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異世界は君と  作者: 白老の庶民
第一章:幼少期
9/10

8話 人間関係 (承)

 

「では、話を聞いていこうか」


 いかにも説教するような雰囲気だった。

 本当に子供であるチビとイムは怖くてまともに喋れないだろう。

 


 しかし説教されるわけではない。

 ただの事情聴取だ。

 

 (どうせこの剣聖も城の管理人も中身の僕よりは年下なはずだ。

 まぁこのお手伝いさんのリーダーさんは同じくらいかもしれないが。

 ここは年上として堂々と話さなきゃいけない。

 さっきは何もしてやれなかった。

 その反省をいかさねば)


 ファストはなにが実際に起こったのかをありありと説明した。

 大したことではない。

 ミナの明らかに人を見下したうえに理不尽さも兼ねた言動でイムが傷つく。

 それが一年と半年も積み重なったうえに

 そのことを話していたタイミングでミナがここへやってきた。

 その結果ミナの怒りが沸点に達した。


「事情は分かった。私たちの方から相変わらずのミナにはきつく言っておかねばならない」

 

 イムは何かを喋りたがっていたが喋る事ができなかった。きっとそれは自分に自信が持てていない事が原因なのだろう。この雰囲気下で大人の顔色を窺っているように見えた。


「あの、一度ミナと落ち着いて話し合う場を設けて欲しいのですがどうでしょうか」

 

 タイミングを見計らってファストはそう言った。不良の子に対してもそうだがそうなる理由をしっかり聞いてその子を尊重してあげた上で大人としての解答を伝えてあげる。これは大人としてあるべき姿なのではないかと思った。




「私たちも今までしつけはしてきたつもりだ。だけど今こうなってしまった。話し合いも何度か試みたことはあった。子供の君になんとかできるのかい?」


「おそらく。ミナさんは確か今年で9歳でしたよね?」

「うんそうだよ」

「ならばしっかり伝えればわかってくれると思います」

「あの子は昔から素直になれないところがあってね。大変だとは思うけど」

「なんとかしてみます。任せてください。」




 お手伝いさんはミナがいる部屋にファストを連れて行った。

 その時にお手伝いさんが言っていた。



 ミナは小さい頃からずっと気が強いうえに努力家だった。

 しかし兄貴達は大して努力せず呑気に生活する毎日だった。

 王族として国を率いていく立場にあるのにも関わらず。

 そして6歳になれば剣術や魔術で凌駕する実力者へと化けた。

 怠惰で責任感にかける兄貴たちに一喝をいれるつもりで兄貴たちを剣術勝負で打ち負かした。

 

 しかし兄貴達は体裁を保つために、ある日からミナとは一切関わる事をやめた。自分達のプライドが傷つくことを恐れてないものとして扱うようになったのだ。

 ミナは信じられないと言って兄貴達を説得しようとした。

 しかし結局険悪になり、王都を飛び出した。


 しかし強くなることに憧れて剣と魔術以外を知らずに育ったミナ。

 うまく人付き合いをする方法などわかるはずがなかった。



 お手伝いさんはドアの前で軽い会釈をするとそのまま行ってしまった。

 ファストはドアノブに手をかけた。

 少し捻ったところでノックし忘れていたと気づいた。

 なぜだか手汗がひどかった。


 ノックをしてゆっくりとドアを開けた。

 ここはミナの部屋だ。

 女子の部屋は初めてだ。


「なによ。平民」

「えっと・・・。少し話したくて」

「平民ごときがナンパする気なの?」

 ミナは黒いワンピースを身にまとい露出された白い肌に視線が吸い込まれていく。

 大きなベッドの端に座り窓から外を眺めていた。

 視線は窓の外からファストに向いた。

「ナンパ・・・じゃないですよ。もっとミナがなんでそんな事をするのか聞きたくて」

「まぁそんなことだろうと思ってたわ。いいわ。座って」


 ファストは言葉がでてこなかった。


「はやく。聞きたいことがあるなら言いなさいよ」

「ミナさんは・・・きれいだと思います。なのになぜあのような態度をとってイムや僕と接するのですか」

 ミナは一瞬面食らったがすぐに平静を保った。


「私は私が思う王族の在り方を目指してるだけだわ」

「なるほど」

「王族ってもっと国を牽引するだけの力強さを見せつけていかないとだめだわ」

 少し間を置いた。ミナは震える声で言った。

「でも、どうしていいかわかんないわ」

「えっ・・・。」

 あっけなく本音を話してくれたことで返す言葉がでてこなかった。


「出てって。今はまだ。出て言って」

「えっあうん」

 その言葉はファストの心に鋭く痛く刺さった。だんだんと口調が強くなっていく。

「出ていけ!」

「ごめんなさい!」

 ファストは慌てて部屋を出ていった。


 ーーーーーーーーー

 結局のところ今日はここで解散になった。

 部屋に戻って結果をみんなに伝えると、とりあえず今日は帰るか。とサントッシュは言った。


 城の前まで先ほどの大人3人が見送りに来てくれた。

 去り際

「たしかあの部屋で聞いた君の名前って・・・」

「ファストです。ファスト・カラーキャット」

「そうだったね。ファスト君、君ってなんでそんなに魔力を持っているのかな?」

「これは」

「ひょっとして君・・・。」

 サントッシュは顎に手をつけて考え出した。

「いや、そんなわけないか。」

「サントッシュ様いったいどうなされたのですか?」

「別に大したことじゃないよ。君はその魔力は扱えているのかい?」

 

 サントッシュからみたファストは、その魔力量で七色に残像のようにして歪んで見えていた。ただひたすらに気持ち悪さで吐き気がするような子供だった。しかしそれは魔力を見ようとした場合にそのように見えるだけである。ピントを合わせるようにして通常の見え方に戻せば普通の子供に戻るのだが、その魔力量には剣聖様も驚かざるを得なかった。

「魔力・・・。制御がしきれていないってお母さんに言われました。何か知っていますか?」

「やはりそうか。その歳でその魔力を扱えていたら人間ではない。私が教えてあげようか」

「えっと・・・。失礼な質問かもしれませんが、サントッシュ様は剣の達人なのに魔術も扱えるのですか?」

 サントッシュはいかにも無知な子供らしいその質問に笑顔を見せた。

「剣術の根幹には魔術があるんだよ」

 そう言ってファストの背中に優しく触れた。


「ほぼ全ての剣士は魔術なんて扱えない。だけどその剣術には通常の魔術とは違う方法で魔力を全身に回している。そして剣士として優秀であればあるほど魔術も扱えるようになる。だから私は魔術も一流の魔術師ほどには扱えるんだよ。まして本業は剣士だから、君を指導するにはもってこいだとは思わないかい?」


(なるほど!全人間最強の剣聖サントッシュ・ブラウンなら僕が城などに魔術をぶちこんでもなんとかなるからこそ指導ができます!って感じか!?)


「もしかしたらお城や一般人などに魔術をぶち込むかもしれませんがいいのでしょうか?」

「いいよいいよ。私が剣で君の魔術を無力化するから」

(ほえーそんな事ができちゃうのか!やばすぎないか)

「私が明日から迎えに行くからさ、家を案内してくれないかい?」

 驚いた。家なんてまさか。

 ファストは兄と父のリアクションが頭に浮かんだ。

「君の才能を見込んでのお願いだ。ぜひとも両親には挨拶をしておきたい」

 とのことで家まで連れていくことになった。


 家では両親が大騒ぎだった。



 ドアを開けた時にいつも通り、訪問客を出迎えるようにしてドアを開いた。

「こんばんわ。私」


「おうわああああああ!!」

 といって父はその場で後ろへ飛び盛大に尻もちをついた。

「は剣聖・・・」

「あなた!ひゃああああああ!」

 カンナはルナの上に覆いかぶさると、はっと何かを思い出したかのようにしてドアの前で土下座をした。

「ロー!剣聖サントッシュ・ブラウン様よ!」

「うそだろ!なわけ。うわあああ!ガチだった!」

 ローは全力で走ってドアの前に行くとその男を確認してカンナの隣で土下座をした。


「まぁ平民の方々には・・・当然か」

 さすがの剣聖様もお困りの表情だった。




 みんなでテーブルを囲んだ。

「庶民の食べ物ではございますが、もしよろしければお食べください」

 カンナは干し柿のようなお菓子やハギの村で作られているお茶を提供した。


「お父様は、ハシナウウク共和国出身なのですか?」

 サントッシュは家の中にあった青銅の剣を見てそう言った。先が台になったこの青銅の剣は剣帝教徒の証であり、信仰者の大半がハシナウウク共和国とその周辺である。


「じゃあなかなか剣の腕もよろしいのですね」

「全然そんな事ないですよ」

 ルナは手ぶりをしながら謙遜をした。しかし実際のところ剣帝教徒は魔物が強力という地域柄もありだいたいの人は一人前に剣を振ることができる。


 サントッシュは斜め向かいに座るローに向かって言った。

「お兄ちゃんは剣が大好きなの?」

「うんまぁそうです。毎日剣を振ってます」

「手みせて」

「おお。なかなかいい手をしていますね。将来は何になりたいの?」

「たくさんの人を魔物とか悪い人達からたすけるかっこいい剣士」

「いい志ですね。こんど時間があればお稽古の相手をしましょうか」

「サントッシュ様そこまでしなくても、なんかすごく申し訳ないですよ」

「いえいえ。この歳でここまで努力できる才能を見込んでの話ですよ。次の世代の剣士を育成していくのは剣で生きる我々の仕事でもありますから」


 雑談から入りいづれファストの話になった。

 ミナともめた事に関しては何も言わなかった。

 きっと平民であるルナとカンナが反応するのを防ぐためだろう。

 王族の娘と平民の息子がもめたなんてとんでもない話はできるはずがない。


 話した内容は以下


 ・少なくともファストにはこの人間の中ではトップクラスの魔術師になれる才能があること

 ・指導をするには人間の中で15番程度に入る実力者でないと魔力量にたいして実力が追いつかないこと

 ・世界中の貴族や王族が欲しがる可能性があるのであくまでもカラーキャット家の息子としてオーガナイツ家が悪者から守る


「まぁうちの子は賢いから、万が一なにかあっても大丈夫だわ」

 カンナはそう言っていた。


――――――――――――――


「さぁファスト君!今日から私が君の魔術を指導するよ!君はこれから優秀な魔術師になるんだ!」

 サントッシュは広大な草原でそう言い聖剣を引き抜いた。

 刀身が白く輝き緑と青の光が剣の周囲を巻いている。

 


 「城の魔術師が練習をする場所も貸し切れるようになった!これで君を鍛える設備は十分さ!」

 


(これから僕は強くなれるのかな?ミナの一件も解決しなきゃ。でも今は目の前の事に集中しなきゃ。ミナとイムの事に気を取られているわけにはいかない)



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