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8.死に戻りの連続

「遅かったな」


 とある騎士には疑いの目で見られるが、仲介人から情報を得てきたことを話すとバツが悪そうにする。こういうところは日向に住む者だと思う。影に生きる者はバツが悪そうにせず、開き直りもする。


 死に戻った原因はやはり刺客にやられたことらしい。頻繁に襲撃があったせいでまともに寝ることもできず、まとまった休息をとろうと交代で休息をとっていた中での死に戻りだ。疲労がとれていない上、少人数でハヴェルを守ることになったのが敗因だろう。


 私は屋敷に到着次第、私が得た情報のみ渡して働かされることになる。やることは奴隷狩りを捕縛し、奴隷を救出することだ。前回散々悪を検挙したが、もうその悪は死に戻りで自由となり、捕まる可能性があることを知っている。

 苦労させられ最後には自爆をしたルーデも自由になっている。ルーデは私が仲介人から情報収集している内に騎士が捜索しているが、見つかっていないという。

 そちらの人手もハヴェルの護衛も足りているというため、その二つの他に重要視されている奴隷狩りの捕縛に私は回された。


 精神的には疲れが溜まったままだと思うが。


 死に戻り後は慌ただしく、疲れていると言っている場合ではないのだろう。騎士の疲労が原因で守り切れずに死に戻りが起こらないことを祈りつつ、私は言われた通りに動く。


「ロマ先輩! 来てくれると信じて待っていました!」


 きらきらと瞳を輝かしているヴィートは元気そうなので、手伝いとして他の牢の鍵を開けるよう言いつける。第二王女が連れていたモアも衰弱しているが無事見つかる。

 奴隷狩りは呑気に寝て逃げ遅れていたため、全員ではないが残っていた者は捕縛することになる。



 奴隷狩りは少数を逃したが、奴隷とされていた者は全員解放できた。ルーデの捜索は依然、見つからないままらしい。このまま逃げ切って身を潜めるだろうと予想する。ハヴェルの護衛は襲撃もなく、何事もなく済んでいた。


 こうして私にも情報が回ってくる。第二王女自ら話もした。


「世界会議での成果ですが、ノーウスを筆頭に時戻りを防ぐための同盟を結ぶことができました。仮想敵国のヨサンダスの抑制も期待でき、良い結果を得られたと考えます。その関係上、これは内密な話ですが、私はノーウスの第三王子セシリオ様の元に嫁ぐことが決まりました」


 騎士がざわりと反応する。好意的ではないが、完全な否定的ではない。第二王女の年のせいだろうか。もう嫁に行くのか、という。

 私としては貴族のやり方になじみがないので、そういうものかとしか思わなかった。


「主導者の立場を最後までいられませんが、私は私にできることとしてノーウスとの結びつきを深くします。離れることになりますが、共に時戻りを防ぐことに尽力しましょう」

「はっ」


 第二王女は嫁ぐための準備で忙しく、いないことが多くなるそうだ。第二王女自身は第二騎士団をよくまとめて、集まった情報を元に指示を出すことをしていた。代わりとなるのは騎士団長となり、しっかりと引継ぎはなされるだろう。第二王女が第一線から引くことで、支障はなさそうだ。


 問題は前回の死に戻りの原因の、頻繁に襲撃する刺客だ。仲介人から間抜けな貴族の情報は得ているため、それを元に刺客の雇い主の貴族を二人は留置することになった。だが、送り込まれる刺客の人数は減りはしない。


 他に怪しい貴族はいるらしいが、用心深いため尻尾を出すことがない。刺客に対応し続けることになる。

 殆どの刺客が魔道具を所持しているのがとても厄介だった。ルーデの複数人を爆死させるような魔道具の存在はまだないが、多様な魔道具で襲撃してくる。しかも刺客なので手段を問わない攻撃手段をしてくる。私はともかく正々堂々と戦う騎士には苦戦する相手だった。


 死に戻りの連続が始まる。


 刺客が何十人と徒党を組んで屋敷に入り込み、乱戦のちハヴェルは死亡。死に戻る。

 風の魔道具で屋敷の塀を飛び越えて発見されずに侵入した刺客に、不意を打たれてハヴェルは死亡。死に戻る。

 食事に遅効性の毒を盛られ、毒見もろともハヴェルは死亡。死に戻る。

 閃光の魔道具にて視覚を奪われて、ハヴェルは毒針にさされる。治療が遅れて、ハヴェルは死亡。死に戻る。

 おそらく刺客に扮したどこぞの騎士だった。とても腕が立つもので、倒しきるまでに何人もの味方の騎士が死傷した。空いた人員の穴を突かれ、別の刺客によりハヴェルは死亡。死に戻る。

 様々な魔道具を使いこなしていた。決定打は土の魔道具で壁を作られて分断されたことだ。駆けつけると、既にハヴェルは死亡。死に戻る。

 ルーデの襲撃があった。見知った手口で、今回は対応できずにハヴェルは死亡。死に戻る。


 これでも私たちは尽力していた。次々ときて刺客が捌ききれないにも、死に戻った後は同様の死が訪れないように対策を練った。交代で休みを捻出し、疲れがとれるようにした。

 昼も夜も刺客がくるため、いつ刺客が来た、と起こされるか分かったものではなかった。休んでいても、疲れが完全にとれることはなかった。肉体的にもそうだが、精神的疲労が大きかったと思う。


 世界会議が行われたとき以上に死に戻りを防いだときがあったが、とあることが判明して喜びは少なかった。老騎士のアンドレアスの寿命だ。とある日、アンドレアスは倒れて急死した。

 ハヴェルが死に戻りが起こった後、医者や聖者に診てもらって病があることが発覚する。母を治療してみせた聖者でも治療不可能な脳に病があるらしい。


「儂は随分と長生きした。この年で最後までお前たちと共に並び立てるとは思っていなかったからな、覚悟はできている。儂が死んだ後のことは託すぞ」


 アンドレアスは動揺することなかったが、親交のある騎士が揺らいだ。アンドレアスの姿から気丈には振舞うが、士気は下がる。アンドレアスは有力な戦力なため、寿命を迎えた後が苦しくなるなと思った。


 他にも不利な状態はある。

 何度も死に戻りが起こっていることで、民や貴族から不満が膨れ上がっていた。第二騎士団の能力が疑われており、厳しい目が向けられている。なにをやっているのか、無能集団め、と。


「なぜこうまで言われないといけない。俺たちは必死に戦っているというのに……っ!」


 騎士がダンっと机に拳を振り下ろし、そして力なく嘆く。見ていて憐れだった。


 私は何度も死に戻りが起きていることも、民や貴族から不満が膨れ上がっていることも、精神的に参る要因にはなりえない。毎度母を生かしてくれているため、ただ言われた通りにハヴェルを守るだけだった。

 間近で第二騎士団が落ちぶれていくのを見ることになる。



「ここは食い止める! 早く行け!」


 怒声によって、言われた騎士たちは後ろ髪をひかれながらも走り出す。ルーデの襲撃により屋敷は炎に包まれ、脱出して逃げていた。最初はまだ人数はいたが、ルーデ以外にも追ってがおり、今のようにどんどん騎士は減っていく。

 私たちは包囲されており、逃げる先を誘導されていた。騎士の犠牲もあってそんな包囲を突破したため、身を隠せるところを探す。


「どうぞ、私の家をお使いください」


 なんてことのない、どこにでもある民家に住まう女性の声掛けだった。


「行きましょう、彼女は無害です。私が保証します」


 騎士のヨルクが言う。罠ではないかという声があったが、以前助けたことがあり、中に入ったら分かるという。


 罠を疑いつつも、家に招かれることになる。敵は潜んでおらず、女性の善意で招いてくれたことが分かった。

 泣き声が家に響く。女性はその赤子を抱きあげ、あやす。


 赤子のなかでも、生まれてからそう日が経ってない乳児だった。

 私はああ、と思い出す。そういえば時が巻き戻る日に生まれる赤子がいることを。

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