チートな「明日のナージャ」
ここはと中世ヨーロッパのある国の何も取り立てて特徴のない孤児院、
その日暮らしていくことができず、教会の運営する孤児院の扉に
数日に一人、また一人と置いてゆかれる。
孤児院は手いっぱいで、パンを奪い合う毎日だ。
私、主人公アリーシャの唯一の楽しみは絵を描くことだ。
わずか5歳にして、鏡に映したようにそっくりな人物画や風景画が描ける。
紙と墨を購入して絵を描いて売る。それだけでかなりの儲けになった。
私の画力は町中で評判だった。
「ねえ、アリーシャ。お金貸して!銀貨7枚!」
孤児院のシスターさんが食費をねだってくる。
私がいなければここの孤児の大半は栄養失調で命を失っているだろう。
「しかたないなー。かなりの貸出額になってますよ。はい」
そう言って私は財布袋から銀貨を7枚取り出して渡す。
私にとって金貨も宝石も本当の財産ではない。
何者にも奪えない絵の才能、それが私の本当の財産だ。
強盗も奪って行けはしない。
そんなつつがない毎日が続く中ある依頼が舞い込んできた。
この国の王女が神聖帝国の妃の候補に挙がっているらしい。
幼いころは見目麗しいそれはかわいいお姫様だったらしいが
今はただのブタに近い。口に出しては言えないが。
アナスタシア姫のお見合い用の絵を描いてほしいらしい。
超美化した形式で・・・
首都の王宮に呼ばれた私はアナスタシア姫を見て、お見合いなどしても断られるのは
必至だと思ってしまった。なんでも、帝国の有力貴族の令嬢の容姿が平凡なので
花嫁候補がみんな不細工な人物にされてしまったらしい。
かわいそうな王子様。まだ8歳では美醜などわからないだろうけど。
この国でも名の知られた私は子供が描いた絵なら、実物とかなり差がある絵でも
許されるだろうという理由で呼ばれたらしい。この国にもメンツがある
第一王女が ドブスいやすごいデブなどと喧伝したくはない。
それ故私に体裁の整った、断られる人物画を描いてほしいという依頼だ。
一介の絵師に王が会うはずもなく、対応したのはサマセット公爵という人物だった。
「君がアリーシャか、五歳にして天才的な絵を描くという。今描いている絵も
金貨数枚で売れるらしいが、王族の見合いの絵を描いたとなれば金貨数百枚で
売れるようになる可能性もある。悪い話ではないと思うが?」
そう肩を落としながら語りかけてきた。
「あ、それはもうはい もちろんお受けさせていただきます。」
「本来なら期先に慣れれば王国としても最良なのだが、あの容姿・・・」
がっくりと肩を落とす。
「えと、私に考えがあるのですが?」
「なんだね。あの姫君が選ばれるとでも?」
「はい、お姫様は太っているだけで、容姿は非常に優れた方だと思います。
選ばれてもお顔合わせは3か月以上後、そのあいだにダイエットをすればよいと思います。」
「絵はどうするんだ?」
「想像上の人物を描きます。未来のお姫様を、痩せてきれいになったお姫様を!」
「なんと、そんなことが可能なのか?国王陛下にお知らせしなければ。」
そういうとサマセット公爵は退出していった。
王女殿下の私室に通された私はさっそく行動を開始した。
「王女殿下、覚悟さえあれば必ず痩せる方法がございます。」
キョトンとした顔で七歳の姫君が五歳の絵師を見つめる。
「食事制限や運動など手を尽くしましたが、一切効果はなかったです」
私は拷問に近いが必ず痩せる方法を知っていた。
「一日五時間、お風呂にお入りくださいませ。お水は飲んで結構です」
「まあ、何て素敵な。湯浴みをするだけで痩せるのですか?」
「はい、ただし一日五時間絶対に出しません。上にふたをしておもりを置きます」
翌日からさっそく開始した。
「湯浴みは大好きです。」
私は湯の温度を冷めた紅茶程度にするように指示していた。43度程度だ。
「あのう、体がむずむずするのですが出していただけませんか」
30分もするとお姫様が出たそうにするが、首のまわりを除いて分厚い板が敷いてある。
出れるはずなどないだろう。
「出してください、出して」
1時間もすると限界が来たようで暴れだした。
「アリーシャ様、これ以上は拷問です、おやめください」
「国運をかけたお見合い。やめることなどできません!」
私は言い放った。
5時間後湯浴みから出ると、4㎏程体重が落ちていた。
水を2リットルほど飲ませるとそのまま爆睡してしまった。
翌朝も馬のように暴れる姫君を騎士が引きずって、湯浴みに連れて行く。
2か月もすると同年代の女の子よりも痩せているくらいに体重が落ちた。
うむ、私の描いた人物がそっくりだ。わが画力が恐ろしい。
お姫様は1か月すると神聖帝国の宮殿に呼ばれ、見事花嫁候補となったらしい。
私はその功績をたたえられ、1代限りではあるが伯爵を称することができるようになった。
ここに、裕福で、爵位を持った、
画伯アリーシャの冒険が始まる。