9話 人間関係 (転)
さぁファスト君!今日から私が君の魔術を指導するよ!君はこれから優秀な魔術師になるんだ!」
サントッシュは広大な草原でそう言い聖剣を引き抜いた。
刀身が白く輝き緑と青の光が剣の周囲を巻いている。
「城の魔術師が練習をする場所も貸し切れるようになった!これで君を鍛える設備は十分さ!」
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サントッシュが作ったプランはこうだ。
剣聖がいるのだからもはやファストの魔力量などきにする必要なはない。なので地形が変化するなどといったことはきにせずの魔力をたくさん放てばいい。そうすることで徐々にファストの身体も慣れていく。制御の術を学ぶのではなく、単純に身体を慣らして強くする方法をとった。
「ファスト君、全力で魔力を打ち込んでくれ。繰り返していくうちに身体がなれていくはすさ。あたり一帯は崩壊しないように私が対処する。」
(たのむよ・・・。マジで。)
頭の中で呪文を3つ組み合わせていく。
しくみはよくわからない。
魔力のかたまりに意識が向く呪文
魔力を動かす呪文
魔力を放つ呪文
感覚的にはボールを拾って投げる感覚と同じである。
右手が激しく震えた。
左手でしっかり押さえたが右手の平に激しい痛みが走った。
その痛みの中心から滝のようにして透明の液体が轟音を立てて放たれた。
「エグスティクト」
そういうとサントッシュは空を舞って魔力の後を追うとその剣先を向けた。
半透明の物体が目の前に巨大な円を形作るとその魔力をいとも簡単に吸い込んでしまった。
ファストはその場で気絶してしまった。
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真っ暗な闇の中で目がさめた。
あたりは真っ暗で何も見えないが何かがあるような気がした。
多くの人間の声が聞こえてきた。
しかし複数集団あるらしい。
「UNADP!UNADP!」
(はて、、、そういえばあの時なんか聞いたような・・・)
「UNADPをつぶせ!」
「科学こそ絶対なのだ!」
「あいつらを・・・・」
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目が覚めると目の前にはサントッシュの顔があった。
「どうだい?」
「なんか、不思議な夢を見た気分です」
「そうかそうか。夢をみていたのか。」
「身体が疲れてなかなか力がはいらないです」
「かもしれないね。今君の身体は耐えきれない量の魔力で身体がボロボロになっている」
「これから毎日こんな感じですか?」
「しばらくはこんな感じでやっていくよ。」
「私がいれば周囲に甚大な被害が及ぶことはない。魔力に身体が耐えきれるようになったらオーガナイツ家が魔術を教えてあげよう」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
(お母さんが一生懸命に呪文とか色々勉強しなおしたのに水の泡になっちゃった)
(さっきのUNADPってたしか電車で事故死する前に頭に浮かんだ言葉。今になって思いださせられたけど・・・。まぁいっか関係ないさ)
そう思っていたときだった。
サントッシュは剣をしまうと振り返って巨木を向いていった。
「君、そこにいるのはわかってるよ」
サントッシュがそういうと巨木の中からチビがでてきた。
その耳をペタっと伏せた状態で秘密基地からでてきた。
「君は人獣族の娘だね。ミックスブリード家の娘だね」
チビはその耳をピンと立てて驚いた。
「なんで私の家名を知ってるにゃ?」
「コタンの国の諜報機関を舐めないでほしいな」
「にゃにゃ!でも私は悪くないにゃ!」
「そうだね。君はペルシア家の策略によって国を追い出された身だし、悪い事は全くする気配はないし、」
少し間を置いた。
「今ではミナのよき友達だ」
「急になにを言うにゃ!急に諜報機関とかって名前だしておいておどかさないでほしいにゃ!」
「すまなかったよ。でももしなにか怪しい行動をしたらすぐに諜報機関が動くから気を付けてね」
「そんなんわかってるにゃ!」
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(そういえば、ルナとローが夕食の時に話していた気がする。)
「おいロー、この世界はな、数千年間戦争がなかったがな。一部界隈ではもしかしたら戦争が起こるかもしれないって噂ああるんだ」
「それって作り話なんじゃないの?」
「いや、それはわからない。俺の大学時代の友達が言ってたんだが、今コタンの国では3つの特殊な機関があるらしい。一つ目は『リ・テレトランス』二つ目は『アルファ大隊』これらは特殊部隊つってとにかくめっちゃ強いらしい。三つ目は『東国支部超諜報部隊』これが諜報機関てやつらしい。数千年間保たれてきた平和の秩序が何者かによって乱れてきているらしい。だから今世界中で秘密裏にスパイを送りあっているんだとか」
「すごい壮大な作り話だね。だって剣帝教徒の教えに『すべての人間は国家間で戦争を起こさないようにあらかじめ神々によって作り出された』って書いてあったもん」
「そうなんだがな、それらを無視するとんでもない人類が今動いているらしい」
「そしてここからがおもしろい」
「ある壁の向こうには、雲より高い建物が密集している街があるらしい」
「もっと教えて」
「おーっとだめだよ。人に言い過ぎたら首が飛ぶって言われたからな。実際に首が飛んだやつもいるらしい。どういうるルートの話かはわかんないが、いわゆる超国家秘密ってやつかもな」
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ファストは何か不穏な予感がした。
しかしそんなのは一時的なものですぐにどうでもよくなった。
それからしばらくの期間中、この基礎練習が続いた。
毎回毎回意識が飛んでは目覚める毎日だった。
「今日は気絶しなかったね。成長したね」
ある日から気絶することはなくなった。
右腕も次第に安定するようになっていった。
数カ月という途方もない時間がかかったが、確実に成長していた。
そしていつも魔術の練習が終わると城の練習場へ行って剣術を教えられた。
身体能力が低くてたいして成長することはなかったが。
「そろそろもう左手で押さえる必要もなくなった」
その期間
「あーあ、みんなあそこにいるよ」
ミナは双眼鏡を片手に城の最上階からかすかに見える三人を眺めていた。
イムはすっかりミナとはまるで別居状態で生活していた。
ミナは孤独だった。
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「じゃあそろそろ城の庭で練習するか」
「今日も剣を振ったり、運動したりとかですか?」
「いや、今日は魔術を使おう」
「えっと・・・。さっきみたいに打つんですか?」
「そうさ。もちろん。もうそろそろ3.4発くらいは打てると思うよ」
「城じゃなきゃ・・・・」
ファストは言いかけたが言うのをやめた。教えてくれる師匠にはしっかりついていかないといけない。素直に話を聞けないやつは好かれないし、成長はない。
「なによ・・・。あいつら。」
ミナは今日も小さな声で羨ましさに嘘をついて強がった。
「私は見てきたわ。知ってるわ、、あいつはすごい。ただの平民ではない」
「あんな化け物、私が剣を持って全力で立ち向かっても百戦百敗。」
ミナは締め切った花柄のカーテンの隙間に指を入れてファスト達三人を見つめた。
「さあ俺に向かってその魔力をおもいっきり打ち込んでくれ」
突き出した右手にはみるみるうちに大きな魔力の塊を形成していく。いづれファストの顔よりも大きくなり放った。サントッシュがいつものように魔力を吸収して無力化するが、その威力故に木や花が強風に煽られて城さえも細かく震えるようにして風が吹き荒れた。
その時2階の窓が開いて金髪の少女が顔を出した。
「ちょっと、なにしてるのよ!あぶないでしょ!」
「あっミナ」
「うるさい!こっちみないで!」
ミナは顔を赤らめてそう言うと窓を閉めた。
「ミナにゃんね」
「うんミナ」
「ミナ」
「もうなによ。私だってあそこにいきたいのに。今度考えよう」
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「はぁ今日も魔力けっこうつかって疲れました」
ファストは庭に座り込んでいた時のこと。
(うわ・・・。なにしてんの)
ミナは仮面をつけた状態で庭へやってきた。
灰色で目と口に穴があいた仮面。猫耳を表す突起までついていた。
「はーいみんなーお隣さんちのナミだよー元気にあそぶにゃーん」
「ミナちゃん可愛いにゃん!」
チビがそういって庭で転がるとミナは可愛らしい声を出して城の角に隠れてしまった。
チビが笑顔でゆっくりと城の角まであるいて顔をだすと
そこには赤い顔に目が潤んだ状態でマスクを両手に座り込んだミナがいた。
今にも泣きだしそうな赤面のミナは上目遣いでチビを見上げた。
もう素直になれないミナちゃんにゃ
「ミナちゃん、私たちのとこくるにゃ」
「やだ、はずかしいしなさけないもん!」
「みんなミナちゃんに会いたがってるにゃ」
「ふぁ・・・ふぁ・・・ふぁすとくんがそこにいるんだよね」
「いるにゃ。いくにゃ」
「あやまらないと・・・でもあやまりかたわかんない」
「ごめんなさいにゃーっていうにゃ」
赤面状態のミナは下を向いた。
「ご・・・めんな・・・さい」
「そうにゃ」
チビがミナの手を引くと立ち上がった。
「にゃん」
ミナは小さい声でそういった。
「あっミナがこっちに来ました」
チビはミナの手を引きながらファストの前へ来た。
感情の高ぶりで今にも泣きだしてしまいそうな潤んだ目。
そしてミナは言った。
思い切って、勇気を出して、大きな声で。
「ファストくん!見下しちゃってごめんなさいにゃん!」
(・・・!?)
場がしらけるとミナはその場で泣き出してしまった。
しゃがみこんで顔を手で押さえた。
サントッシュは困った様子で笑っていた。
チビはミナを優しく抱きしめてファストはそれを見ていた。
ミナも結局10歳目前の幼い子供なんだという事を実感した一連の流れだった。