4話 抗心
雨が止み始めた頃、マリーは彼女の家へ導いた。太く丈夫な木の枝で作られた一般的なログハウスだった。
庭では黒髪の男性がベンチに座り、本を読んでいた。中年ぐらいだろうか、口髭を生やしていた。
「ただいまー!」
マリーは元気よく挨拶した。
「あ、マリーちゃんおかえり。」
男性はそう返した。少しするとマリーは
「このおじさんは一応僕の里親のジーン・ラプトイドさん。種族はマイマイカブリだよ。」
と男性の方に手を向け、ヤマトたちにざっと説明した。
それを聞いたナナシは少し困惑し、
「…あれ?前はお母さんと暮らしてたのに?」
と言った。
「前はママと暮らしてたけど半年前に海外出張しに行ったんだ。僕は連れて行けないらしいからママの友人のおじさんの家族に預けたんだ。」
「君のお母さんは郵便屋さんなのに海外出張にも行くんだ…」
「えーと、君たちはマリーちゃんの友達だね?外で話すのもアレだし家に上がってゆっくりしていってよ。」
ヤマトたちを見たジーンはそう言ってヤマトたちをもてなした。
「あ、はい。」
言われるままにヤマトたちはマリーの家に入って行った。
家は一階建てでロフトがある至ってシンプルな間取りだった。ドアに入るとすぐ居間が見える。そこにはさっきの男性と同じく黒髪で中年ほどの女性がテーブルの周りに並べられた椅子に座っていた。外見から察するに、ジーンの妻だろう。
「おばさん、ただいまー!」
「あら、おかえり。…って、ナナシちゃん?と…」
「あ、実はかくかくしかじかで…」
マリーはラプトイド夫妻にヤマトたちの事情を説明した。
「そうだったのね…じゃあ、今夜はここに泊まっていいわよ。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
そう話をしている間にロフトの方から声が聞こえた。
「親父!なんで俺を起こしてくれなかったんだ!もう10時過ぎだぞ!」
そこに居たのは黒髪の少年。恐らくこの家族の長男だろう。
「何度か起こしたぞ。」
ジーンは呆れた声で言った。
「…てか、お前ら誰だ?なんで俺の家に居る?」
「この子たちはマリーちゃんの友達だ!客に対して失礼だろ!」
「うるさい!俺はいまイライラしてんだ!話しかけないでくれ!」
親子喧嘩になる寸前、少年は部屋に戻り、ドアを強く閉めた。
「ごめんね、うちのリーブが…今反抗期だから…」
「いや、別に気にしてないです。大丈夫です。」
(反抗期って思った以上にヤバいんだな…)
ヤマトは少し困惑している。
「あー見えてもリー君は凄く頭いいんだよ!無類の数学好きだから暗算とかそうゆうの得意なんだ!」
「なんであたかも自分のことのように得意げに自慢しているの…?」
用意されていたお茶を飲みながらミナはそう言った。
そんなこんなでマリーの家で過ごしていくうちに夜が来た。ヤマト、ミナ、ナナシはマリーと一緒に彼女の部屋で寝る支度をしていた。
「よし、大体こんなもんかな!」
マリーは床に敷布団を置いた。ランプを消して4人ともそろそろ寝る準備をしていた。
「3つしか掛け布団が無いが…」
「大丈夫!僕にはこれがあるからね!」
「殻ッ!?」
マリーは大きな殻を取り出した。彼女の七変化だろう。
マリーは殻の中に入った。
「…狭く無いのか?」
「慣れれば平気だよー」
3人はランプの明かりを消し、眠りにつこうとした。
「ところでマリーちゃんのお母さんってどんな人だったの?」
明かりのない薄暗い部屋の中、ミナはマリーに問いかけた。
「僕のママはいつも仕事熱心だったよ。でも僕の事も色々気遣ってくれてたね。」
「僕の両親も特に悪い訳じゃないけど…僕は親子喧嘩が原因で家出したからなぁ…」
ナナシは少し悲しそうに言った。
「私の両親は…」
3人の親の話を聞いてヤマトは少し嫉妬した。
「ヤマト君の両親はどんな人だったの?」
話終わったあと、ミナはヤマトに問いかけた。
「俺には…両親がいない。」
「え?」
「母さんは俺が物心つく前から死んで、父さんは母さんが俺を産む前から出張に行った後に消息不明になって…」
「なんか…ごめん…」
「いや大丈夫だから。俺にはじいちゃんが居るからな。前まではじいちゃんと暮らしてたけど迷惑かけたくないから一人暮らしを始めたんだ。そんなことよりもう遅いし寝るぞ。」
「そうだね。おやすみー」
ヤマトたちは眠りについた。薄暗い部屋に残るのは沈黙のみ。そして、いびき。
その夜、ヤマトはとある夢を見た。