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6.犬のような少年と傭兵

 奴隷とされていた少年はヴィートと言い、私の後ろをついて回る。


「ロマ先輩!」


 ふりふりと揺れる犬耳と尻尾が見える。わんわんと私の名をよく呼ぶこともあって、犬みたいな存在だ。正直鬱陶しいが、他はそのようなことは思わず、未成年であり可愛らしい顔立ちをしていることもあって可愛がられている。


「ロマ先輩がかっこよく助けてくれた姿を見て、僕、先輩のことを尊敬していて、あと……」


 ヴィートはちらちらと私を見て、どこに照れる要素があったのか顔を赤らめる。よく分からない奴だ。


「ふーん。これは……」


 私には読み取れなかったものを読み取ったようで、ベランジェールがにやりと笑う。


「ロマ。ちょっときなさい」

「これから護衛がある」

「まだ時間はあるし、それまでに間に合わせるから」


 部屋に引きずり込まれ、「ああもう、全然手入れをしていないのだから!」と文句を言われつつ、なぜか身なりを整えられる。暗殺業の邪魔にならないよう切ってある短い髪が、半分ほど結われリボンを添えられる。


「はい、完成! いってらっしゃい!」


 前回の奴隷狩りとヴィートがいるための関わりのため、最初のつっかかってきたときと比べると、ベランジェールの私への嫌味が激減した。

 とても馴れ馴れしくなった。今度は部屋から押し出される。


 なぜリボンを、と取ろうとすると、「わあ……!」とヴィートの姿。


「ロマ先輩、素敵です! あの、その……かわいい、です!」

「…………そうか」


 無理に言ってはいないか怪しんだが、本心のようだった。


 かわいいとは無縁の人生だった。かわいさの欠片もないと思うが……ヴィートの目は節穴なのだろう。そうに違いない。


 妙に落ち着かなく、ヴィートの目線にも耐えきれなくなって、ハヴェルの護衛の時間だと向かって逃げる。

 ヴィートは共に同行せず、剣の練習である。習ってきた経験があって才能もあるらしく、直ぐに戦力になれるだろうという話があった。


 私は逃げるのに必死で、ハヴェルの視線からリボンをとるのを忘れていたことに気付く。慌てて外すが「なぜとった?」と手遅れだった。見られたし、話しかけられた。


「別に。ハヴェルには関係ない」


 ふいと顔を背けると、殺気に似た何かを感じ取ってハヴェルを見遣る。眉間に皺を寄せて、私を睨みつけていた。

 ハヴェルはその日の護衛中、機嫌が悪いままだった。他の護衛の騎士から「ロマのせいなんだろう?」と何度か言われる羽目になった。

 私のせいではない。ベランジェールとヴィートのせいだ。



「世界会議に出席するため、暫く留守にします。ハヴェルのことはよろしくお願いしますね」


 第二王女は人を集めてそう言う。

 世界会議とはハヴェルの死に戻りが起こっているにあたって、大陸中の各国が参加して開かれるらしい。


 ハヴェルに一番関わっている王族のため第二王女が開催国まで赴くらしい。第二王女はそこらの大人――ノルベルトなんかよりも大人びていることを知っているが、幼い年齢だ。

 舐められはしないかと思ったが、他の大人でカバーするらしい。老騎士アンドレアスを筆頭についていくという。アンドレアスは第二王女は勿論、皆からの評価が高いため、それなら安心という声があった。


 また、他につれていく人選として、ヴィートと同様に元奴隷で第二王女に拾われた少女、モアもいくらしい。見た目は少年っぽく髪が短い。奴隷狩りにそうされたらしく、かわいそうだという話を聞いた。

 モアの人選はよく分からなかったが、第二王女が連れて行くというならば連れて行くことは決定であり、第二王女の性格からして必要な人選なのだろう。モアにはなにかしら有用な点があるに違いない。

 ただ単に開催国までは遠く寂しいから、年の近いモアをつれていくという理由ではないだろう。



 第二王女たちが世界会議のため出発してからだった。

 変わらずにハヴェルの護衛と首謀者のてがかり探しを行っており、私はヴィートの面倒を見ていたときだった。


「傭兵の様子が変だ」

「そう……ですか?」


 ヴィートはのんきに首を傾げている。

 警備をしている傭兵の空気感が張り詰めている。これまでと比べるならば隙が一切なく、やりすぎなぐらいに周囲を警戒している。


「行くぞ。剣を持ってこい、ヴィート」

「はい」


 ヴィート専用の剣はまだないので、訓練用の刃潰しした剣のことだ。私の強い警戒を感じ取ったようで、ようやく真面目な表情となる。


 交代の時間のために別の傭兵がくる。交代のためと装って他の傭兵と合流していた。そして、担当している警備場所を放棄して移動し始める。

 私以外にも流石に怪訝に思ったのだろう。騎士がどうしたのか問いかけると、返答なく傭兵らは斬りかかった。


「あっ」


 ヴィートが声を漏らす。


「静かにしていろ。傭兵は私たちに気付いていない。このまま機が来るまで、隠れて追う」

「でも、そしたらあの騎士は……」

「ここにいる騎士は無能じゃない」


 圧倒的に傭兵の数が多いが、騎士は一人で立ち回っている。傭兵が人数に怠けて全員で相手にしていないのもあるが、騎士は咄嗟のことにも冷静に対応してみせている。


 そして騎士が異常を叫んで知らせている。応援は直ぐに駆けつけてくる。私が行かなくてもいい。それよりも傭兵は人数の不利は直ぐに覆されることは分かり切っているだろうから、目的を果たそうと動くだろう。


「ついてこい。先回りする」


 ヴィートに言う。

 傭兵は騎士の相手に一人残して、迷いなく走り出している。場所の検討はついているのだろう。


 傭兵の目的は勿論、ハヴェル殺害だろう。

 ルーデの自爆によって二度と死に戻りが起きないよう、対策としてランダムにハヴェルがいる部屋は変えているのだが、警備を任せていたため内情は窺えたはずだ。


 ハヴェルを囮にして、挟み込む。

 現在いるであろう部屋の近くまでは行かせる。部屋の前には護衛の騎士が立っているため、前は任せて私は後ろからやる。


 使用人が傭兵と出くわして悲鳴が聞こえる。傭兵が足を止める音はしないため、使用人は手を掛けられてはいないはずだ。その暇もないはず。


 傭兵は大胆に行動し、ハヴェルを殺そうとしている。私は確実にハヴェルを殺されるのを防ぐのに注力する。使用人は使用人自身で身を守っておけ。


 所定の場所に傭兵よりも先に到着する。ヴィートは遅れてきている。その間に異常には気付いて、部屋の前に警戒して立っている騎士に、ハンドサインで私が背後から挟み込むことを伝えておく。

 ヴィートが息を切らせて、やっと到着する。


「遅い。もう来るぞ」

「は、はいぃ」

「実践の機会だ、やってみろ」

「ぼ、僕の実力で通じますか?」

「知らない」


 傭兵の姿が見えた。まだだ。全員の姿が見えてからだ。気配で探る。最初に見た人数より増えている。また合流して、数は十人か。


 最後尾の傭兵が私に気付き、剣で防ごうとする。だが、遅い。私が短剣を振るう方が早い。


「死ね」


 首を掻き切る。傭兵の一人が絶命し、床に身が落ちる。


「背後から女が――」

「やああああっ!」


 私だけでなく、ヴィートもいる。

 胆力はあるようで、震えながらも真っすぐに剣を振り下ろした。傭兵は剣で防いだところを、私が切っておく。


 刃潰しさせた剣で戦わせているからな。助力はする。


 私が前面に立って複数人の傭兵を相手にし、ヴィートの相手は傭兵一人になるように調節する。これまで一人で暗殺していたのでやりづらい立ち回りだが、一応面倒を任せられているからな。成長に繋がることはやらせる。その余裕があると判断した。


 傭兵を挟み込み、打ち勝てる実力の差があったため、時間はかかるが制圧する。私の方で四人ほど殺したか致命傷だが、生き残っている者もいるため情報源には困らないだろう。多分。

 ……情報源は多い方がいいだろうが、殺しに特化しているのが暗殺者の私だ。生かすのは難しいし、面倒くさかった。


 ヴィートは私が手助けしてやって、二名の傭兵を相手どって生き残った。ただ怪我は負うことになっている。生きているだけいいだろう。私が不慣れだったから、死ぬ可能性はあった。


「よくやれていた」


 床に座り込んでいるヴィートを褒めていたら、私に近づいてきたのはハヴェルだった。

 部屋の前に騎士は立っていたが、その部屋でなく隣の部屋から出てきていた。騒ぎを聞きつけ、隣の部屋に移っていたのだろう。そして騎士は敵を欺くために、元いた部屋の前に立っていた。


 ハヴェルが掠れた声で言う。


「怪我をしている」

「殆どが返り血だ」


 多少の怪我は負ったが、動くのには支障はない。


「手当をしてこい」

「分かった」


 言われなくともするが、素直に返答しておく。なんとなく捻くれたことは言えなかった。


 ヴィートと共に手当をしに行く。その前に「がんばりましたよ、ロマ先輩!」と抱き着かれたので、引きはがすのが大変だった。


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