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12.候補者

 戦争ではハヴェルの活躍が目に見えて大きかったが、第二騎士団所属の貴重な魔法使いのシャンタルとペペも目を見張る戦果を挙げていた。戦場では屋敷や町と異なって人や建物の被害を考えないで、広々と実力を発揮できる。これまで活躍できなかった鬱憤を晴らすかのように、敵兵を倒していた。


「シャンタルの風魔法によって敵は一斉に首を掻き切られ、ペペの雷魔法によって肉を焦がし動けなくさせた。どちらも発動してから避けるのは至難の技で、魔法を使わせる前に倒すしかない。だが戦争では魔法を発動するまでに味方が守り、敵との魔法の打ち合いではハヴェルの存在があって勝つことができ、そのあとはワンサイドゲームで敵に魔法の雨を降らすことになった」

「へ、へー……」

「その後に突撃することとなり、私も敵兵と相対することになったが、魔法でやられ意気消沈している相手だ。楽なものだったな。ただこれまでに見たことのある魔道具を隠し持っている奴らがいて厄介だった。隙あらばハヴェルを殺そうとする。だが、戦場のハヴェルは強かったな。油断も隙もない状態だから、奇襲で魔道具を使われても対応してみせた」

「……そうなんですね。無事、ロマ先輩が生きて帰ってきてくれてよかったです」


 私の手を握り、にへらと笑いかけるのはヴィートだ。戦争話をせがまれたため話をしてやっていた。

 戦争にヴィートは連れて行かなかったが、ハヴェルの護衛を試しで任されるようになるぐらいの実力は備わってきている。剣術の経験があって才能があり、私やその他の騎士も面倒を見てやっているのだ。遠くないうちに本格的に護衛を任されるようになるだろう。人では一人でも多い方がいい。懐かれているのもそうだが、だから面倒を見ている。


 現在は私と共に護衛中なのだが、戦争話をするぐらいに気を抜いているのにはこの場にハヴェルがいないからだ。ヴィートを試しに護衛させているので重要な場を任されていないこともあるが、ハヴェルは今夜王城で戦勝パーティを開かれるために着替えているからだ。男手で着替えや近くの護衛をしている。


「ああ、やっと見つけた。ヴィートと一緒にいたからここにいたのね」

「ベランジェール。何かあったのか?」


 急ぎ足でいるものだからそう問いかける。


「何かって聞いていないの?」

「そうだな」

「のんびりしている辺り、そうみたいね。……まあ、急遽決まったみたいだし」


 ベランジェールは私と同様に何も知らないヴィートに耳打ちをする。ヴィートは途端に目を輝かせた。


「ロマを送っていったら、私がロマの代わりを務めるからその間お願いね」

「はい!」

「さあ、行くわよ、ロマ」


 いったい何なんだ。

 なぜヴィートに話して私には話せないことに疑問を抱きつつも、ベランジェールについていく。行き先は屋敷内のとある一室だ。女性もののドレスや化粧道具が揃えられている。にこにことした笑みのメイドが四人と、覚悟を決めた真面目な表情の女騎士も一人いる。

 ベランジェールはパタンと扉を閉める。カチャリと鍵の閉める音もした。


「今から私に何をさせるつもりだ」


 不穏な雰囲気を感じ、逃走ルートを探す。扉か窓か、どちらも鍵がかけられておりベランジェールと女騎士が邪魔立てしそうである。


 ベランジェールはいい笑顔で言った。


「ドレスアップ」

「……私に、か?」

「ええ」

「他の奴がすればいい」


 ベランジェールとか。


「喜ばしいことにロマが選ばれたのよ。せっかくだから綺麗に着飾ってちょうだい」


 話し合いで解決はできなかった。逃走を決める。

 それを見越してベランジェールが私の手首を握る。腕を回して逆にベランジェールの手首を握り、背負い投げをする。


「このっ容赦のない!」


 手加減している。武器を用いないで素手にしている。鍵、扉の順番に開ける。その先はノルベルトがいた。


「なっ」

「ちなみに窓の付近にも待機しているからな。諦めて着替えてこい」


 無情に再度扉が閉められる。

 逃走は困難、したことのない戦い(ドレスアップ)に真っ向から挑まないといけない。


 諦めるのは早いか?

 だが、こうも人を揃えて私の逃走を阻止しようとしている。それに私は言われた通りに付き従うしかない。母のために。


 その後、私は何度も苦悶の声を上げることになる。人に触られる経験が乏しい私にとって、この戦い(ドレスアップ)はとても厳しいものだった。



「おお、見違えたなあ」


 呑気なノルベルトを私は睨みつける。


「お前が画策したのか?」


 絡んで話しかけてくる以外にも、このように私に仕掛けかけてくるとは。機会を見てやるか?


「提案はしたけどなあ」

「……殺す」

「賛同したのは俺だけじゃねえって! ほんとに今にも殺しそうな目で見るな!」


 この重たく動きにくいドレスであることが、ノルベルトにとっての幸いだろう。そのようにさせたのがノルベルトなのだが……やっぱり殺す。


「なんで短剣持ってんだよ!」

「この姿をさせてでもハヴェルを護衛をさせるつもりだからだろう?」

「騎士はともかくお前が短剣持ってったら捕まるからな!」

「は? じゃあなぜ私をこんな姿にさせた」

「あー、それは……」

「こんな風にさせておいて正直に話さないことはないだろうな」


 睨みつけると、降参と両手を上げる。


「ハヴェルには秘密な」

「ああ」

「ハヴェルに……英雄に女を作らせようって話があるんだよ」


 なんとも俗な話だな。


「これまでの中で一番長く時戻りもしないで、しかもカスぺにとってうまくいっているだろう?」

「そうだな」


 第二王女は大国の第三王子に嫁ぎ、同盟を結び、戦争に勝った。


「国は将来を見通すようになって、次は英雄の子孫がほしいって訳だ」

「勝手にやらせておけばいいだろう。私には関係ない」

「問題はハヴェルが女に興味がないってことだ。昔から女を買うこともしない。国としてはカスペの貴族と結びついてほしいと思っているだろうがな。貴族の女に限っていたら、一生独身になる可能性が高い。あいつの親友である俺には分かる」

「……ノルベルトはハヴェルに女を作らせるってのに拒否感はないんだな」


 本人には秘密で進めていることに憤りを持ちそうなものだが。


「ハヴェルに女ができるってのはいいことだと思うからな。じゃないと戦って終わりの人生になる。情を向ける先があってもいいだろう……俺以外にもな!」

「ふうん」

「無理やりにでもやらないと、女を作りそうにないしな。で、話を戻すが、貴族の女限らず、その他にも候補がいていいだろうって内々で話し合ったんだ。その候補者が―――」

「私ってことか。候補者選びを間違っているだろう」


 もっとかわいげのある奴がいただろうに。


「間違ってないさ。…………おそらくな」


 ノルベルトは目を逸らす。

 私は遠慮することなく追及する。


「どういう理由で私が選ばれたんだ」

「それは……」

「まさかハヴェルが私に恋愛感情を持っているわけではないだろうに」

「……」

「まさか……嘘だろう。それらしい反応はしていない。少し話をしたことがあるだけだ」

「だが、ロマが一番近いところにいる」


 なんだ、それは。

 確証はないのだろう。ノルベルトははっきりとは言わない。


 ハヴェルの恋愛感情はさておき、私が言えることといえば。


「私はハヴェルのことを恋愛対象と見ていないからな」

「……残念なことだな」

「ハヴェルの護衛はいいが、それ以外のことまで強制されるのは納得がいかない」


 母の治療の対価はハヴェルを守ることだけだ。だが、暗殺者の私は罪を償わず許されているような立場なので命令されれば拒否はしにくい。

 私は納得がいかないと主張しつつも、そのような理由で目を伏せる。


「……ハヴェルがロマを口説き落とせればなあ」

「私は誰かと添い遂げるつもりはない」


 ただ生きるのに、病に侵された母を助けることに必死だった。

 恋愛なんて、誰かと共に生きるなんて、考えたことはなかった。これからもハヴェルを守り続けるのに必死で、縁遠いものだろう。


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