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5.屋敷での爆発

 ハヴェルを護衛していると、報告が上げられてくる。不審な動きをしていた使用人がいたため問い詰めると、前回の死に戻りで件の女との接触があり、屋敷を放火しないと殺すと脅されたと白状したらしい。


「お許しください! 前回の時戻りでは決して放火はしていないのです! ただ脅されただけで……」


 未遂ということだが、どんな裁きを受けるか震える使用人が連れて行かれる前、私を睨みつけてきたのが印象的だった。


 私は裁きを受けていないからな。見過ごされている。

 母を治療する対価はあるが、このように身を粉にしてハヴェルを守ることが償いだろうか。


 この使用人のことが知られたためか、その後脅されたと名乗り出る使用人が二人いた。複数人いたことで、屋敷内は警戒を強めて緊張で張りつめる。


 その中、ハヴェルとノルベルトは呑気なもので、他愛のない話をしている。


「俺さー、傭兵だろ? でも仕事としてじゃなくてさ、親友のためにこうして駆けつけたってわけ。どう、見惚れるだろ」

「そうかもな」

「もっといい反応しろよなー。この親友魂になんか感じてさ」

「こいと言っていないし、一人増えたところでそう変わらん」

「そりゃ騎士団がきてて、俺一人の戦力じゃそうだけどさあ。酷くね? 俺だけじゃなくてロマにも当てはまるからな」

「……」

「おい、困ったらだんまりか! 俺を雑に扱うからそうなるんだよ!」

「うるさい」

「あぶなっ!? お前が殴るとまじでしゃれにならないからやめろって!」


 とてもうるさかった。主にノルベルトが。

 騒ぎ立てるのが性分なのだろうか。



 女の襲撃は直ぐには行われなかった。一日二日経てど異常はない。頑固な警戒に臆してもう襲撃は行われない。そう緊張が緩んだ頃合いだった。


「侵入者です!」


 魔法を使うことからあの女であることは確実だった。後を追われながらも火を撒き散らしながら逃げているらしく、窓から外を見ると赤く照らされている。深夜のことだった。

 寝ていた者は騒ぎで異常を感じ取って勝手に起きてくる。

 ハヴェルと完全に人数が揃った護衛が部屋に集う。火事で逃げるには屋敷自体は燃えておらず、外の庭などが燃えている。


 警告はあった。


「侵入者は近くまで来ており、ッなにか投げ―――」


 ガシャンと窓ガラスが割れた。投げ込まれたそれは赤く発光する。

 誰かが叫んだ。


「伏せろ!」


 轟音と熱が身を襲った。私が助かったのは騎士が身をもって守ったからだ。顔だけは知っているだけの、特に話したこともない騎士だった。


 私なんかを守って倒れているなんて愚かだ。


 守られたことに軽く動揺するが、それどころではない。部屋がそこかしこで燃えている。まだ燃えかけで問題ない。ハヴェルは騎士に守られて無事。部屋にいた半数は突然の爆発にやられて倒れ伏している。駆け寄って無事を助ける者。私と同様に警戒する者。それが正しい。


「来る!」


 女は窓から侵入した。なぜか女の身は焼け爛れているが、なぜかを考えている場合ではない。


「死ね、英雄!」


 女自身が赤く発光する。再度の、だが比較にならない爆音と熱。


 記憶はそこまでだった。







「今回は寝過ごしたか」


 宿屋で起きたときは、もう夜明けだった。

 支度をして屋敷に向かう。騎士は先に到着していた。あの女は自爆して、部屋にいた者は全滅。死に戻りが起こったらしい。


 手段は選ばない敵らしい。まるで死兵だ。


 前回と同じように私はハヴェルの護衛と展開は進んだが、女の投擲する爆発物―――魔法でなく魔道具で自爆を警戒して警備が改められる。

 女は同じように屋敷を襲撃したが、三度目はなかった。騎士に捕らえられたところを自爆して、女の死が確認される。


 女自身は焼けてなくなってしまったが、女が身を潜めていたとされる場所を特定はできた。次回はそう易々と死に戻りを起こさせるつもりはない。

 偽命だろう使っていた名前をそのまま、女はルーデと呼ぶことになった。


 *



 ルーデの襲撃で一段落ついたことで、ハヴェルの護衛をしつつ、第二王女は次の方針を決めた。


「仲間を増やしましょう」


 ということである。


「第二騎士団とノルベルト、ロマだけでは人手が足りません。また、動ける範囲を広げ、受け身になり続けないようにしなければなりません」


 ルーデ一人に散々いいようにされたことだろう。

 ルーデは死んだが、首謀者は生きているわけで、いくらでも実行犯は雇える。襲撃は繰り返されると想定し、受け身ばかりでなく首謀者を探していきたい考えだった。


 首謀者に関してはルーデだけでなく私の方からでも辿れる訳で、ハヴェルを殺す依頼をした雇い主とやりとりしたであろう仲介人が情報源だ。

 だが、仲介人はとっくに逃げ出してしまっていた。私がルーデの襲撃のため警戒に集中しているときにだ。裏社会に通じており、やましいことしかないからな。情報を絞り取られ、そのまま掴まってしまう可能性が高いので仲介人としては正解だろう。

 次があるのならば、死に戻りがあって直ぐに捕まえに行くのがよさそうだ。それでも捕まえられる確率は低いだろうが。



 話は戻り、仲間増やしについてである。

 候補としては、ハヴェルの親友として身を案じて駆けつけてきたノルベルトが傭兵であることから、傭兵の名が上がるのは自然だった。


 ノルベルトを通じて傭兵に声をかけていくと、安定してそこそこの収入を得られる条件であるからか、拒否する者は少なかった。

 ただ信用は低いので、ハヴェルから離れた位置の警備をさせることになる。そして、手の余った騎士が首謀者の手がかりを探していくことになる。


 その際、私のいた裏社会を切り崩すことになっていった。手がかりを探している内に、騎士には見逃せない悪があった。


 検挙していくことで再度人手が足りなくなる状況となった。本末転倒である。

 だが、裏社会の人間も易々とやられる訳もなく、迂闊な者や目に余る、やりすぎていた者が捕まっていった。

 後者に関しては、私が裏社会に通じていたということで話を聞かされていたことから、情報を売っておいた。全ての情報は渡していない。報復が恐いからな。


 裏社会に深入りするな、と助言していたためか、騎士はできる範囲で手を広げすぎることはなかった。

 ただ国で禁止されている奴隷狩りだけは、本腰を入れて検挙することになる。私まで駆り出された。


「なんでお前まで……」


 自己紹介の際、私につっかかってきたヨルクに言われる。

 言われてきただけなのだから仕方ないだろう。第二王女に言え。


「ヨルク、そんなこと言わない。この機会に仲良くなってくださいって、キャリー様に言われているでしょう」


 ヨルクの幼馴染のベランジェールはそう言うが、私を見る眼差しはその気なしだ。


 やいのやいの言われつつ、奴隷狩りの捕縛をしていく。戦闘が起こるも怪我人が出るだけで、第二騎士団は優秀だった。次々に捕縛していく。


「これは酷いな……」


 奴隷とされていた人を見て、ヨルクは呟く。

 碌な環境ではないため、牢にいれられた殆どが身動きなくぐったりとしている。既に死んでいそうな人間もいた。


 直ぐに救助に移り、なぜか私も手伝うことになった。捕縛した奴隷狩りをつれていく方でいいのだが。


「なんでもやる!」


 ベランジェールに叱咤されつつ、受け取った鍵で牢を開錠していく。

 助けた内の一人の十四歳ほどの少年が元気なものだった。開錠していく私の後ろをとことこついて回り、隠れていた奴隷狩りを倒して捕縛していると「あなたみたいになりたいです!」と瞳を輝かせながら言われる。


「あなたみたいなのでも懐かれるものね」


 ベランジェールに軽々しく「面倒でも見てあげたら?」と言われる。間違いなく冗談だった。

 まさか第二王女が許可を出して、まだ未成年の少年を雇い入れて仲間し、私が面倒を見る羽目になるとは思わなかった。


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