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主人公だけが忘れる死に戻り  作者: 嘆き雀


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19.出国

「なぜ私なんだ」


 なぜハヴェルは私に好意を抱く。


「さあ?」


 第二王女はおざなりなことを言う。

 今一番の深刻な悩みで、死に戻りに直接関係するハヴェルのことだからもっと真剣に考えてほしい。


「私よりも貴方の方が詳しいでしょうに。本人に聞いたことはないのですか?」

「聞く理由がなかった」

「本当に人に興味がないですね」


 同じ人間かと冷めた目で見られる。


「これまでは聞く理由がなかったんだ! あからさまに好ましい態度をとられたときでさえ、別の関係を求められなかった!」

「だからといって、普通は何かしら気になるものでしょう。殿方意見としてアンドレアス、どう思いますか?」

「私、ですか」


 老騎士アンドレアスは護衛として同部屋に静かに控えていた。


「このようなお年寄りの意見ではありますが……好んでいる相手には興味を持ってもらいたいものでしょう」

「ほらみなさい」


 第二王女は得意げに言う。そのような姿を見ると、年相応だと感じる。

 王族とはいえ、第二王女は大人びすぎているからな。そんな自身より年下相手に言われていると再認識し、少しイラっとする。


「全く貴方がそんな調子でいるから、どうせこの時戻り(物語)は終わらないのです」

「どういうことだ」

「何度時戻りが起きても、英雄(主人公)が好む相手は変わらずロマなのです。ヒロインとして立ち振る舞ってくれたら、すんなりと幕引きになりそうですのに」

「あいにく私は――」

「暗殺者なのでしょう?」

「そうだ」


 ベランジェールと違って第二王女は私を理解しているため、話が通じてやりやすい。

 楽な反面、それに甘え切ってしまっていいのだろうか。涙ぐむベランジェールを思い出す。


 第二王女は私の悩みに構わず、命じる。


「ヒロインを望まないのならトゥーアに行きなさい。ハヴェルの護衛をやめて一切の情報を漏らさないようにし、首謀者を見つけ出しなさい」



 *



 以前仲介人のサッロから情報を得ていたことと魔法大国で有名なことから、トゥーアの名は耳馴染みがある。火や土、閃光と種類も豊富に襲撃に使用された魔道具はトゥーア産のもので、ルーデというハヴェルを何度も殺してみせた女はトゥーアから来ているという。

 このことからトゥーアにはハヴェルを殺そうとする首謀者がいる可能性が高いと考えている。また、これは考えたくないことだが、トゥーアという国自体がハヴェルを殺そうとしている。後者に関してはカスペとの国交もなく、ハヴェルを殺せば死に戻りが起こることもあるので、殺す理由がないことから可能性は低いものではある。


 ともあれそんな疑わしいトゥーアに私は行くことになった。既にこれまで諜報員を送り込んで調査しているらしい。その情報を元にハヴェルに好まれていた私が囮となって、いるかもしれない首謀者を誘い出す。



 私は人目を忍んでカスペから出国することになった。

 ハヴェルを殺そうとする襲撃者に見つからないようにするためだ。トゥーアでなくカスペで見つかっては、襲撃者は手がかりを残さないようにしているのでただ出国に時間がかかることになる。


 身体を覆い隠せるフード付きのローブで素性を隠し、夜に紛れながら町の門を目指す。夜でも出られるようカスペ国内で通用する証明書を貰っていた。


 私の存在自体がハヴェルの弱みとなるため、誰にも知らせることなく準備ができ次第出国しろと言われていた。ハヴェルがいるため第二騎士団の者に挨拶をするなということだろう。元より挨拶するつもりはなかったので問題なかった。ただベランジェールのことが頭をよぎるが、現状会って伝えられることはない。私の考えはベランジェールに言ったことと何一つ変わっていない。きっと相手も考えは変わっていないだろうな。


 ベランジェールはともかく、母の無事は見たかったとは思う。


 会って話をする勇気はないにしろ、ただ無事である姿を見たかった。

 ……治療してくれるだけありがたいことだ。

 母のしたことを思えば、治療しないで見殺しにされても仕方なかった。


 確認せずとも治療されている信用もあることなので、後ろ髪を引かれながらも無事出国することに集中する。


 尾行されているな。数は三人、私を見つけられ、私も直ぐに気づけなかったため相手は腕が立つ。

 撒くか、撃退するか。有利な場所に誘い出して撃退する。そのほうが早いし、つけられていないかの面倒がない。


 決まれば早く、路地に入り込む。相手も誘い出されているのには分かっているだろうから、路地を駆け抜けて曲がりこんで行方をくらます。焦って追いかけてくる足音を、物陰に隠れながら耳を澄ませる。


 曲がり角で減速し加速している。仕掛けるタイミングは近づいてくる音で判断した。相手の動揺する顔を認識した頃には、私は既に短剣で首を掻き切っていた。


 二人目も直ぐに来る。短剣を構えるが、その二人目は攻撃する必要もなく倒れた。その背後に三人目がいる。


 味方か?

 警戒は解かずに「誰だ」と問いかける。


「ロマ先輩、僕です。ヴィートです」


 ヴィートの顔は影で隠れて見えない。


「なぜ私をつけていた」

「ロマ先輩を見つけてすぐに声をかけようとしたのですが、他に怪しい人がいたので助けようって思って。でも必要なかったですね」


 ヴィートが剣についた血を払い飛ばし鞘に収める。人懐っこい笑みを浮かべているのが見えた。


「やっぱりロマ先輩は凄いです! 尾行に気付いて、戦うのも強くて!」

「……私に何の用だ」

「見かけたら話しかけて駄目ですか? ――なんて、そんなこと聞きたい訳ではないですよね」


 愛嬌を振りまき、寂しそうにし、と短い間でころころと表情を変える。


「聞いたんです、第二騎士団の方から。ロマ先輩、一人で行ってしまうって」

「私の話は広まっているのか」

「そんなことないですよ。第二騎士団の中でも一部の方のみです。僕の場合は口を滑らしてくれた方からお聞きしました」

「緩い口の者がいるものだ」

「ロマ先輩のためですよ。ロマ先輩のことを想ってのことです。……僕もその一人です」


 ヴィートは真面目な表情で私を見つめる。


「僕も一緒についていきます」


 直ぐに断れなかった。これまでの私ならば邪魔だと、一人が慣れていると拒絶した。


「なんでも一人で解決しようとしないでください!」


 私が一人ではないと伝えてくる。ヴィートの言葉はベランジェールの『頼ればよかったじゃない』という言葉と似ていた。


「……別に独断行動をしている訳ではない。命令されて私は動いているし、現地には他の者も向かっている」

「そ、そうと聞いていますけど! 僕も何かしらお手伝いできないかなって…………第二騎士団の方はともかく僕は動ける立場です。それなのに一言もなく他の方と組んで動くのはずるいです」

「ずるい?」

「うぅうううっ! もう、そのっ羨ましいんです! ロマ先輩は僕の面倒を見てくれるんじゃないんですか!?」 


 羞恥で頬を赤らめならが、やけくそながら言われる。

 私は感情の起伏が激しいことに溜息を吐く。


「ついてきたいなら勝手にこい」

「え!? いいんですか?」

「知らない。上の判断次第でどこかでとめられるかもな」

「ええー、そこは一緒に説得してくださいよ」

「私は上の命令に従うのみだ」

「そんなあ」


 嘆くヴィートの相手をするのは面倒くさい。遅れた分の出国に費やすことにする。


「あっ待ってください、ロマ先輩!」


 人を頼るのは難しいな。母相手だって私はされるがまま世話を焼かれるだけだった。

 ヴィートが役に立つかは微妙なところだがな。


 私は素直でないにしろ人を初めて頼って顔が熱くなるのを感じ、暗闇では足りないとフードを深く被った。



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