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異世界は君と  作者: 白老の庶民
第一章:幼少期
8/10

7話 人間関係 (起)

 

 巨大な石造りの建物を前にしてファストは息をのんだ。

 こんな世界がこんなド田舎に存在したなんて。




 城内に入るとミナがお手伝いさんたちと少し話した。

「今日は庭で身体動かしてお菓子を食べて、それで解散!いいわよね?」 

 勝手に何をするかを決めてくるなんて相変わらず自己中心的だなとファストが半ばあきれていたが、今回はミナの住む城で遊ぶわけだからまぁいいだろうと。話を受け入れた。


 ミナはあたりを探し物をするかのようにして見渡した。一体何をしているのかと思った矢先

「おい!イム!私が帰ったわ!友達でしょ!?こっち来てよ!」

 突然大声で叫びだして城内に声が響き渡った。

 (やれやれ、一体なにをしているんだか)


 すると捨てられた子犬のように怯えた男が走って来た。 

 なぜ怯えているのかはわからなかった。

「ミナ!お帰り!今日は何?新しい友達をつれてきたの?めっちゃいいね!」

 (絶対無理してる)

 その男は疲れきったような目でファストを見つめた。

 ファストはこの先への不安が強まると共に、前世の自分がふいに頭をよぎった。

 (前世の僕ってあんな感じだったのかな・・・。)


「おそい!友達のくせにいちいち王女である私に叫ばせないと迎えにもこれないわけ?ありえない」

 男はしゅんっと縮こまって理不尽に説教をくらっていた。襟首を両手で掴んで鍛え上げられた腕力で強く揺さぶった。ファストはさすがにこれはまずいと感じた。前世の苦しみににた感情をその男に重ね合わせた。身体が震えた。


(そう!チビがなんとかしてくれるはずだ!やつは猫の人獣族だ。コミュ力は群を抜いているはずだ)

 チビをゆっくりと見た。

 やつはコミュ力が高い系の人間だ。

 さすがに見るに堪えないこの状況をどうにかしてくれるはずだ。

 安心感を求めて首を左へ回した。


 その顔は安心できる表情ではなかった。

 絶望もしくは失望に近いものを感じ取った。


「私は先にお風呂に入ってくるわ!朝からチビと運動して汗かいたもん!みんなはどっか適当に休んでて!細かい事は私が今からお手伝いに指示してくるから安心して!」

 そう言ってミナは走って奥へ消えていった。



 数秒の間沈黙が流れた。

「なぁチビ!三人でどっかいって時間潰そうよ!」

 なんだか雰囲気が良くなかったのでとりあえずチビに絡んでおけば大丈夫だ。

 チビははっと元の明るい顔に戻った。

「にゃにゃ!少しぼおっとしてたにゃあ」

 (なんだかミナとこの子は何か問題を抱えていそう。きっとミナの振る舞いが原因で)


 チビは元気あふれるその調子で男に話しかけた。

「ねえねえ!私チビっていうにゃ!君はたしかイムっていったにゃ?」

「うん。僕の名前はイム・シャルロットです。」

「年齢は・・・ちなみに」

「ごめんなさい。年齢はわかんないんです。」

「にゃにゃ!?そんなことあるにゃ?」

「僕元々孤児だったんです。」

「にゃにゃー!君すっごいにゃ!孤児がまさか王族に」

 チビは相変わらずのテンションで声が大きくなったので

 チビの発言をファストはさえぎった。

 さすがに人様の住処で行儀が悪いと思った。

「まってチビ一回外の庭で話そっか。ここはやめよう」


 チビと話したイムの表情からは安堵を感じた。

 ーーーーーーーーーーーー

 庭に移った。

 しっかり手入れされた木や草花のある庭。

 さすが王族の庭だ。


 三人はベンチに腰掛けほのぼとした午後を過ごした。


 イムの話はこうだ。


 イムは親に捨てられた。

 母親が無責任に妊娠し産まされた子供としてこの世に生を受けた。


 その時の記憶は深く心に残っている。

 物心がついて色々なことをしっていく最中の出来事だった。


 僕は親に愛されない。

 僕は無価値。


 しかしある日孤児院に金髪の少女がやってきた。

 1年と少し前の話だ。

 僕はその少女に買われた。

 うれしかった。

 こんな僕を認めてくれる人がいるなんて。


 少女は僕に言った。

「今日から友達ね!」

 うれしかった。

 今までの感情が爆発して涙がこぼれそうだった。

 でも堪えた。

 今までの自分とはお別れするために強くあろうとした。


 でも

「友達のくせに何それ!意味わかんない!」

「あんた私の友達なのになんで私が考えていることがわかんないの?」

「もういらない!」


 結局僕はこういう存在なんだ。って。


 イムが話終えるとイムとファストは泣いていた。

 イムは空を向いて目頭を手で押さえた。

 ファストは膝に手をついて下を向いて静かに涙をこぼした。


 ファストは虐待の経験は前世ではなかった。

 しかし人に見捨てられることの悲しみと恐怖感は身をもって経験している。

 だからこその共感。


 ーーーーーーーーー


「こっちも泣いちゃった。何かあったら相談してよ。」

 ファストはイムの両手を握ってそういった。

「私も助けになるにゃ。」

 初めて真の意味で誰かに愛されたと感じた。チビが肩を組んできたときは、初めて心が強く浮き上がるような感覚を覚えた。きっとこれは友達に感じるものではなかったと自覚した。特別な存在へとなろうとしていた。


「ねえ!庭にいたのね!ちょうどいいわ!チビ!木剣で遊ぼ!」


「よーし待ってたにゃ!いっぱい遊ぶにゃ!」


「あのミナ様。少しばかりイムと一緒に城内を散歩してまいります」

「なによ!いっしょに遊ばないの!?まぁいいわどうせ弱いもん!いってきていいわよ!」


 ファストはイムを一旦遠ざけようと思った。他の家庭の事情なので根本的に何かができそうな感じではないがせめての思いやりのつもりだった。

「あっ・・・。」

「どうした?イム」

 歩いてミナたちから遠ざかるときイムは若干戸惑った様子だった。

 きっとミナを警戒したのだろうとファストは思ったので気に掛けることはなかった。

「えっと・・・。なんでもないよ!」

「よし。じゃあいこっか」

 イムはチビを横目でみていた。

 心臓が胸の奥で強く鳴っていた。

 チビは木剣を受け取った。

 元気いっぱいに笑顔でミナとお喋りするその様子を見て胸を強く握った。


 ーーーーーーーーーー


「ねぇイム。どっか図書館みたいな所ってある?あとなんか色々な場所教えてほしいんだけど」

「図書館というか部屋ならあるよ!場所ね。いいよ。案内してあげるよ」

「ねえその本がある部屋ってどんくらい大きいの?」

「どう例えていいかわかんないけどすっごく大きいよ。初めて見た時はびっくりしたよ」

「ふーん」

 歩いていると双剣と剣を装備した男が目の前から歩いてきた。

 王族に雇われる剣士はみんなこんな感じの清楚系な男ばっかなのだろうか。

 いかにも王族を守る剣士っぽい。

「まって、ファスト君。剣聖様だよ。」

「えっ!?」

 隣を見ればイムは右手を胸に当てて深く礼をしていた。

 ファストもあわてて礼をしたが貴族・王族社会における礼儀作法をしらないうえに隣を見て咄嗟に真似しただけなのでとてもぎこちないものだった。


「君・・・。」

 センターパートの黒髪を左手で押し上げるとファストを見てつぶやいた。

 容姿端麗で清楚系の若造。

 こんな人が剣を握って多くの命を奪っているとは到底想像つかなかった。

(こんなひどい礼をしたならば素直に謝罪しよう!潔く謝罪すればお互い嫌な気分になりにくい。)

「ごめんなさい!剣聖様。僕は礼儀作法をしらない愚かな庶民です。今後勉強していくのでお許しください。」

「言葉が達者ですね」

 そう言って美しく笑い、そのまま歩いていった。

 その時にファストに向かってつぶやいた。

「でも私が気になったのはそこじゃないですよ」

(そこじゃないならほかになにがあるん!?まぁいいや。剣聖なんてどうせ人間の理解超えてる。どうせ変人だ!見た目詐欺の変人だ!)

「まぁ楽しんでくれたまえ」



「あの人ってたしか名前は剣聖サントッシュ・ブラウンって人・・・なんだよね?」

「そうだよ。剣聖は伝承なんだけど数千年前から不定期に選ばれた人がなるんだよ。そして世の中の剣聖は絶対に一人を超えないんだ。どの剣聖もものすごく性格がよくて、良い人たちなんだ!その力に溺れることなく正義のために剣を振るうことができる。そんな人。」

(ごめんなさい。どうやら剣聖は変人ではなく聖人でした。)


「ここが書庫だよ!」

 イムが扉を開けるとそこには家一つ分くらいの大きさの部屋が広がっていた。

 部屋のほとんどを埋め尽くす本棚は実に様々な分野の本が埋めつくしていた。


 ・魔術の本

 ・剣術における練習方法やフォームなどを考察した本

 ・地理・歴史本

 などが目立った。実際にファストは手に取って何冊か目を軽く通してみた。しかし毎日カンナと勉強しているような内容よりもはるかに専門的で難しい内容だった。剣にしろ魔法にしろその他大勢の学問にしろ、研究者はこんなにも大変な事を毎日相手にしているのかと思うと気が遠くなった。



 王族の書庫を体感することができたのでミナとチビが帰ってくるまでとりあえず客室の椅子に座ってゆっくりすることにした。廊下ですれ違ったお手伝いさんが客室で待っていてください。と言っていたからだ。ひと段落して落ち着くとファストの方から話しかけた。


「ねぇイムってさ。今後ミナとはどうすんの?」

 お手伝いさんがお茶とお菓子を提供してくれた。イムはそのお茶をゆっくりと味わった。

「ミナか。」

「本当になんとかした方がいいと思うよ」

「まぁそうなんだけどね。仮にここ出たところで行くあてがないから。それで死ぬくらいならこの城に残った方がましってうか」

「ミナに色々言った方がいいと思うよ。あの言動は変だよ」

「ミナはやばいやつだよ。あんな暴言自己中女なんていなくなってしまえばいいのにね」

(まぁそうだよなあ。かわいそうに)


 と思った矢先だった。

「ミナちゃん一回落ち着こうにゃ!ミナちゃん!」

 その時二人の背筋が凍りついた。

 怒らせてはいけない人が起こってしまった。

 プライドの塊のような少女の逆鱗に触れてしまった。


 見てみれば手伝いさんが開けたドア。

 怒りで髪の毛が逆立ち鬼のような形相をした女子が一人。

 猫耳の少女が一人。

 お菓子が乗った皿をおぼんで提供しようとする女性が一人。


 怒号を飛ばしてこちらへ歩いてくる少女を見ると恐怖で震えあがるだろう。

 ファストが比較的平静でいられたのは中身が大人だからであろう。

「誰がいやっていう話なのよ!」

「ちょっとミナさん。これには深いわけがありまして」

(そう。ミナだって人間なのだから落ち着いて話し合えばわかってくれるはずだ)

「馬鹿平民!黙れ!」

 そういってミナはファストの頬を強く平手うちした。その腕力はものすごく重かった。顎が外れなかったのは奇跡としかいいようがなかった。

「あんた。私がわざわざ孤児院から引き取ってあげたのよ!なのになんでそんなに私の事がいやなのよ!」


「ちょっとミナちゃんそんな言い方ないにゃ。ちゃんと謝りなさいにゃ」

「うるさい!おまえは黙ってろ!」

 後ろを振り向いて友達だったはずのチビに向かってついに暴言を吐いた。

「・・・ーーー・・・」

 チビは数秒の間をおいて泣き出した。

 膝から崩れ落ちてしまった。

(どうしようどうしようどうしよう。頬ばか痛いし。しかもやばいってこの状況。俺がなんとかしないと)


 その時。彼は詠唱を始めた。

「魔帝よ。我に力をお与えください。この者に傷と痛みを与える力をお与えください。」

 そう。

 彼とはイムのことだった。

 イムは静かに下を向いてつぶやいた。

 ファストがそれに気が付いた時はもう既に遅かった。


 ミナは目を大きくひらいた。血走ったその目でもってしてイムから向かってくる魔法に反応した。これに関してはさすが訓練された王族だと思った。ミナは目の前から向かてくる赤い波動をかわそうと上体を動かした。


「知ってた?呪文って詠唱すると威力が上がるんだよ。」

 ミナは反応に対して動作が遅かった。

 その白くて美しい頬を赤い波動が拳のようにして強く殴りつけた。

 ミナはその場で2回転し、倒れこんだ。


 数秒でおこったこの出来事に大人として対処してあげる事ができなかったお手伝いはあまりの衝撃に出来立てのおいしいクッキーを皿ごと落とした。子供のために提供するはずだったクッキーは皿が音を荒げると慌てて廊下を走ってどこかへ行ってしまった。



 ファストは何もしてあげることができなかった。

 どうしていいかわからなかった。

 どう対処して丸く収めればようのかわからなかった。


 ミナはゆっくりふらつきながら起き上がると泣きながら部屋を出ていった。

 チビは泣き続けた。

 イムはごめんと言ってチビの所へ駆け寄った。

 ハンカチを出してチビに手渡しし、チビの隣にいてあげていた。

「わたし誰からも嫌われたくなくて、いつもそう思ってるにゃ。」

 ファストはかすかに聞こえた。チビがそう喋った気がした。



 お手伝いさんの誘導ですぐここに男二人と女一人が駆け付けた。

 一人は剣聖様だった。もう二人は。


「私はこの城の責任者を任せられている者です。」

「私はお手伝いさんを総括する役職を与えられている者です。」


「せっかく来たもらったのにうちのミナがそんな思いにさせて悪かった。君たち、私たちが詳しく事情を聞こう。どうしよっかな。ここでいいか。じゃあそちらに一度座っていただこう。」

 剣聖サントッシュ・ブラウンはそう言った。


 こういう雰囲気はファストは苦手だ。

 前世からずっと。




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