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2.紹介とおさらい

 今度はハヴェルを殺すのでなく生かすことに費やすことになった。

 文字にすると矛盾した行動しているのがよく分かるが、母が治療され生きたので成し遂げなければならない。それが報酬の対価というもので、おそらく私一人が仲間入りしたところで何度も死に戻りは起こり、母を何度も治療してもらわないといけなくなるから。


 といっても、既に前途多難だ。

 私が殺しを生業にしてきたことを知っているようで、ハヴェルを生かしていくための仲間からは、厳しい視線を向けられている。拘束などされていないから、不安なのだろう。私が何かしないか。


「現状は理解しているつもりだ」


 私が信用ならない。

 ハヴェルを何度も殺してみせた能力を見込まれて、味方に採用されただけだ。


 信用ならないならそれでいい。私もそう思われていることを考慮して行動する。

 複数で行動するのは私の能力的にも向いていないため、単独行動がいいだろう。


 仲間に見られている中、一人でリーダーと思わしき人――王女の元まで進んでいく。


「困るんだよ。なんのための顔合わせだって」


 肩に腕をおかれるのは、わざと避けなかった。今は無難に立ち振る舞った方がいい。


「誰だ?」

「俺はノルベルト。あいつ――ハヴェルの親友をやってる。これからよろしくな、ロマちゃん」

「ロマでいい。……鳥肌が立つ」


 ちゃんづけなんて人生で一度もない。実際、鳥肌が立っていた。


「じゃあロマ。せっかくハヴェルを守り通すため、一致団結していくんだ。仲良くしようぜ」

「仲良くする必要があるか?」

「不穏な空気は諍いの元だ。前の居所とここは違うんだぜ」

「この場にいる者全員が私のことを知っているのだろう。ならなおさら仲良くなどできないはずだ」


 当然の帰結をばっさりと言い放つと、「俺はっ」と新たに名乗り出る若い騎士がいた。


「……ヨルクだ。キャリー様の騎士をしている。俺は、せめて謝意を見せてほしい。そんな態度では一緒にやっていけない」

「ベランジェールよ。同じくキャリー様の騎士をしているわ。私もヨルクとは同意見。貴方がなぜ手を汚すことになったのか、生きるためと母の治療費を稼ぐためと経緯は聞いているけど、罪悪感が感じられない」


 お互い感じている。違う世界に住む者だと。

 なんと輝かしい理由で、謝意を見せろというものだ。


「心の籠っていない謝罪がほしいか?」


 拒絶すると、両者は驚愕の表情を見せる。口を開ける姿は揃っていて間抜けだ。


 この場面、味方のいない私が歩み寄らなければならないのだろう。相手もそう望んでいる。

 だが、変われるものか。裏社会でこの年まで燻ってきたのだ。性根など簡単に変えられない。


「私は謝意を持つ必要性を感じていない」


 私が殺しで一日一日を生き残ってきて、英雄殺しの高い報酬で母を治療せんとした。殺しの手段は悪と分かっているが、その手段を用いてきたことに反省はしていない。

 裏社会で生き残った自負がある。


 代わりに正直にものは話す。自分の芯をしっかりと持ち変わらないが、相手を否定しない。

 こうして心に決めておく



 私の内心はともかく、相手には馬鹿にされたように感じているらしい。

 緊迫した空気が流れる。そのときの立ち振る舞いからして、若いが男女とも騎士である以上やり手と感じた。ただ精神的には未熟で、一発触発になりそうだった。


「そこまでです。身内同士でやりあうことを私は望みません」


 第二王女のキャリーがそういえば「申し訳ございません!」と直立不動となる。

 立派に飼いならされている。そう思っていると、じろりと男女に睨まれた。息ぴったりである。


「ロマ」

「……」

「悪意がないのは分かりますが、言い方に気をつけなさい」

「了解」


 キャリーの幼い見た目で落ち着いて年上の騎士を従えているため、違和感が凄い。王族の言葉なので、大人しく了承しておく。


「いいですか、ロマは英雄ハヴェルを五度も殺しているのです。その強さに敬意をもって接するように」

「はっ」


 その後は簡単に陣営の自己紹介を受ける。

 人が多すぎたため、主要な人物と印象に残った騎士の男女は覚えておく。


 魔法使いはシャントルとペペの二名いて、風と雷の属性を扱えるらしい。

 キャリーの一番の側に控えている老騎士アンドレアスは格段の強さを持っているのを感じた。

 ノルベルトだけはキャリーの騎士でなく、ハヴェルの親友ということで特殊な立ち位置だ。


「俺は傭兵で、ハヴェルは志願兵だった。戦場で出会った縁だが、親友になったからにはハヴェルを守らなきゃだろ? だから騎士たちに混ざって、ここにいるんだ」


 本人も特殊な立場を自覚して、キャリー陣営に属しているようだった。


 *



「これより作戦会議を行います」


 キャリーの号令を元に始まる。

 私がいるからか、丁寧なおさらいからだった。ある騎士が説明する。


 ハヴェルは私による暗殺で五回、馬車で移動中のところを火魔法の襲撃で一回、目撃者はいないがおそらく夜中の暗殺で一回、再度馬車で移動中の火魔法での襲撃で一回、合計八回の死で、七回の死に戻りが起こっている。

 五度殺した内容を確認されたので、簡潔にハヴェルの屋敷内、当人が寝ているところを殺したと説明する。何とも言えない表情が並んだ。


「ハヴェル様が殺されたことは使用人の証言で疑惑に浮かんでいました。メイドのハヴェル様の寝室から何かが出ていったという証言と、執事のハヴェル様が死んでいるという証言です。どちらも五度目の死のことで六度目の死が同様に起こらなかったことから直ぐに確信とはなりませんでしたが、火事で死亡したことで時戻りが起こる時間と照らし合わせてハヴェル様の死が起こっていて原因と特定しました。ハヴェル様本人が唯一時戻りの記憶がないと確認がとれていたこともあります」


 五度目の夜はハヴェルが何度繰り返しても軽々と殺されていたこともあっておかしいと動揺していたから、メイドの目撃者が出てしまったのだろう。暗殺者の身としては失態だ。いついかなる時も冷静でいるようにと反省する。


七回目と八回目の死については、ハヴェルを守る態勢が整っていない隙をつかれてらしい。馬車での二回の焼死は同じ手口であるから、同一犯と見ているという。


「ハヴェル様の死によって時が戻る理由は不明です。死んでから時が巻き戻るまでに一定の時間がありますが、正確な時間までは測れていません」


 話は次々に進んでいくが、気になる点はこの場にいるハヴェルのことだろう。


 私がキャリー陣営について紹介されているときからずっといる、というかハヴェルの屋敷でずっと話はされているのでいて当然ともいえる。

 自身が何度も死んで、時が巻き戻っているとは説明されているのだろうが、こうも死んだ詳細を聞かされて、何を思っているのだろうか。お喋りな性分でないのは殺す前の事前調査で知っているが、ひたすら沈黙し続けているので何を考えているのか分からない恐さがある。

 あとそれ以外にも、私を時々睨んでくる。五度も殺したことを恨んでいるのだろうか。睨まれる程度で殺気はないことから、仕方のないことと割り切っておく。


 ハヴェルが死に戻りとなる当の本人なので、何を考えているのか分からなくとも会議から省くことはできない。詳細は知っておいた方がいい。

 ということで、ハヴェルの反応は関係なく、会議は進んでいく。


「首謀者は同一か、複数かは不明ですが、今回もハヴェル様の命を狙う者は存在します。時戻りが知られた現状でも変わらない相手です。我々がその襲撃をとめなければなりません。この度国王様から直々に時戻りの原因究明・改善を任命された第二騎士団は、キャリー様のご主導の元、襲撃を阻止しハヴェル様の死に戻りが起こらないようにしなければならないのです」


 長々とした説明を一区切り終えた騎士は、満足で誇らし気な表情を隠せていなかった。


「次はどのような事態が起こりえるか、そのためにどのように対応すべきか――」


 まだ長々とした話し合いが続く、結果どのように行動するか命令だけ聞きたいものだと考えていたときだった。


 遠くの方から騒ぎが聞こえる。耳の良いものは感じ取って、様子をみてこようとする。その前に使用人が知らせを届けにきた。


「火事です! 使用人の通行口から勢いよく火が回っています!」


 敵の行動が早い。いや、私たちが遅いのか。私の救助から紹介、作戦会議を悠長にしていた。いつでもしかけるタイミングがあった。


 ハヴェルは迷わずに駆けだした。自身の住まう屋敷だから、どこに向かえばいいか分かっているのだろう。


「避難・救助を優先し、一部の騎士で犯人捜索に向かう! ハヴェル様に遅れるな!」

「はっ!」


 老騎士アンドレアスが指揮し、選抜する。アンドレアス自身はキャリーの護衛に回るらしい。


「私はどうすればいい」


 勝手に動いてもいいが、アンドレアスに聞いておく。


「犯人捜索だ。自由に探せ」

「分かった」


 騎士と連携なんて現状、取れるわけがないのでいい命令だ。

 好きに動ける。


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