2話 出会い
ヤマトは東の方へ約3マイル飛んだ。彼の目の前に映るのは色とりどりの花々が咲いた美しい草原だった。
「ここが…ロパロセルの草原か。」
ロパロセルの草原は主にアゲハチョウ上科の昆虫たちの住む美しい草原である。
「噂でも聞いたけどやっぱり現実で見るのが一番だな。」
そんな風に独り言を呟きながらヤマトはそこら辺にあった村に立ち寄った。
「見慣れない顔ね。どこから来たの?」
村の中をウロウロしていたらモンシロチョウの女性が話しかけてきた。
「こんにちは。ディナスティナエ村から来ました。」
「え!?そんな遠くから!?」
女性は驚いた。昆虫は小さいうえに3マイルも飛んだから無理もない。
「疲れているんでしょう?私の家でゆっくり休んでもいいわよ。」
女性は心配しているようであった。しかしヤマトは彼女の心配をよそに
「いいんです。木の上とかで休んでも大丈夫ですので。」
と断った。
しばらく歩いた後、ヤマトは高いクルミの木の枝に腰を掛けた。
(久しぶりの故郷の外か…)
ヤマトは木の枝の上で仰向けになった。
(今眠ったとしてもあの女性は夢に出てこないよな…)
あれこれ考えているうちに彼は眠りについた。
「キャッ!」
どこからか少女の声がした。ヤマトはその声で目が覚めた。本当にあの女性は夢に出なかったらしい。
木の根本では1匹のメスのアゲハチョウが3匹のオスのニシキリギリスに囲まれていた。
「さあ…早くそれを渡して貰おうか。」
親玉らしき大柄なキリギリスが少女を恐喝していた。少女が手に持っているのは中ぐらいの琥珀。売ればそれなりの大金は手に入るだろう。
「ダメです!これは祖母の形見で…」
「死んだ奴の物なんか持ってどうするんだ。もう死んだ事だしどうでもいいだろ。さあ、早くそれを渡せ。」
側近の2匹はニヤニヤしている。キリギリスの言葉を聞いた途端ヤマトは頭に血が上った。
少女はキリギリスたちがどうしようと絶対に渡さないつもりでいるようだようだ。
「どうしても渡さないのか。じゃあ…思い知らせる必要があるようだな!」
とうとう、親玉は少女に拳を向けた。それを見たヤマトは思わず木から飛び降りた。
「グハッ!」
少女に手を出そうとした途端、親玉のキリギリスは突然木から飛び降りてきたヤマトに華麗なストレートキックを受けた。
「き、貴様は誰だ!」
蹴られて腫れた頬を抱え、親玉はヤマトを睨みつけた。
「ここから立ち去れ。さもないともっと酷い目に会うぞ。」
ヤマトは警告した。しかし親玉は
「この野郎、舐めた真似しやがってえええええぇぇぇ!」
とブチ切れ、ヤマトに襲いかかった。ヤマトはため息をつき拳を握りしめた。
「本能スキル『多段式垂直衝突拳』!」
ヤマトはものすごい速さで親玉の顔面を殴った。
「ぎゃぁあぁあぁあぁぁ ぁああぁあぁぁぁ ぁああぁぁあぁあ!」
親玉のキリギリスは倒れ、気を失った。
「ボ…ボス!」
側近の2匹は親玉が倒れるのを見てかなり焦っている。
「いいか。こいつのようになりたくなかったらさっさと立ち去れ!」
「す、すいませんでしたあああああああぁぁぁぁぁ!」
2匹は失神している親玉を抱え、慌てて逃げていった。
「怪我はないかい?」
ヤマトは少女に問いかけた。近くで見るとヤマトより少し低くく、白髪に黒いメッシュがある可憐な少女だった。少し戸惑いながらも少女は
「う、うん…ありがとう…」
と言った。
「じゃ、俺はもう行かなきゃいけないんだ。旅の途中だからな。」
「待って、今旅っていったよね。」
少女は立ち去ろうとしたヤマトの手を握った。
「え?あ、うん…」
「私も旅の途中なの。」
その後、2匹はしばらく話し合った。
「私は自分探しの旅に出ていた所なんだけど不良に囲まれて…」
「奇遇だね。俺も同じような理由で旅に出ているよ。」
「本当!?」
少女は喜んだ。
「じゃあ、私と一緒に行こうよ。一人じゃ心細いし。」
突然の頼みにヤマトは動揺した。しばらく考えた後、ヤマトはうなずいた。
「俺はヤマト・ルビート。よろしく。」
「私はミナ・スワルテイル。こちらこそ。」
ヤマトは初めての仲間が出来た。