親は何を言い出したのか分かっていないようだが、私と彼にはしっかりと分かった。

「さてさて」

私たちに微笑みかけているTeroが私の脈を測っている。

「…あの」

「ああ、基準を測っておかないと、向こうの体の調整も必要だからね」

「はあ……」

私は納得しづらいことだったが、とりあえず後回しにすることにした。

「そうそう、お医者さんに言うの忘れてたんだけど、アンドロイドの体をもったときには、私とじかにつながることができるようになるんだ」

「そうなんですか」

「ええ、ただ、常につながっているわけではないから、好きな時に接続を解除できるし、私から接続をすることもできる。もしもどちらかがどちらかにつなげた時には、その相手はすぐにつながったことが分かるようになっているんだ」

「アンドロイド化している人たちは、私だけじゃないですよね」

私は髪の毛をすいてくれているTeroに聞いた。

「ええ、今では百数十人がアンドロイド化しているわ」

「そのすべての人があなたと一緒になるっていうこと?」

「私とは一緒になることもできるけど、そういうことになったら大変な事態が起きたっていうことになるわね。でも、つながったとしても、他の人にはわからないわ」

「そう」

ホッとして思わず声が漏れる。

「それよりも、きれいに流されたけど、この子と付き合うっていうのは本当なのか?」

お父さんがいつも以上に驚いた声で私に聞いてくる。

「ああそのこと。うんそうだよ」

私はさらっと言った。

「体が変わるといろいろ忘れるかもしれないから、それまでに伝えておきたかったんだ」

「というわけで、これからもよろしくお願いします」

彼が深くお辞儀をした。

「時間ですが……」

医者がそんなタイミングで部屋へと再びはいってきた。


エピローグ


体の取り換え作業自体は3時間ほどで終わった。

その後のリハビリのほうが時間がかかるほどだった。

約1週間にわたり、Teroとつながりながら最初に歩行訓練から始まり、握力の検査、眼力、視力、血流の確認を経て、ようやく退院することができた。

初めてといってもいいぐらいの時間がたったが、ようやく外へ出ることができた。

彼の肩につかまりながらだったが、最初にしては上出来だろう。

「ようやく、この草原の向こうへ行けるんだね」

この周囲の総合病院も兼ねているために、草原地帯の真ん中に作られているこの病院は、彼や私の両親が住んでいる町まで電車で行く必要があった。

「そうだよ」

どこまでも通り抜けていくような青い空に、私を照らしてくれている太陽の光。

とっさに、祝福してくれていると感じた。

「行こうか」

彼が促してくれる。

「うん」

毎週日曜日には、ここでリハビリに来る必要があるが、それも半年ばかりで終わると言われた。

そしたら、彼と一緒にどこまでも行くことができる。

本当の意味でどこまでも……

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